3-3:殺人鬼ごっこ ~理想と現実~

第4ゲームへの切符が残り半分となった第3ゲーム【殺人鬼ごっこ】。参加者同士の潰しあいも苛烈になり残り参加者は10名となっていた。その中でもまだしぶとく生きているうちの一人、北条雅樹はこのゲームですでに片手を失っていた。


「はぁ、はぁ......。ぼくの命ももうわずか。一人殺してしまえば切り抜けられるんだ。そのたった一人さえ......」


森の中、一人座り込む北条はアプリの中のリストを拡大し、ターゲットの中の一人である加藤瀬奈を見つめた。


「みどりちゃん......。ぼくが君の真の人生を取り戻してあげる。そのためにはあの女が邪魔だ。あの顔で僕のことをひどく言ったあいつを許さない!!」


北条はゆっくりと立ち上がり、スマホをズボンの後ろポケットにしまいこみ歩き出す。だが、狙いを定めたとしても、樹海という特殊なフィールド内にしかいないとはいえ、その人間に出会うのは至難の業である。


「あ、あの人は......。ぼくを監獄にぶちこんだ警察の人!」


ひっそりと北条は隠れはじめ、その女性警官=犬上愛美が立ち去るのを見届ける。犬上もまたターゲットを探している様子だった。北条は彼女の背中を見つめつつ、茂みから茂みへと身をひそめ歩いていく。


「うん? 後ろに誰かいたような......。 ま、気のせいか」


犬上の方はというと、北条が背後でするりと消えていったことも気づかずに遠くへと向かっていった。北条はその様子にホッと一息つきながらさらに前へと進んでいく。


「ターゲットの誰とも会わない......。 あと、5人......。その中にまだ加藤瀬奈はいる......。絶対にぼくの手で殺してみせる」


すると、北条の前に二人の女性が歩いているのが見えた。

一人は北条が狙っていた加藤瀬奈だった。そしてもう一人はシルバーヘアにしては皺ひとつない女性、服部紫苑だった。どうやら服部紫苑と加藤はターゲット同士で揉めており、喧嘩をしている最中だった。


「あんた、私を盾にするってどういうことよ」


「別にいいでしょ。あなただって生き残ったんだから......。それに、私あんたのこと好きじゃないのよね。赤星みどりの偽物さん」


「見つけたぞ! 加藤瀬奈!!」


二人の口論に割って入るように北条が出てくると、加藤はメガネをかけた彼を一目見て北条だと気づいた。


「ほ、北条さん!? なんでここに!?」


「それは、ぼくがハンターで、君たちがそのターゲットだからさ。君とは短い付き合いだったけど、これで終わりだ」


「自分の人生もまともに生きれてないのに、ここで死ぬなんて絶対イヤ!」


加藤が走って逃げようとするも、服部ががっしりと彼女の腕を掴んで引っ張り戻す。


「ねえあなた、この人が狙いなんでしょ!? なら、私の事見逃してくれる? ねえ、いいでしょ? 私が抑えててあげる! 他にも何かしてほしいならなんでもしてあげる! だから私は見逃して!!」


北条は笑い、頷いた。加藤は血相を変えて首を振るも、服部の力が強く逃れられなかった。


「い、いや!! やめて! 北条さん、助けて!」


「今更ぼくになびいたって遅いんだよ! 僕は君を許さない......」


北条は自分が持っていたキューブから拳銃を取り出した。当たり前だが北条は拳銃を使ったことがない。それでも、彼がそれを選んだのは彼自身が思う一番かっこいい武器であり一番相手を苦しませて殺す武器だと確信していたからだ。


「あの世で本物のみどりちゃんに土下座しろ!!」


北条は腕を振るわせて、加藤の頭に狙いを定める。だが、瞬間彼の脳裏に赤星みどりの晴れ姿や笑顔がよぎった。彼は生粋の赤星のファンだった。写真集やCDを集めるのはもちろんのこと、彼女の出るドラマは必ず視聴していた。握手会も何度もめぐり、何度も落ちたこともあった。その思い出を見てしまったためか、彼が片腕で撃ったため精密さがなかったか、放たれた弾丸は加藤ではなく、その後ろで羽交い絞めしていた服部の頭に当たっていた。


「え? うそ、でしょ......」


服部は赤星に覆いかぶさるように倒れ込むも、彼女は少し体をずらして立ち上がる。

ただ、北条をきょとんと見つめていると北条は下を向き声を荒げる。


「さっさと行けよ! お前はもう用済みなんだよ! ぼくは、本物の赤星みどりと結婚するんだ!!」


北条は、赤星の前で姿を消した。状況を読めないながらも、赤星は血だらけになった服をギュッと握りながら森を駆け抜けていく。自分も同じように誰かに狙われている。そう考えてしまい、彼女はただ当てもなく走り続ける。


「あ、ごめんなさい!」


すると、加藤は走り抜けた際に女性とぶつかってしまった。だが不幸なことにその女性はターゲットを狙い彷徨っていた女性警官、犬上愛美だった。



「いいの、いいの。でもこれって、運命だと思わない?」


「え、それはどういう?」


「私はあなたのおかげで生き残れる......」


加藤は一瞬で彼女が自分を狙っていると悟り、犬上からすぐに離れて木の根で転ばなないように大股で走り抜ける。銃声が数発聞こえるも、彼女は振り向かず前へ進む。誰が助けてくれるのかもわからない、そもそも人と出会えるかもわからないこの状況で加藤の目の前に一人の女性が横切った。


「す、すみません! 助けてください!!!」


その言葉と共に加藤は彼女を犬上の射線上に置いて逃げていく。

銃声が一発聞こえた。そして、その後どさっという音が聞こえた。

加藤はとっさのできごとに後ろを向いてしまう。犬上は死んでいる彼女を少し見ると、鼻で笑った。


「な、何がおかしいの?」


「あなた、悪い女ね。それに、運もいいわ。この子も私のターゲットだったのよ。高校生かしら......。でももうどうでもいいわね......」


犬上は少し落胆しながらも森から姿を消していった。

加藤はその一部始終を見て森の中に膝を崩した。


「私、なんで......。違う、違う! 私のせいじゃない! いやあああああ!!」


彼女の声は森の中の木々と残りの参加者とターゲットに響き渡っていった。

生き残る人間はもう少ない。


【3rdゲーム:殺人おにごっこ】


参加者残り: 8 名


成功者: 7 名


失格(死亡)者: 5 名

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