第34話 元通り
「っき、きよ様」
きよは笑っていた。その笑顔が、つむぎは怖くて仕方なかった。
きよが言いたいことは分かっている。
この後にいう言葉も、聞かなくてもわかる。
「探したわ。それにあんた、いつもリヒト様と一緒にいるからなかなか話せなかったじゃない。おかげで手間がかかったわ」
きよは困ったようにため息をついた。
「まあ今会えたんだからいいわ。さあ、入れ替わりましょう」
きよの言葉につむぎは心が締め付けられた。
断れない。けど断りたい。
何よりきよが怖い。
それでも。
「い、いやです」
つむぎは拒否した。手足は震え、汗も異常なほど出ているが、勇気を振り絞って声を出した。
そもそもつむぎはきよが嫌がったから身代わりでリヒトに嫁いだのだ。今更元に戻ろうなんて、都合の良い話である。
そう言いたかったが、さすがにそこまで反論する勇気はなかった。
「はあ?」
きよは令嬢とは思えない顔をした。歪みまくった表情でつむぎを睨み、怒りに任せて胸ぐらに掴みかかって来た。
突然のことでつむぎは反応できなかった。まさかこれ程怒るとは思わず、悲鳴も出なかった。
「昔からあんたはそう。ずっと目障りだったわ。みなしごの分際でおめおめと式町家の敷居を跨ぐだけでも不快だったのに私と同じように術師の勉強をさせてもらって何様のつもりなのかしら。それでまた邪魔するわけ?」
「み、身代わりなの、は、きよ様の、指示で」
「五月蝿い!」
きよはつむぎを壁に押し付けた。令嬢とは思えない力強さにつむぎは次第に息苦しくなっていく。
「あんたは出て行くのよ。いい?」
きよはまさに鬼の形相だった。
ーー嫌なのに。嫌なのに……。
きよが怖い。今まで虐げられてきたつむぎは、きよに逆らえない。なけなしの勇気も、鬼のようなきよの前では出てこない。
ーーリヒト様……。
愛しい人の名前を心の中で呟く。
それは、つむぎが覚悟を決める為だった。
もう二度と、リヒト様と寄り添うことはできないだろう。リヒト様と呼べることは無くなるのだ。
けれどつむぎがリヒトと肩を並べる術師になれば、リヒト様と一緒にケカレと戦うことが出来るようになる。
それがつむぎの希望だった。
だから、つむぎは頷いた。
「ふん。さっさと言う通りにすればいいのに。お父様もあんたも本当ダメね」
きよはようやくつむぎを解放した。つむぎは息苦しさから解放されてゴホゴホと咳した。
そんなつむぎをきよは冷たく見下ろしている。
「あんたが持ってるもの、全て渡しなさい」
「全て?」
「服も髪飾りも全てよ。それはもともと私のものなんだから」
きよに引っ張られて、つむぎは誰もいない部屋へと押し込まれた。
「さっさと脱ぐのよ」
「……はい」
大丈夫。だってつむぎにとっては元の生活に戻るだけなのだ。それに、今は目標もある。
そうしてつむぎは金城家から出て行く事になったのだった。
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