3-4:殺人鬼ごっこ ~邂逅~

 殺人鬼ごっこから4回戦へと進む権利を得られる人は、残り3人までになった。

参加者も8名と残りわずかとなっていた。その中の一人、藤宮は誰にも会うこともできず焦りと不安を抱えながら森を彷徨っていた。


「なんで、だれとも会わないんだ!! こんなとこで死にたくない! 友達もできてない、だれも救えてない! まだ、誰も!!」


発狂していると、目の前に血まみれでふらつく人影を見つけた。藤宮はもう誰でも良いと心の中で吹っ切れてナイフを取り出してその人影へ近づく。


「きゃあああ!!」


「あああああああ!」


ナイフで一刺しするも、そこは女性の肩で急所からは程遠い。女性の方は藤宮の腕を払いのけ、自分の手でナイフを抜き取る。だが、そこから逃げようとしなかった。


「ま、誠君?」


「え、ええ......? 瀬奈さん?」


藤宮が肩にナイフを突き刺した女性はなんと加藤瀬奈だった。なんの因果か、アカイハコのいたずらか彼女らはまたも出会ったのである。


「ど、どうしてあなた......。ナイフを? もしかして、あなたも私を......」


「いや! そんな......こと......。ごめん、でも君もターゲットになってる。僕たち参加者の......」


藤宮は自分の失言に気付き口元を押さえて、太くせり出した木の根の上に座った。

彼の震える姿を見て、加藤は同じように座り込んで彼の顔を見つめる。


「参加者? 一体なんなの!?」


「言えない。言ったらだめっていう約束なんだ。でも、瀬奈さんを傷つけたくはなかった。ごめんなさい」


加藤は藤宮の手の上に自分の手を置くも、藤宮がそれを拒み目をそらす。それでも加藤は自分の精いっぱいの笑みで藤宮に対面する。


「別に言いたくないならいいわ。誠くんは、私の恩人だから」


「前からそうだったけど、どうして瀬奈さんはここまで僕のことを?」


「どうしてだろう......。初めて『赤星みどり』じゃなくて『加藤瀬奈』として接してくれた、からかな? でもほんとはよくわかってないんだ」


「そっか......。大変だよね、別人のふりするの......」


デスゲームの最中で、しかも殺す側と殺される側の立場の二人だというのに優しく落ち着いた時間が流れていく。ただ、時間の流れというのはここにいる誰もしらない。太陽はずっと出ているようで、ずっといないような永遠の時と、いけどもいけども初めのところへと戻ってくる永遠の場所が彼らを狂わせるのにはたやすいことだった。


「そう、大変。癖とか、好きな食べ物とか......。笑い方とかも、自分の笑い方なのかも覚えてない。自分を殺してまで、私は生きたかった。スポットライトに当たりたかった......。でも、もうこんなのこりごり。終わりにしたい。だから、あなたが私の人生を終わらせて」


「そんな! どうして」


「もともと私は自分の人生を自分で終わらせるつもりだった。でも、あなたが声をかけてくれたからつながった。だから、今生きてるのは、半分はあなたのせいなのよ?  言っている意味、わかるわよね?」


藤宮はうつむきながら首を横に振る。藤宮の頭の中では彼女を殺すという選択肢はずっと残り続ける。だが、彼のほんの少しある理性がそれを押さえていた。


「お願い! 私が加藤瀬奈で終わらせるために! 貴方には生きてほしいの! だから、私の命をあなたが終わらせて!! じゃないと、あなたも死ぬ気がして......」


「それは、そうなんだけど......」


二人の心が沈んでいると、そこにもう一人女性が現れた。ボロボロの髪の毛と服だったが、加藤にとって少し顔なじみの女性小峰絵美里だった。


「え、えみちゃん!?」


加藤はすぐに立ち上がり、ふらつく小峰を開放するも彼女は加藤に牙を向ける。彼女はどこからともなく木の枝を取り出して加藤の足元に突き刺した。


「ああああああああああああああああ!!」


「瀬奈さん!!」


「鬱陶しいのよ! あんた、まだ生きてんの? いい加減死になよ! 死人の顔で、生きてんじゃねえよ!!」


「お前、瀬奈さんになにするんだ!!」


藤宮は立ち上がり、またナイフを取り出して彼女の胸元向けて突き刺そうとする。だが、彼の動きは一直線だったためすでに読まれていた。それでも、藤宮は小峰の腰を掴んで離さない。


「あんた何してんのよ! 触らないで、変態!」


「瀬奈さん、逃げて!! 君の命は僕が長引かせたのかもしれない! でも、終わらせたくないと思っているのは紛れもなく君自身なんだ! だから、僕と短い時間を過ごせたんでしょ!? だから、僕もこのデスゲームで生き残って見せる! そして、必ず君を見つけて見せる!!」


藤宮はナイフを改めて握りしめて小峰の腹部を刺した後、力が弱くなって倒れ行く彼女に馬乗りになる形で胸元に突き刺す。全体重が乗ったそれは小峰の心臓を一瞬で停止させた。


「これで、僕も勝ち残れる......。瀬奈さんを、この手で殺すよりずっとマシだ......」


藤宮もまた、加藤の目の前から消えていき、次のステージへと勝ち進んでいく。生き残れる人間はあと2人。ターゲットも残すところ二人となった。そのうちの一人、加藤は足を引き釣りながらも懸命に逃げようとしていた。藤宮に押された背中を追いかけるように毛虫が地を這うように森をゆっくりと進む。

だが、その懸命さも束の間。彼女の弱るところを今か今かと待ち望んでいた参加者が加藤の目の前に現れた。


「......無様な姿ね」


「え?」


銃声が一発響き渡ると、加藤はその場で倒れていく。弾丸を浴びせて張本人は彼女に恨みを持ち、アンチ赤星みどり同盟を発足していた緑川葵だった。


「ようやく、殺せたよ。お姉ちゃん」


緑川葵は、元祖赤星みどりとして活躍していた『緑川あかね』の実の妹だった。彼女がいなくなった後、なんども捜索願を出していたが黙殺され、ついには偽物も出てくる始末で彼女の怒りは倫理観を壊すほどだった。


「お姉ちゃん......。どうして、あんな自分が犠牲になるような世界にいっちゃったの......。普通に幸せに暮らせば、いいじゃん......。でも私は、幸せに生きてみせるよ。お姉ちゃんも必ず、取り戻す。だから、待ってて」


彼女もまた、森の中から姿を消して次のステージへと勝ち進んだ。

残す生き残りへのチケットは1枚。参加者の残りはあと3人。


【3rdゲーム:殺人鬼ごっこ】


参加者残り:3 名


失格(死亡者):8 名


成功者:9 名








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