第43話 成れの果て

つむぎは、言葉を失って、きよを見つめていた。しかしきよと視線が合うことはない。

 疲れ果てた表情に虚な瞳のきよは、つむぎの姿なんて見えていないのだろう。つむぎはそれが悲しくて、じんわりと目頭が熱くなった。

 リヒトはそんなつむぎの隣で、優しく肩を抱き寄せた。

 今のつむぎにリヒトがいてくれるように、きよにも優しく寄り添ってくれる人がいたら、今とは違う未来もあったのだろうか。けれど、それをいくら考えてどうしようもない。

 つむぎはリヒトの肩にそっと頭を寄せた。リヒトはそんなつむぎの頭を優しく撫でてくれた。


「私……きよ様を信じようと思います」

「酷いことされたのに?」


リヒトは少し驚いていた。

それはそうだろう、とつむぎは苦笑した。


「はい。だってきよ様も私ももう両親がいませんから」


だからこそ辛さや悲しさが分かる。きよが正気に戻って、自分で父親を殺したのだと知った時にそばにいてあげたいと、つむぎは思った。

 リヒトはため息をついた。


「つむぎは優しすぎるな」

「そんな事ありませんよ」


つむぎがきよを追い詰めてしまったのではないかと、ずっとずっと不安だった。だからこれは罪滅ぼしのつもりだったのだ。

 優しさのつもりは、つむぎにはない。


「そうだな。彼女は一人だからね。待ってあげよう」


リヒトの言葉に、つむぎはゆっくり頷いた。

 そしてきよの手を握った。

 勿論、きよの反応はない。いつまでも呆然としたきよの様子に、つむぎは不安でいっぱいだった。本当はきよも魂が抜け落ちてしまったのではないかと疑っていた。

 けれど、きよの手はまだ温かさが残っていた。

 その温かさが、きよは確かに生きているのだと実感させてくれた。


「きよ様、お待ちしています」


つむぎは優しくそう語りかけた。きっときよの耳には届いていない。それでもつむぎは真っ直ぐきよを見つめた。

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