3rdステージ:デスゲームの本懐

3-0:アカイハコ ~密かに行われるゲーム~

 澁谷暴動事件は、報道陣も東京都民も記憶操作されてしまい、あったことさえ忘れ去られていた。キサラギがアカイハコが世に出回りすぎないよう根回ししたからだ。

そのため、都内はいつも通りの毎日が繰り広げられていた。参加者がいたということさえも忘れて......。


 一方、参加者たちはというと有名な青木ヶ原樹海とは全く別の幻の樹海へと転送されてしまっていた。不思議な力にはすでに慣れ始めていた参加者ではあったが、さすがに別の場所への移動は初めてであったため不安に駆られる者も多かった。彼らに課せられた新たなゲームは『殺人鬼ごっこ』だった。それはおそらく何の罪のない10名を参加者が殺すという恐ろしい内容だった。 アカイハコにはそのターゲット10名の名前と顔が乗せられた。


<ターゲット>

・鳥山 楓

・鬼村 響子 

・加藤 瀬奈

・鮫島 このは

・金城 玲

・武藤 樹

・尚野 玲央

・服部 紫苑

・小峰 絵美里

・丸山 勇樹



ターゲットの中にはデスゲームに参加していた小峰や丸山の名前もあった。また、アイドルとしても世間から追われる身となった赤星みどりの替え玉、加藤瀬奈も対象となっていた。このリストをいち早く見たのは他でもない、ターゲットとなった丸山だった。


「え......は? 冗談だよな? 運営に電話しないと!」


丸山はキサラギへ何度も電話するも一向に繋がらなかった。丸山は焦りつつも自分の持っていたキューブを取り出そうとした。だが、取り上げられたのかポケットに入れていたはずのキューブは見つからなかった。丸山はさらに焦りながら森の中を彷徨う。


「は、はは......。ふざけんなよ、ふざけんなよ!!」


「あなたが、丸山勇樹さん?」


汗だくになりながら走っていた丸山に、メガネをかけた小柄の男が話しかけてくる。男は丸山とは対照的に冷静で汗一つかいていなかった。


「だ、誰だお前!」


男は自分のメガネをくいとあげて、簡略的に自己紹介を始める。


「天童竜成、ただのクイズ王さ。でも今は人を殺すため、ターゲットを探していた。そうしたらあなたがいた」


「て、天童!? お前、最年少クイズ王とか言われてたあの!? いっぱしにデカくなりやがって......。でも俺は死にたくねえ! 死ぬわけにはいかないんだ!!」


「無駄なことを......」


丸山はかがんで土を掴んでは天童に投げつけた。天童は瞬間右手を覆ったものの、目の前には丸山は消えていた。天童はため息をつきながら1回戦でもらい受けたキューブから拳銃を取り出し歩き始める。


「人間はまっすぐに歩いていると思っていても、こういった同じ視界が多いと道を曲がってしまう。先ほどの土を投げた方が聞き手だとすると右利き。右利きは右に曲がりやすい。つまり、こっちに行けば最短距離で彼と遭遇する確率が高い」


天童は空で呪文のように丸山の行動を推測した後、その通りに進んでいく。すると、彼の推測は当たり、慌てふためく丸山の姿を捕らえた。天童は威嚇のため、彼の近くのある木へ一発弾丸を放った。


「なに!? もう追いつかれたのか!?」



銃弾の音に驚いた丸山は目を開きつつ、さらに奥へと逃げていく。誰にも遭遇できない孤独感に苛まれながらも丸山は誰かがいるであろう方へと走りゆく。だが、銃声はだんだんと近づいていく。


「拳銃なんて初めて使った。本での知識しかないものが体験できる。すごく胸の鼓動が早まっている。それに高揚感......。これが『楽しい』ってことなのか」


天童の銃撃は止まない。キューブから永遠に弾丸が供給されているため、彼は拳銃のマガジンに弾丸をセットして両手で構えて丸山に狙いをつける。だが、彼の射撃性能はひどく、また周りに森が多いため外すことがほとんどだった。


「な、なんなんだよ! 俺が何したって言うんだ!!」


 天童は少し汗を垂らし、丸山をとうとう追い詰めて足を撃った。

その衝撃で丸山は盛大に地面に転がっていく。


「う、うわああああ! い、いてぇえええ!!」


「観念して俺に殺されるんだな」


「て、てめえ! インテリのくせして殺人が楽しいのか!」


「確かに俺は、君らと違って昔から賢かったよ。でも、君たちみたいに挫折や緊張、不安なんて言葉は無縁だった。俺はそれが嫌だった。自分がロボットみたいになるのが嫌だった。だから俺は「自分にある知識を消したい」そう願った。でも今は、人を殺すという自分の知識外のことをして、不安を知った。緊張も知った。これを楽しいと感じずにいられると思うかい?」


「お、お前狂ってやがる!!」


天童は丸山の顔面に一発弾丸を撃ち放った。丸山の目は次第に生気を失い、瞳孔が開き始めた。丸山の死体は砂のように崩れ始める。


「こめかみにさえ撃てば人間は即死ぬ。常識だよね......。はぁ、また最速クリアしちゃった」


彼の言葉の後、天童は樹海から姿を消した。今回のゲームの成功者は、すぐに第4ゲームの準備室に転送される仕組みになっていたのだ。


【3rdステージ:殺人鬼ごっこ】


参加者 19 名


ターゲット残り 9 名


成功者 1 名

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