第3話 抗えない命令
「信じられない!」
きよは怒り狂っていた。障子を破り散らし、部屋の中は泥棒にでも入られたかのような散らかり方をしていた。
そんな部屋の隅で、つむぎは頭を下げて小さく丸まっていた。きよはそんなつむぎに向かって部屋中のあらゆる物を投げつけていた。
「我が式町家がどれほど由緒正しい家柄か!お父様はわかってないんだから!」
はあはあと息を切らして、怒鳴り散らしているが、それでも気分がおさまらないらしい。手当たり次第に投げつけ罵詈雑言を浴びせていく。
つむぎはただただ黙って耐えた。逆らうともっと酷い目にあうと分かっているからだ。
しかし、終わりの時は唐突にやってきた。
きよの手がぴたりと止まったのだ。
つむぎは何事か起こったのかと、恐る恐る顔を上げた。
「そうよ……」
そこには不敵に笑うきよがいた。その表情だけで何か良からぬ事を考えていることが分かる。
「あんたが行けばいいのよ」
「え……?」
それは先程義父から駄目だと言われたはずだ。つむぎはきよの言っている事が分からなかった。
しかしきよは本当にいい案を思いついたと思っているようで高笑いしながら椅子に座った。
「あんた、頭悪いわね。分からない?お父様達はああ言ってたけど、金城家の当主と言えばブサイクって有名なのよ。半端者のブサイクが私に釣り合う?笑わせないでほしいわよね。でも式町家よりも位が高い金城家に歯向かうなんてできない。だから嫁ぐしかないのよ」
それはその通りかもしれない、とつむぎは思った。
「でも私は式町家の当主となる存在。あんたと違って純血なのよ。だから私はこのまま純血を守っていく必要があるのよ」
きよにとっては純血であることこそが誇りであり、必要な事なのだ。
「だから私じゃなくて、あんたが行けばいいのよ」
きよは椅子にふんぞりかえって座る。その姿はまるで御伽草子に出てくる悪女を彷彿とさせた。
「あんたが金城家との婚姻を私から奪って、勝手に、一人で、嫁ぎに行ってしまうのよ」
「……え?」
きよが何を言っているのか、つむぎはすぐに理解できなかった。
金城家に嫁ぎたくないきよが、つむぎが悪者になってきよと金城家の婚姻を奪う形で身代わりになれ、と言っているのだと分かった時、言葉も出なかった。
きよはつむぎの事を都合の良い存在としてしか見ていない。そうして捨て駒のように嫌な事を押し付けるのだ。
「私の身代わりになれるんだから喜びなさい」
だが、きよにとってつむぎが捨て駒である事は当然の事なのだ。なんせ純血かどうか分からないのだから。
だからこそ答えなんて決まっていた。
いや、そもそもつむぎに選択肢はなかった。
「かしこまりました」
つむぎはゆっくりと、そして深々と頭を下げた。
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