Finalステージ:選択

5-0:アカイハコ ~吾禍御白狐~

 藤宮、飯田、犬上、そして天童ら4人は最終ステージを前にキサラギと対面した。彼は4人についてこいと言わんばかりのジェスチャーをした。彼の表情は読み取れず、4人は困惑するもしぶしぶついていくことにした。前に進んでいるはずなのにずっと赤い壁が続いているため、自分が歩いているのにそこで立ち止まっているような錯覚に陥りそうになっていた。


「なあ。今更だけど、ここなんなんだよ」


「そうよ、ちょっとは説明しなさいよ!」


「そうですね。少し、気になります」



飯田、犬上そして天童の3人はアカイハコについて、少し気になっているようで質問を投げかけるもキサラギは沈黙を貫いていた。


吾禍御白狐あかみはこ......」


「は?」


藤宮の唐突な言葉に飯田たちは首をかしげるも、その言葉にキサラギは反応して振り返らずにそのまま歩きながら語った。


「その名をよくご存じですね......。いいでしょう、少しお話しましょう」


そういうと、彼らにキサラギが立ち止まり、参加者に質問し始める。


「その前に、皆様に問います。皆様にとって『幸福』とはなんですか? 大金を手に入れることですか? それとも、かけがえのない友人でしょうか? それとも知識?」


「急になんの質問ですか? その話と、先ほどの固有名詞と、どう関係があるのですか?」


「いいって、とりあえず答えてみようぜ」


飯田が天童に回答を促すも、彼は少し答えをためらった。


「ですが、幸福というのは......」


天童が下を向いて立ち止まると、キサラギは彼の方に振り返って向かって来た。


「そう、考える人間の価値観によって違います。そして、それを得る方法も様々。その中で、あなた方は特に『自分の幸福を感じるためには他人の犠牲をも厭わない』人たちだ。つまり、私好みの参加者です。私はあなた方だからこそ、あなた方の期待に応えたい」


そういうと、犬上が彼の言葉に疑問を持ち始めた。


「ちょっと待って。 じゃあさ、あんた好みじゃない人が勝ちあがってきたら叶えるつもりなかったの?」


「ええもちろん。私と、吾禍御白狐あかみはこ様の幸福に応えなかったものには幸福は訪れません。幸福とは等価交換なのですから。幸福を勝ち取るには、他人に幸福を与えなければならないと私は思っています」


「それで、なんなんですか? その吾禍御白狐あかみはこというのは」


天童が聞くと、キサラギは藤宮に顔すれすれまで近づく。


「それを知ることがあなたの幸福というのなら、このゲームで勝ち残ってください。たとえ、他人が犠牲になることになろうとも......。それでは、思う存分、自分の願いのためだけに戦ってください」


そういうとキサラギは、天童からゆっくりと離れていきキサラギ自身のスマホを取り出して説明を開始した。


「それでは最終ステージを始めます。これから、私と【かくれんぼ】をしましょう。もちろん、みなさんが鬼です。この部屋と似たような正六面体の部屋3×3×3の27部屋のうち一部屋に私が隠れますので探してください。ですが、27部屋のうち罠がある部屋もあります。それは一度入ったら最後、戻れずに死んでしまう即死罠です。そこへ行かないようにしながら私を探してください。以上です。見事、生き残った方全員の願いを叶えてさしあげます」


そういうとキサラギは続けて定型文のように


「それでは頑張ってください」


と言い残してどこかへと消えていった。


4人は少しお互いを見合った後、自分たちがいる部屋を捜索した。

四方ある壁のうち、二か所には次に通ずるドアがあった。一方は彼らの目線の先。もう一方は彼らの左手にあった。天井を見つめると、上の階へと続く梯子がおりていた。


「行ける場所は、3か所......。こんなとこで足を止めてても仕方ない、よな?」


飯田は前へ進み、自分の目の前にあるドアを開きながら他の3人を見つめた。

藤宮はドアの向こうへと歩き出そうとすると、天童がそれを止めた。


「ちょっと! なにしてるんですか! 自殺行為ですよ!」


「離してよ! もうこんなの嫌だ! 死んでもいい! こんなゲーム、もうやりたくない!」


駄々をこねる姿に、犬上は少しイラついた表情で、天童から藤宮を奪い取り彼の前髪を掴み強引に引っ張る。


「いいかい、少年。あんたも、私らも後戻りできないとこまできてんだよ! 自分の願いのために人を欺いて、殺して!! そんでやっとチャンスが巡ってきてんだ! あんただって、それくらい叶えたい願いだってあったはずだろ!? 今更、正気に戻んな! 人を殺してまで得たいと思ったもんは、死ぬまでもがいて手に入れなさいよ!」


