2-8:炎上ゲーム ~暴動スクランブル~
炎上ゲームは今日で残すところ1日となった。参加者の何人かは東京に集まり、赤星みどりの炎上騒動に乗っかり、彼女が所属していた事務所が主催するライブに乱入する計画を立てていた。それとは別に新興宗教『白聖会』も自分たちの信者を増やすために赤星たちがライブをする澁谷へと向かっていた。
この二つのグループが画策している事態など知らず、澁谷ではすでに芸能事務所「ライズアップ」がアイドルライブの準備を始めていた。
「小峰、お前大丈夫か?」
「大丈夫ですよ、堂本さん。私たちストレイキャッツはライズアップの看板アイドルですよ? 忘れました?」
「そ、そうだな......。そうだといいんだが」
小峰絵美里は彼女含む6人組アイドルグループのメンバーだった。逆に赤星みどりはライズアップでも現代でも珍しいソロアイドルでありながら女優でもあった。だが、彼女の姿はどこにもなかった。そのことはライブを取り囲む警察や報道陣も察していた。その警察官の中にはアカイハコの参加者でもある犬上も潜んでいた。
「やっぱ替え玉みどりちゃんいないなぁ。いたら面白かったんだけどなぁ......」
「面白いわけないだろ! さっさとトラックを誘導させろ、犬上」
「はいはーい」
犬上は警官の男に窘められ、スクランブル交差点の真ん中に置かれる予定のステージトラックを誘導していく。トラックの行く様を報道陣と様々な配信者たちが動画を回していく。その中には赤星みどりの秘密を暴露した張本人である丸山もいた。
「こんなときでもライズアップはイメージ回復のためにライブを画策したかぁ。でも、スクランブル交差点規制して何がしたいの? 普通に交通の便として使ってる人の事配慮できてなくなーい? SNS投稿と動画の内容はこれで決まりだな」
丸山がSNSでの題材を決めている一方、彼らのことなどまったく眼中になく犬上からの話を聞いて『白聖会』の乱痴気騒ぎを確認しようとしていた飯田がこの状況に困惑していた。
「な、なんなんだ!? これは......。 こいつらが、白聖会ってやつか? いや、違うな。また違うイベントでもやってんのか?」
一人、集団の外から見ているとまたも数人がスクランブル交差点にある人込みに入っていく。その一人が立ち止まる飯田に声をかける。
「はよせな、ええ席逃すでえ! 兄ちゃん」
「ええ!? っていうか、何が始まるんです?」
「ライブや! でももっとおもろいことも起こるで!」
彼の言葉に飯田は首を傾げつつたくさんいる人込みの中へと紛れ込んでいった。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
ライズアップのアイドルたちのファンたちやアンチが集いつつもライブが開催される中、古川率いる白聖会はいよいよ澁谷へと到着する寸前だった。彼らの行動は警察にも通達していない単なる布教活動という名の暴動である。本来であればこういった活動はどんな内容であれ警察に届け出を出す必要がある。それはアイドル達のライブでも同じである。そのはずなのにこの集団はなんの届け出なしに200人ほどの規模が練り歩いていた。
「もうすぐスクランブル交差点だけど、なんか人気が多いね」
北条雅樹が加藤瀬奈に笑顔を見せながら話すと、加藤は少し彼から離れて藤宮の方へ近づいて答えていく。
「え、ええ。そうね。誠くんは、この辺来たことある?」
「いや、ない。東京は初めてかも」
「君は出不精なんだなぁ。藤宮、それだから友達ができないんじゃないか?」
北条は藤宮に少し嫌味を言うと、藤宮は悲しそうな目をしながら下を向いた。3人が話していると、教団の女性がこちらを向いてたしなめる。
「こら。みなさん、宇宙が乱れるので集中してください!」
「す、すいません」
白聖会はライズアップが会場に選んだ澁谷スクランブル交差点へと向かっていた。その異様さに気付いたのは他でもない警察官の犬上だった。犬上は自分の上司に報告するわけでもなくその白い服の集団へとこっそり向かっていく。
「なんか面白そうな集団発見! これは手錠の出番かなぁ~!?」
犬上が白服の集団、白聖会に近づいて彼らを止めると一番前にいた女性が奇声を上げ始める。
「キイイヤアアアアアアアアアアアアア!!!」
「え? え? なに?」
「宇宙に従え!!」
白服集団が「宇宙に従え」という言葉を一斉に連呼しながらどんどんと犬上を押していく。その奇妙な光景に他の警官たちも参戦していく。警備が薄くなっていくライブ会場に乗じて各地から集まってきたライズアップのアンチたちが一斉にライブ会場へとなだれ込み、花火を投げ入れる。
「ライズアップは真相を隠してる! 今すぐこのライブを中止しろ!!」
