3-2:殺人鬼ごっこ ~裏切りの連鎖~

 アカイハコの3rdゲーム、殺人鬼ごっこからは逃げられない。彼らがいるこの樹海は走っても走っても終わりがなく、同じところへ戻ってきてしまう。

ターゲットである鳥山楓は自分の体力と運動能力には自信があったが、まったく変わらない視界に精神的に疲弊していっていた。


「ハァ、ハァ......。まったく、どこなんだここは! 家に帰りてえよ」


鳥山は苔の生えた地面に腰かけて空を見上げた。だが、彼女の見る世界には青空はなく緑しか広がっていなかった。


「あ、あの大丈夫ですか?」


見上げる鳥山に一人の男性が彼女の視線に重なるように顔を出す。


「うわぁ!? お前、誰だ! もしかして、オレらを狙ってる鬼かぁ??」


「い、いえ......。私は、三吉壮太と申します。決して怪しいものではありません。それに、あなたと同じで狙われていて逃げて惑っていたらあなたが......」


鳥山よりも二回りほど背の高い男、三吉壮太はアカイハコの参加者の一人だった。だが、すでに参加者同士の潰しあいに巻き込まれて逃げ延び続けていた。彼の言葉は決して間違いはないが、彼自身参加者であることを隠した方が得策だと考えて彼女に近づいたのだ。


「そ、そっか......。なら、仲間だな。にしても、どうする? 逃げ続けても終わりも行き止まりもないみたいだぜ?」


「そ、そうみたいですね。右にまっすぐ行ってもいつの間にか、前来た道に戻ってたりしますからね。洞窟とか、誰も来なさそうなところでやり過ごすのがいいかと思います」


三吉はない頭をフル回転させて、彼女と二人きりになり誰にも邪魔されずに殺害する方法を考えていた。そこに優しさなどない。彼自身の優しさはすでに炎上ゲームに捨ててきたというような面持ちで彼女を見つめる。鳥山は三吉に若干の疑念を抱きながらも彼に協力することにした。


「まあ、いいや。よろしくな、おっさん。オレ、鳥山楓」


「おっさんって......。まだ、30なんだけど」


「ハタチのオレからしたら十分おっさんだっての」


少々おどけながら鳥山は笑うも、三吉は愛想笑いで済ました。少しぎこちないながらも二人は参加者のいなさそうな洞窟を探しに歩き始めた。


「三吉のおっさんはなんで追われてんだ?」


「私? 私は......。いろいろやったからね。自分が幸せになるために、相手を蹴落としたりもしたさ。そら、人に恨みも買うわな」


「あんた優しそうな見た目してんのに、案外自己中なんだな」


「そ、そういう君はどうなんだよ!」


「ん? オレか? オレぁ、非行少女ってやつ? 家出が趣味みたいなもんだし、親にはすげー迷惑かけてると思うよ」


鳥山が短い髪の毛をくしゃくしゃと掻き毟っていると、三吉は彼女を制した。

彼の視線の先には参加者であろう女性がナイフを持ってフラフラと歩いていた。



「静かに......。あの人、私へ刃を向けてきた人だ......。顔はあまりよく見えなかったけど。確かあんなナイフを持ってたよ」


「おいおい、あいつ大丈夫か? フラフラだぜ?」


「助けようと思ったらだめだ。君が死ぬことになる」


「そうかもしれねえけどよお、ただの観光客かもしれんだろ?」


「あんなふらついて服もボロボロな観光客います?」


三吉は鳥山に先入観と偏見を植え付けて、自分しか見方がいないと思い込ませようとしていた。だが、鳥山は眉をひそめて三吉の肩に手を置く。


「助けに行こう。それで、オレが死んでも運がなかっただけだ」


「だめだ。私の言うことを聞け」


「残念だったな。オレぁ、反抗しちゃう性格なんよ」


鳥山が三吉の肩をポンと叩いて、ふらつく女性の方へと向かおうとするも三吉がキューブから取り出したショットガンで足止めした。ショットガンの銃声でふらついていた女性はさらに遠ざかっていく。その姿を鳥山は見つめてホッとする。


「あいつ、走れるくらいには元気じゃん」


「人の心配するほど、君はお人よしなんだな......」


ショットガンは彼女の片足を吹き飛ばしており、本来なら意識を失っているところだろうが鳥山はこれまで以上の精神力で耐えていた。


「ちげえよ。あんたみてえなやべえやつに、あいつを殺されたくねえだけだよ。クソ......。こんなとこで、人生終わるつもりなんてねえのによ!!」


彼女の叫びは誰にも届かず、三吉のショットガンの銃声音だけが森を騒がせた。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 一方、彼らの近くでふらついていた女性参加者、大村美雪は三吉のショットガンを皮切りに顔に恐怖を滲み出しながら重くなった自分の足を必死に動かしていた。


「あ、ああ! あああああああ!」


言葉にもなっていない奇声をあげなから、彼女は走っていく。すると、彼女の走っていた先には木陰で休んでいる男の姿が映った。


「た! たた!」


「おいおいおい! どうした?」


男性はひどく慌てている様子の大村を見ては、同じように慌てながらも彼女を自分の胸で受け止めた。


「たすけて......」


「一体何がどうなってるんだよ......。なあ、あんた大丈夫か? ケガしてないか? 名前いえるか?」


「み、美雪......。大村、美雪......。だい、大丈夫です。ご、ご心配なく」


「ならよかった。俺は尚野、尚野玲央......。怪しい奴じゃねえ。それで、美雪ちゃんなにがあったんだ?」


大村は尚野を見つめた。彼女の眼には整った目鼻立ちとさらりとした髪の毛の男が映る。彼女が一瞬で彼にときめいたのは言うまでもない。彼女はさらに尚野の体に自分の体をあてがい、話していく。


「わかりません。大きい銃声が聞こえて......。それで怖くて......」


「確かに大きい音がしたが、銃声って......。ここで何が起きてんだ?」


尚野を含む多くのターゲットは自分がどういう立場にあるのか全く分かっていない。

キサラギの独断と偏見、そして気分で選ばれた10名ということになる。尚野はなにも知らず、自分を殺すかもしれない大村の手を取りひた走る。


「ど、どこへ行くの?」


「知るか! もしあんたが狙われてんなら、逃げねえとだろ!」


彼の男らしさに大村はさらに惚れていく。大村は彼が握る手をさらにぎゅっと握りしめる。だが、その力が強すぎたのか尚野に振り落とされる。


「痛ってえ! あんた、案外力強いんだな......」


「いや、あなたの握力がないだけでしょ......。女子より握力ないとか無理。無理無理無理無理無理無理無理! やっと愛してくれる人ができたと思ったのに! これでやっと私も死ねると思ったのに! 騙したのね!」


「は? 騙す? なに言ってんだよ、お前!」


「お前っていうな! 私の玲央君はそんなこと言わない! あんたなんか死んでしまえ!」


そういと、大村は潜ませていたナイフを取り出して尚野の胸めがけて突き刺す。彼の筋肉は全く役に立たず、何度も何度も突き刺されるナイフに尚野は声も出ず、抵抗もできずに瞳孔は開いていくだけだった。


「あああああああああああああああああああああああ!! どうしていつもこうなのよ!! 死にたい死にたい死にたい死にたい! 誰も愛してくれない、誰も私を見てくれない......。こんな世界、みんな死んじゃえばいいのよ!!」


彼女の叫びは森にしか届かず、想いとは反対に4thゲームへと駒を進めていくのだった。



【3rdゲーム:殺人鬼ごっこ】


参加者残り: 13名 


失格者: 2 名


成功者: 5 名

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