エピローグ
6:アカイハコ ~願いと幸福~
アカイハコのゲームをすべて攻略した天童竜成。彼はキサラギにどのような幸福を願うのか......。キサラギは彼に興味を持ちながら彼に改めて話を聞く。
「それではあらためて、あなたの幸福を教えてください」
「俺は元々知識が欲しいんじゃない。知識を得るあの体験が好きだったんだ。だからもう一度その感覚を味わいたいから記憶を消そうとした。でも、今は違う。俺の幸福は、俺の願いはアカイハコについてすべて知ることだ」
すると、キサラギは頷き話を始めた。
「かしこまりました。では、お話します。アカイハコには多くの伝承があります。一つは災いをもたらす神でありながら、必ず幸福が訪れるとされる『
そういうと、天童はコトリバコという言葉に反応した。
「コトリバコ......。呪物の一つとされてる箱のことだな......。なら、それって狐を取るものではなくて子供じゃなかったか?」
「それはおそらく別のものです。因習村で起きていたのはキツネ狩り......。はじめは本当に野狐を狩るだけともされていましたが、海外でいうところの【魔女狩り】ともされています。狐は女に化けて男を惑わし、欲を満たし魂を取るとされていたので......。逆に狐の魂を取れば、願いが叶うと思われていたのでしょう」
「それで、本当のキツネだったり女性を殺して箱に入れていたってことか?」
「その通りでございます」
「自分の願いのためにってことか......。じゃあ、この部屋ってのはなんなんだ?」
「その箱の中です」
「は? なにがどうなってそうなるんだ!」
アカイハコを知れば知ろうとするほど謎が深まっていく様に、天童は興奮が止まらなかった。天童は謎を追求するためキサラギにさらに話を聞いた。
「私がその戸戸里村の生き残りだからです。私の家系は代々、その村にあるアカミハコを祭る神社を守る神主をしていました。我が家系は箱の中を行き来できる力を持っているのです」
「物理法則が聞いてあきれるぞ......」
「その心配には及びません。この体は依り代に個人の魂を入れているだけです。トランス状態のようなものでしょうか。それでも、ここで依り代が消えれば魂も消えてしまいますけどね」
「......」
天童は少し黙っていると、キサラギは不思議そうな顔をして彼に問い詰める。
「あなたの幸福はこの程度ですか? まだまだアカイハコについて聞きたいことはあるのではないでしょうか......」
天童は<彼>のことや、瞬間移動のからくりなど、色々聞きたいことはあったがどれも科学的な説明をしてくれなさそうで自分の興味をそそられなかった。
「いや、もういい。それより、ここから出してくれないか? その依り代から魂を開放してくれ」
そういうと、キサラギは首を横に振った。
「それはできません」
「なんでだよ!」
「それはあなたの幸福ではないからです。あなたの幸福は『アカイハコのすべてを知る』ことだったはず」
「屁理屈だ! ふざけんな、ここから出す約束だろ!」
そういうと、キサラギは首を傾げた。
「そんな約束はしておりません。私は『あなたの幸福』について聞いたはず。そこにここからの脱出、現実世界への帰還は含まれておりませんでした。残念ながら天童様、あなたはここでお別れになります。短い間でしたが、アカイハコをご利用いただき、ありがとうございました」
「待って」
天童の制止に耳一つ貸さず、キサラギは天童の前から姿を消す。
「待ってくれーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
天童は一人、アカイハコの中囚われの身となり、一人部屋の中でうなだれた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
キサラギが現世で覚醒すると、廃墟の中にいた。彼は伸びをした後、ひと際きれいなテーブルの上に置かれた赤い箱を見つめる。
「これで、私は解放された......。後は頼みましたよ、新しいキサラギ」
意味深な言葉を箱の中にいるであろう天童に告げた後、彼はキツネ面を置いて廃墟を出た。そこにはスーツを纏ったのっぺらぼう<彼>がずらりと道の両端に並んでいた。王の出立を見送る従者のようなその姿をキサラギは見ないようにしながら廃墟から都内へ出る。
都内へと続く道路へ差し掛かるところで、キサラギは何かを察知してこちらを見つめる。
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「おや、ご不満そうなお顔をされていますね。『ハッピーエンド以外は望まない』『結局全員死亡エンドかよ』......。なるほど、皆様の幸福はこの物語とは別のところにあるようです。もし、皆様がその幸福をお望みならばこのアプリをインストールされてはいかがでしょう。あなたの幸福を実現させます。今、あなたのメールに招待状をお送りしました。それでは、幸福実現のため、がんばってください」
キサラギは一人、何もないところで話し終えると自動車が行きかうその道路へと足を踏み入れたのだった。
......その後、彼を見たという者はいなかった。
終
『アカイハコ』~アンインストールできないアプリから始まるデスゲーム~ 小鳥ユウ2世 @kotori2you
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