「赤星みどりを許すな! 嘘を嘘で塗り固めたやつらを警察が守ってんじゃねえ!! あいつらを捕まえろ!!」
花火が目の前で爆発していく光景に、わけもわからず大勢の観客は大騒ぎになりパニック状態へとなっていく。カオス状態の中、丸山そして飯田はそれぞれの場所で動画を撮っていく。それは自分の承認欲求だけではなく、デスゲームで生き残るための行動だった。それでも、観客の流れが速すぎるがゆえに飯田は波にさらわれるように後ろへと下がっていく。
「くそ! もっと、近づかないと意味ないだろ!!」
飯田は逃げ行く観客から逆走していき、ステージトラックの方へと向かっていく。ステートラックの中心には飯田より先に小峰と赤星がいた。
「えみちゃん......」
「せ、瀬奈......」
「なにしてるの? ライブステージめちゃくちゃなのにどうして逃げないの?」
「あんたも、芸能界から失踪したくせに、今更なに戻ってきてんの? ていうかその恰好、まさか宗教の勧誘?」
二人が話す中も花火やスモークがたかれていく。白聖会とライブをめちゃくちゃにするために来たアンチたちが喧嘩さえしていた。それでも二人は話を続ける。
「別にそういうわけじゃないけど......。もしかしたら渋谷に戻ればみんなに会えるかもって思って......。でも、もう私はあの事務所にいるつもりはないから。私自身のこともちゃんと話す」
「ふざけないで! 現役で働いてる私たちのことも考えてよ! あんたの一言で損失がどれだけ出ると思ってんの!」
「損失なんて、初めからわかってたことじゃん! いなくなった人に成り代わるだなんて無理な話だったんだよ!」
二人が喧嘩する中、飯田がステージトラックの中にたどり着く。そこには小峰と赤星の他にも大勢のアンチ集団やカルト教徒が暴れていた。その中で、また一人男が輪の中に入ってきた。
「せ、瀬奈ちゃん!! 早く、僕たちの持ち場に戻ろう! 教祖様がお怒りになる」
「北条さん......。 私は別にあなた達宗教の人柱になる気はないんだけど。私はただ、誠くんが安全に生きれる場所を探してただけ。というか、彼はどこ?」
「どうして君はあいつのことばかりなんだ! アイドルだったころは僕の方を向いてくれてたのに!」
「ごめんなさい。あなたのこと、知らない。ファンだったのかもしれないけど、あなたは私のこと見てない。あなたは「赤星みどり」を見てるだけ。でも、あの子は違かった」
「お、おい......。知り合いかなんかしらねえけどよ、ここはもう危険だ。一旦逃げよう!」
飯田は北条と加藤の喧嘩に割って入るも、状況に混乱していたのはその場にいた小峰も同様だった。
「私の事無視しないでよ! みんなこぞって『赤星みどり』とか『みどりちゃん』って!! うざいのよ! あんな顔だけの女、何がいいのよ! 瀬奈を身代わりにしてこき使ってやろうとしたのに全部台無し!! もう全部消えてなくなればいいのよ!」
小峰は自分の中に秘めていたことを全部ぶちまけていた。加藤は自分が赤星になった経緯を改めて思い出した。自分の人生を狂わせた人間が目の前にいるというのにも関わらず、彼女は小峰を抱きしめる。
「そうだったね......。えみちゃんはいつも頑張り屋だから、みどり先輩のこと見てたもんね。大好きだったもんね。私もいなくなるのが嫌だった。だからえみちゃんのお願い聞いたんだよ?」
「わ、私は......! そんなことない! 私は赤星みどりが死ぬほど嫌いなんだよ! お前も! その純粋さが気に入らないんだよ! 私のこと、知ってる風なこと言うな!!」
二人の情緒の激しさに周りの男性陣は疑問符しかでなかった。加藤と小峰の二人が離れるとすぐに大きな花火が真ん中に投げ入れられた。二人はそれを見て離れていく。飯田と北条もそれに倣ってトラックから遠く離れていく。
「これからどうすんだよ!」
「知るかボケ! 僕は僕の使命がある。宇宙が統一されれば誰とだって分かり合える。出会えるんだ。だから僕は活動を続ける。瀬奈ちゃん、君にも出会いがあるはずだ! 僕と共に宇宙を照らそう!」
北条は飯田を押しのけて、小峰と走る加藤に手を伸ばす。加藤の方はというと北条に若干の恐怖心を抱いていた。自分のことを見てくれているのか、それとも赤星みどりの亡霊を追っているのかわからないでいた。その時、ある男の声が大きくなってこちらに向かって来た。
「瀬奈さーーん!! 瀬奈さん!!」
「ま、誠くん!? 誠くん!!!」
「誠? どこかで聞いたことあるような......」
飯田が彼女が叫ぶ名前に違和感を抱えつつも彼女が手を振る先を見ると、そこには飯田とともに暮らしていた藤宮誠の姿があった。顔覚えの悪い飯田でもさすがに彼のことは忘れられなかった。1週間以上の生活を共にした友人ともとれる男の搭乗に飯田は何とも言えない表情になった。
