2-1:炎上ゲーム ~特定いたちごっこ~
2ndステージ:炎上ゲームが始まった。参加者は、それぞれ炎上するために自身を実際の炎の中に飛び込んだり隣人にいたずらをするなどでSNSの炎上を試みる。だが、SNS利用者は炎上投稿に慣れてしまっているのか、些細なことでは動揺しなかった。誰もが自分の承認欲求に飢えたこのSNSの中で、参加者は人一倍の承認欲求と特定されない程度の理性のチキンレースを強いられていく。
そのSNSの渦の中、コンビニバイトをしている飯田はバイト先のトイレの中、炎上騒動を見つめてはため息を吐く。レバーを捻ってトイレを流し、手を洗ってバイトに戻ると顔にピアスが複数ついた男が数人レジに並んで待っていた。
「チッ......」
舌打ちが聞こえるも飯田は無視してレジに入り、彼らを対応する。彼らはエナジードリンクとともにタバコを要求する。飯田自身の勘では彼らが未成年であると黄色信号を出していたが、それを確認したのはレジの画面だけだった。彼らは平然とした顔つきでタバコを購入していき、外にいた仲間と共に騒音とともにバイクを走らせていった。
「舌打ちしてぇのはこっちだよ......」
飯田は彼らの騒がしいバイクの様子を動画に残そうと外に出ようとしたが、次々と客がきてしまいそれもままならなかった。
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コンビニでタバコを買った非行少年の中には、参加者が一人いた。彼の本名であるかさだかではないが、界隈では『市村』と呼ばれていた。彼は、1stステージより前から社会の外にしか居場所のない少年だった。
市村はその後、2ndステージ進出による影響で別のグループに移り、より社会性から逸脱した半グレに近いグループに所属していた。
「おい! 飯行くぞ!」
市村が声をかけると、彼の舎弟が5人ほどぞろぞろとどこから盗んだのかもわからないバイクにまたがって彼の元に近づく。市村は、自分のバイクのスマホホルダーにスマホを取り付けて6人で夜の街をひた走る。バイクの排気音は深夜にうなり、響く。クラクションはさらにひどく、町ゆく車は彼らを避けて通りだす。
しばらく、走り続けた後市村達はとある飲食店にたどり着いた。
「お前ら、今日はオレのおごりだ。たらふく食え!」
飲食店のテーブルの上に市村はポケットから取り出した札束がパンパンに入った封筒を乱雑に置く。舎弟たちは大いに盛り上がり、店員にメニューを注文していく。
「おお! これがドリンクバーか」
その後舎弟の一人が、ドリンクバーに向かうとコップも取らずにそのまま口に入れだす。市村はそれをニヤニヤしながらスマホに写し取る。デスゲームで生き残るためとは一言も言っていないのに平気で彼らは迷惑行為をし始める。市村にとって彼らは都合のいい連中だった。
「やば。おまえ、それうまいのか?」
「うまいっす! イチさんも遠慮せずに!」
「お、おう」
市村は舎弟を前に日和るマネはできないと、アイスの食べ放題の方へ向かい彼はコーンを立てずに直食いしていく。彼は甘いものがそこまで好きではなかったが、舎弟の喜ぶ姿にピースサインまでして余裕を見せる。件の飲食店の店員は、彼らの容姿と眼差しになにも言うこともできずただ彼らの粗暴な振る舞いを見つめるほかなかった。
「いやー久しぶりに食ったなぁ。お前らもたらふく食ったみてえだな」
彼らのいたテーブルには山ほどの空の皿や食べ残しで汚されていた。どう食べればそうなるのか、誰もそれはわからない。その惨状を市村は誰よりも喜び、写真を撮りまくる。彼らは満足してレジへと向かい、文句を言わせないようにか市村は大目に現金をカウンターに置いた。
意気揚々とした顔つきで飲食店を出たとき、パシャリというカメラのシャッター音が鳴る。
「あ? なんだぁ?」
人知れず飲食店で働く店員の一人が市村の顔を写真で綺麗に映していた。
市村はカメラのシャッター音が聞こえた方に睨みを利かせるも、彼の眼には誰も映らなかった。市村は気のせいかと思い舎弟たちとともに飲食店を後にした。
「おっしゃあ! 帰るぞ!」
そうして彼らは、けたたましい騒音と共に静かな夜に消えていく。
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市村が街中へ帰った後、飲食店では店員が彼らの後片付けをこなしていた。その中の一人、北条雅樹はさきほど市村率いる半グレ集団をスマホで撮影した人間であった。
「北条、それは?」