犬上の言葉に、飯田がさらに冷たい態度で追い打ちをかけていく。


「そんなやつほっといて、俺たちはさっさと行こう。俺はまだ、死にたくないし願いを叶えて幸せな生活にしたい。死にたいなら勝手にしてろ。俺は先に進む」


飯田は自分が開けたドアの向こうの部屋へとくぐった。部屋の真ん中まで向かうも、部屋はしんと静まり返っていて罠などは発動しない様子だった。犬上、そして天童はそれを追ってその先へと進んでいく。ドアは閉まり、藤宮は一人初めの部屋に取り残されていた。


「僕は、どうすれば......。僕だって友達をいっぱい作って幸せになりたい。それなのに、目の前で人が死んだり、人を殺したり......。人を殺してまで、僕は友達が欲しかったのか? 殺した人間も友達にしたいなんて、頭のおかしい考えをして自分を騙して......」


藤宮は部屋の中でうずくまるも、静けさと孤独感に苛まれていく。それが余計に自分がゲームの中でしてきた悪事を思い起こさせてしまい、彼は頭を抱えて半狂乱になる。



「......嫌だ! やっぱり一人は嫌だ!! こんなところで立ち止まって死にたいわけじゃない!」



藤宮は立ち上がりドアを開けて、飯田たちの元へと向かった。

そこにキサラギはいなく、飯田たちが立ち往生していた。


「あんた、来たのね」


「うん。僕だって、ここまで来たら、幸せを掴みたいって思ったから......」


藤宮の言葉に犬上は微笑み返した。

天童と飯田は、彼を無視するように次の部屋を探していた。

この部屋にあるドアは先ほど通ったものを含めて4つ。

うち3つは、奥へと続くものと、左方向へ行く道と、2階へ続く梯子だった。

飯田が奥へ続くドアを開けて様子を見た後、藤宮の方へ振り返りぽつりと言い放つ。


「マコ、お前が鉄砲玉になれ」


「え? て、鉄砲玉?」


「ヤクザ映画でよくいる、先陣を切って相手陣地に殴り込みに行く人のことですかね。要は、先に部屋へ行く役割ということですか? 彼に行かせて罠があるかどうか調べようという魂胆ですか......。また嫌な役割を......」


飯田は鼻につく話し方を続ける天童に、余計なことまで言わなくていいと思いながら眉を顰めるも、彼には届かず首をかしげるだけだった。


「はぁ。まあ、そういうこった。 別に生きたいって思ってないんだろ? 次の部屋調べてこい」


「や、やだよ! 飯田君が行けばいいじゃないか!」


「てめえ、さっきは死にてえって言ってたくせに! ......なんなんだよ」


「そうだけど! 僕はまだやり残したことがあるんだ!」


藤宮と飯田は部屋と部屋へ続くドアの狭間でお互いに押し合うも、一向に決着がつかなかった。瞬間、飯田の蹴りが藤宮の足元に当たり、藤宮はそれを回避しようとしたものの彼の履いていた靴が踏まれて吹っ飛んでいった。


「あ! 僕の靴が!」


藤宮が取りに行こうとした瞬間、その部屋は檻のようなものが素早く降りてきて完全に閉鎖状態になっていた。藤宮はなんとか体を引っ込めたものの、閉鎖された部屋の右側の壁から爆弾がいくつも投げ入れられ、爆発が連鎖していく。破片が飛びそうになり飯田はすぐさまドアを閉めた。


「あんなトラップが、ランダムであるのかよ......。やべえな」


飯田はドアの横の壁にもたれながらずるずると腰を下ろして座り込んだ。

他の3人も彼とともに座り込んでいく。アカイハコで始まった即死罠付きのかくれんぼ。飯田たちは不安を抱えながらも、自分の願いを叶えて幸せを掴むために野心を燃やすのだった。












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