第12話 純血のプライド
その頃式町家は大混乱に陥っていた。
屋敷中を使用人たちが慌ただしく駆け回っている。その様子を烏や猫など動物たちだけがのんびりと庭で眺めている。
それもそのはずだ。
本来なら嫁ぐべききよがこの屋敷に残り、そして残るはずのつむぎの姿が見当たらないのだから。
「嗚呼!お父様!あいつが!つむぎが私の荷物を持って出て行ったわ!」
きよが涙を流しながら義父に泣きついていた。
当然、芝居である。
一応つむぎが勝手にきよの婚姻を横取りしたという形をとるため、このような芝居をうったのだ。
きよの報告を聞いた義父は顔を青くした。
「なにっ!?」
そして慌てて使用人に命令する。
「今すぐに連れ戻せ!」
「お父様!!」
きよは慌てた。もしつむぎが呼び戻されたらせっかくの身代わりが台無しになる。何としても義父にはここで諦めてもらわねばならない。
「いいじゃない。あいつで。私は行きたくありませんし」
「きよ!」
しかし義父は血相を変えて怒鳴りつけた。いつもはきよを甘やかし、何でも言うことを聞いてくれる義父なのに、何故かこの婚姻だけは譲ってくれない。
それがきよには腹立たしかった。
何故思い通りにならないのか。
いつもならすぐ聞いてくれるのに。お願い事も我が儘も何でもきよの言うがままなのに。
きよは納得できなかった。
しかし、義父は必死の形相できよに縋りついた。
「こ、これは!これはお前のための婚姻だったんだぞ!!」
「まあ。どういう意味ですの?」
「そもそも!この婚姻はあいつに来ていたんだ!!だがこんなにいい話はそうない!!落ちぶれた式町家の再興のためには!!格式高く、能力の高い金城家との婚姻は絶好のチャンスだったのだぞ!!だから私が!!お前のために策を巡らせたというのに!!くそ!くそぅ」
きよは表情を歪めた。何もかもがきよには気に入らない。
式町家のためと言いながら純血を捨てようとする義父の考えも。
格式高い金城家の婚姻話がきよではなくつむぎに来たことも。
そして何よりもきよの我が儘が通らないことが。
ーーつむぎに婚姻の申込?何の間違いかしら。いや。それよりも……。
きよは項垂れる義父を見下し、軽蔑した視線を向ける。
「お父様」
そうして我が儘を言う子どもを宥めるように優しく、きよは語りかけた。
「勝手なことしないでくださいな。私はこの家の当主となる存在。純血を守る存在ですのよ?あなたがやっていることは一族の恥だわ」
自分が正しいと信じて疑わないきよの真っ直ぐな笑顔に、義父は絶望した。狂気にも似た純血主義のきよの笑顔は、式町家の滅亡を予感させた。
ーーお父様はもうダメだわ。私が式町家を何とかしなくては。
しかしその事にきよは全く気がついていない。
彼女は心の底から、純血を守ることこそ、自分に課せられた使命だと感じていた。
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