第41話 術師

黒いモヤは容赦なく二人に降り注いできた。しかし何かに弾かれ、黒いモヤは霧散していった。

 リヒトが術で守ってくれたようだ。

 リヒトはつむぎから離れ、キツくきよを睨みつけた。


「俺のつむぎに何てことをする」

「私は悪くないわ。貴方がいけないのよ?つむぎ』


しかしきよは全く悪びれた様子がない。自分が悪いなんてこれっぽっちも思っていないのだ。悪いことは自分ではなく、全て周りのせいだと思い込んでいる。そして、今の標的はつむぎだった。


「貴方が反発せずにリヒト様をくれれば、こんな事にはならなかったのよ。貴方もお父様も、本当ダメなんだから』

「きよ様……」


つむぎはリヒトから離れ、ゆっくりときよに歩み寄って行った。リヒトはそんなつむぎを止めようと手を伸ばしたが、つむぎの真剣な表情を見て、その伸ばした手をおろした。


「きよ様。私はきよ様が羨ましかったです。可愛くて、品があって、私の憧れでした。だから一緒に術師の勉強ができるのが嬉しかったです。きよ様に追いつきたくて、とても頑張りました」

「え……?』


つむぎはきよに語りかけた。きよは想像もしていなかったのだろう。少し狼狽えていた。


「私には、きよ様の抱えている重圧は分かりませんだから、私が邪魔なんだろう、て思っていました。でも私」

「聞きたくないっ!!!』


きよはつむぎに向けてまた黒いモヤを放った。しかしリヒトがそんな事させない。つむぎの周りには先程と同じようにリヒトの術が守ってくれていた。


「きよ様お願いです。聞いてください。私、リヒト様は……リヒト様だけは譲れません」

「嫌あぁっ!!!』


きよは頭を抱えてうずくまった。


「違うちガう。そんなわけないわ。あんたは私の地位を狙ってる。そうに決まってる。でも私は選ばれた!この力に!この力があれば!!私は式町家の期待に応えられるのよ!!!』


きよから先程とは比べ物にならないほど大きな黒いモヤが吐き出された。その膨大なモヤの量はリヒトの術でも防ぎきれなかった。


「つむぎ!」


リヒトは咄嗟につむぎの腕を引き寄せて、力強く抱きしめた。あまりの力強さにつむぎは息苦しくなる。


「ぐっ」


しかしリヒトのうめき声を聞いて、つむぎはリヒトの腕の中から離れた。見ただけでは怪我などしていないように見えるが、黒いモヤに当てられて息苦しそうにしていた。


「リヒト様!」

『きゃはははは!弱い、弱いわ!やっぱり私は強いのよ!』


きよは楽しそうに笑ってつむぎとリヒトを指差している。つむぎはそんなきよを睨みつけた。


「リヒト様を攻撃するならきよ様だろうと許しませんっ!」


きよはつむぎの態度に不機嫌そうに顔を歪めた。


『私より下のくせに何言ってるの?』

「きよ様。私を貶めたところできよ様の価値は変わりません」

『っ!』

「きよ様は素敵な方です。でもその力に手を出してしまったきよ様を、術師の私は許すわけにはいきません」


つむぎの鼓動は今までにないほど早く脈打っていた。

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