3-1:殺人鬼ごっこ ~交錯する願い~

 アカイハコのデスゲームは樹海にステージを移した。参加者たちは、ゲームのルールのせいで他の参加者に見つからないよう森の中、息をひそめながらターゲットを探していく。その中でも白聖会の参加人口は4分の1となっていて、彼らは特に知り合いが多く苦労していた。白聖会教祖、古川は自分の教団の人間をすでに2人ほど見つけて自らの手で殺していた。参加者同士は見つかってはならない。だからこそ、見られないように先に手をかけたのだ。


「なにやってんだ、俺は......。ターゲットを探してるのに」


古川はひたすらに森の中を探索した。だが、早々に参加者は見つからない。この樹海がどれだけ広いのかもわからない。また、範囲外に出てしまったらどうなってしまうのか、それもわからない。漠然とした不安の中、古川はやっと一人ターゲットを見つける。


「いた! えっと、あいつは......。金城 玲って女か。ま、名前とかどうでもいいが」


古川は自分の持っていたキューブからナイフを取り出して近づいていく。

ターゲットである金城はというと古川に全く気付かずに、そのウェーブのかかった髪の毛をいじりながら足を止めていた。


「もう最悪......。ここどこなんだし。急にわけわからんことなってるし、知らん奴に殺されそうになるわで意味わからん」


「恨むなら、俺じゃなくアカイハコを恨むんだな」


「うわ、だれ? あんたもうちの命狙ってる系?」


「悪いな」


彼女にナイフを振りかざした瞬間、古川の右手に銃弾が当たる。ナイフは弾かれ、右手から血が流れていく。


「な、なんかしらんけどラッキー!!」


そう言って金城が走って逃げようとするも、古川が受けた銃弾と同じものが彼女の足を正確に打ち抜く。


「悪いなぁ、嬢ちゃん。ちょっと、じっとしといてや」


「おまえ! 矢坂か」


「よう、古川さん。澁谷以来やな」


古川は右手を左手で抑えながら矢坂を睨みつける。矢坂は持っていたスナイパーライフルを地面に捨てて、キューブから拳銃を取り出した。


「あんまなれん武器は使いごこち悪いのう。やっぱ、ハジキやで」


「そういえば、あんたヤクザだったな」


「これでも感謝してるんやで? ヤクザ抜けた後、目標作ってくれたんもあんたやからな。やから、一発で殺したるわ」


矢坂は古川のこめかみに銃口を突きつけた瞬間に引き金を引いた。その後、なんのひけめもなしに金城を殺した。


「これで、わいも4回戦進出かな? これで、わいも......」


矢坂は何か言いかけた後、忽然と森から姿を消した。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 矢坂や古川の銃撃戦を近くで聞きながら怯えていたのは、参加者の一人である富山美咲だった。彼女は自分で勝ち取ったキューブを頭の上で抱えて身を守っていく。


「な、なに!? 今の銃声? ま、まじで殺し合わなくちゃいけないってこと?」


彼女は闇雲に走っていく。自分がどこから来たのか、どこへ向かっているのかもわからなくなるほどただ走り続けた。


「ハァ、ハァ......。 死んだら、物語の続きが書けない......。生き残って、これまでの体験を私の小説に生かしたい! 死にたくない、死にたくない死にたくない死にたくない!」


少々パニックになっていると、草むらからガサガサと音が鳴る。富山は無意識的にキューブから拳銃を取り出して一発威嚇射撃をした。だが、その射撃は運悪く樹海で一休みしていた蛇に当たっていった。彼女は草むらの音がしなくなったので近くへと向かうと、その蛇を見つけた。


「な、なによ。蛇か、脅かさないでよ......。でも、蛇でよかった」


ほっと一息ついていると、彼女の方へ一人の女性が向かって来た。髪は背まで長く、ゆっさゆっさと揺れていく。足取りは追われているにしては品がよく、富山の癇に障った。


「あの子、確か鮫島このは......。確かどっかの社長令嬢だったはず。あいつなら簡単に殺せそうかも。私は、殺し屋......。殺し屋の気持ちになるのよ」


富山の今までの焦りや恐怖心は、鮫島を見た瞬間に消え去り人が変わったかのように自分の持っていた拳銃で彼女に狙いをつける。


「金持ちのお嬢さんに分からせる展開......。私好きよ、そういうの」


そういって、富山は人生で初めてともいえるくらいの集中力を見せて彼女の足元を狙った。弾丸は彼女の足首に命中し、鮫島このははその場に倒れた。


「こんにちは。鮫島さん」


「ど、どなた!? どなたか存じませんが、助けてくれませんか? 誰かに狙われているようでして......」


「私がやったのよ、お馬鹿さん」


「ど、どうしてよ!」


「別に? 私は人が不幸に歪んでいく顔が見たかっただけ......。不幸な分だけ、物語が生まれる。あなたは、どんな物語を生むのかしら」


富山の笑顔に鮫島は戦慄する。鮫島は傷ついた足を引きずりながら、富山から逃げていく。その光景に富山は恍惚とした表情で眺め、もう一方の足を拳銃で撃ち放つ。鮫島は苦しみに顔を歪ませながらも逃げようと必死に腕を動かす。


「いいわ、とてもいい。 じゃあ、次は死んだらどうなるのかしら......」


富山は鮫島の背中に何発も銃弾を浴びせる。さすがの鮫島も、銃弾が空になった時には静かになっていった。富山は拳銃を鮫島の遺体の上に投げ捨て、その近くに座り込む。


「は!? はぁ......。また、自分の作品にのめり込んで役になり切ってたの? でも、いい経験したみたい。このゲームが終わったら私はどんな作品を生み出すのかな? 楽しみね」


言い終わると、富山もまた森から姿を消した。

アプリはまた、成功者の席の残りをカウントダウンしていく。


【3rdゲーム:殺人鬼ごっこ】


参加者: 15 名


成功者: 3 名


失格者(死亡):2 名


ターゲット残り 7 名





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