「瀬奈さん、よかった。無事で......」
「うん、私は大丈夫。早く、ここから離れよ」
「「待て!」」
北条と飯田の声が偶然にも一致して重なった。少しビクつくも、飯田が藤宮の方へと話していく。
「マコ......」
「い、飯田君。......ここに何しに来たの?」
「別に......。お前の方こそ、何してんだ。まさか、その恰好こいつと同じ宗教なのか?」
「僕がどこでなにしてようが君には関係ないでしょ? 君にとって僕は友達でもなんでもないんだから」
彼の言葉に飯田は返す言葉もなかった。続いて北条は加藤瀬奈にしぶとく手を伸ばしていく。
「どうして、そんな芋野郎を選ぶんだ! 意味が分からない! 君たちは宇宙の神秘が分からないのか!!」
「あなたこそ、私のことなんてあなたの言う宇宙くらいのレベルしか知らないでしょ? 本当の加藤瀬奈という人間なんて知らないで、好きに扱おうとしないで」
そういうと、藤宮にひっそりと「行こう」と言い二人は飯田と北条の前から消えていった。飯田は頭を抱え、北条はまたも頭に血が上り始め暴動の渦の中へ入っていった。
「あいつ、あそこまではっきり言える奴だったんだな。もっと、話してやればよかった......。あいつが変わっちまったのは、俺のせいだ。俺が変に関わっちまったから......。お前がアカイハコの参加者であろうとなかろうと関係ない。俺は必ず生き残ってお前とちゃんと話したい! 金なんてその次だ」
飯田は走っていき、暴動の渦の中へと入っていく。スマホが落とされないようにしっかりと持ちながらその様子を撮影していく。その中で、機動隊や警察が鎮圧を図っていく。澁谷はひどく荒れ果てていく中、暴動は機動隊へと向けられる。催涙ガスが待っていく中、飯田はひた走る。その姿を見つけたのは他でもなく犬上だった。
「イケメンお兄さん! とんだ災難ね! 私の車まで走れる!?」
「犬上さん! すいません、助かります!」
犬上の手を取り、共に車へと向かっていく。だが、それよりも先にスマホからアラームが鳴る。それは他でもなくアカイハコからだった。飯田はふと見つめると強制終了の文字が光っていた。走り続けていると、なぜか飯田は森林の中にいた。先ほどまで手をつないでいたはずの犬上もおらず周りを見渡した。
「は? なんだここは!? 澁谷だったはずだろ! 犬上さん!? マコ! どこ行った!!」
森の中、ただ当てもなく歩いていると電話がなった。電話の主は大体検討がついていた飯田は相手に状況を聞き始める。
「おい、キサラギ! どうなってる! これもお前のいう『アカイハコの力』の仕業か!?」
『お疲れ様です、キサラギです。飯田様、おめでとうございます。3rdステージ進出です』
会話の噛みあわないキサラギに飯田はさらに怒りを募らせる。
「こっちの話聞いてんのか! ていうか、まだ一日あったろ!」
『いえ。今回は炎上ゲームによって、普通に日常生活する人たちにも影響を出してしまったための中断です。このようになってしまったのは、我々運営の管理不足です。少々反省しております』
「『少々』? 大暴動だったの見てないのか? かなりの人間が巻き込まれてたぞ!」
『そんなことより、成功者の皆様にはとある樹海に来ていただいております。ここが次の3rdステージの舞台となります。本ゲームはルール上、今まで以上にフィールドを狭めてお送りいたします。さて、今回のゲームですが無難に殺し合いをしてもらいます』
「どこが無難だ! いい加減にしろ!!」
『生き残った20名のみなさまには『おに』になってもらい、10名のターゲットを殺してもらいたいのです。殺し方は皆さまにお任せします。武器などのアイテムは、皆様が初めに取ってもらったハコからなんでも取り出せるようにしましたので、そちらをお使いください。一人につき一人殺すだけでいいのです。のこりの10名が次へと進めます。それでは、頑張ってください』
「おい、ふざけるな! 人を殺せるわけないだろ! ......くそっ! 切られた」
炎上ゲームによる炎上の肥大化によって突如中断となった2ndゲーム。その地点で生き残ったのは初めに宣言されていた通り、20名。彼らが次に行うのは人一人の命を奪う殺人鬼ごっこ。誰が生き残り、誰が死ぬかは運営さえもわからない。
【2ndステージ:炎上ゲーム】 中断につき、成功者詳細不明。
成功者:20 名
脱落者:69 名
失格者:6 名
new!【3rdステージ:殺人鬼ごっこ】
tips:ターゲット10名のうち一人を殺すこと
参加者:20 名
ゲーム終了期限: ターゲット10名の殺害の確認次第終了、もしくは参加者の全滅
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