共に片づけをしていた店長がスマホをのぞくとそこには市村の凶悪な顔つきがはっきりと映っていた。泣き寝入りしかけていた店長は意気揚々と北条と肩を組む。北条はあまり褒められるタイプの人間ではなかったので、半ば混乱したが彼にはちょっとした思惑があった。北条はそのまま店長の手をどかし、SNSで先ほど撮った写真を投稿する。
「え、炎上って自分が加害者になる必要はないよね? 要は、話題になって物議を醸す投稿をすればいいんだ。こ、これで僕は助かる。これで......。み、みどりちゃんはボクのモノ......!! ふ、ふふふ!」
一人呟いていると、店長は少し引きながら彼を見つめていた。彼はバイトをしているときは真面目だが、それ以外はすべて無口でコミュニケーションを拒否しているようで店長には気味が悪く映っていた。
「なんなんだ......あいつ。まあ、なんにせよ彼の投稿が拡散されればあの半グレが捕まるのも時間の問題だ。一応警察にも電話しておくか......」
店長が自分のスマホで電話をしている間、北条はスマホに映った時間を見た。
デジタルの時計はちょうど23時を指していた。北条はそのままそっとスマホをしまい、バイト先の飲食店を後にする。バイト上がり際に彼は一度、アカイハコアプリを開く。
「さすがに成功者、まだいないよね......」
アプリに表示されているのは【2ndステージ:炎上ゲーム】という題名と、参加者人数だけだった。人数にまだ変動はない。失格者も、成功者もいない。つまり、北条が通報した市村もまだ誰にも特定されていないということだ。北条は爪を噛みつつ自転車に乗り、コンビニへと向かう。北条はそそくさと夜食を買って家に戻る。
「はー。この時間が一番落ち着く」
彼の家の壁にはたくさん赤星みどりのポスターがびっしりと張られていた。彼女が出したCDアルバムも乱雑に複数枚床に放置されており、彼女のパーソナルカラーの赤色のパソコンとパソコンまわりの机の上だけがキレイに掃除されていた。彼はパソコンを開き、今日も録画していた赤星主演のドラマを観る。集中していると、隣に置いていたスマホが光る。自身のSNSの投稿の反応だった。それは先ほど撮ったバイト先での出来事ではなく、赤星のアンチからのリプライだった。
「また、こいつか......。絡むのだる......」
SNSは不特定多数の人間が自身の趣味趣向を独り言のように垂れ流す場である。だが、当然その中で意見の合わない人間とでくわすこともあるだろう。普通なら無視すればいい事であるが、顔が見えないこともあり、多くの人間は気が大きくなり反抗し抗争に発展することが日常である。北条に対して不必要な返信を繰り返す人間の心情もまさにそれであった。
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『こいつ、まだ整形女のこと好きなの? もうあの子賞味期限きれてるよ。いい加減女の子消費すんのやめな~?』
赤星みどりは女優という顔を持ちながら、歌手活動、配信活動なども好調で性格も聖女のようだと好評だ。だからこそ、嫌う人間は多い。だがそれ以前に『女性アイドル』という職業事態に嫌悪感を示す人間もいることも事実である。北条へ理不尽なリプライを投稿した女性活動家、和田ひとみもその一人である。彼女にとって、特定と炎上はお手のもので、火種は絶えず振り続けるからこそ今回のアカイハコから命令されたゲームを見た時は呆れて笑いがこみあげたという。
「はぁ......。いつまでやってんだろ、私」
それでも、彼女の理不尽な怒りは自分でも理解しているつもりではあった。彼女は部屋に束になって捨てられた婚活用女性誌やパンフレットを見つめてはため息を吐く毎日を続けていた。彼女は今日もSNSで反響を呼び、炎上していく。彼女の心はもうこの光景に慣れてしまい、感情が動くこともなかった。それでも不幸中の幸いだったのは、すでに身元が割れている状態だった彼女が、1stステージのクリアと共に参加者でない人間の記憶がリセットしていて活動がしやすくなった点にあった。
「世の中の性欲しか頭のない男なんて、消えればいいのに......」
彼女はそう言って、北条のアカウントを確認する。彼のアカウント名はもちろん本名とは程遠いし、アイコンもアニメのキャラクターになっていた。彼女は彼の身元が割れるような投稿を探した。彼女はこの際、自分の邪魔になる人間はすべて特定してSNSという名の小さな社会から立場を無くそうと考えていた。だが、北条の身元特定は時間がかかっていた。
「ああああ! もう、やめた。 もう寝よ。 深夜すぎてるじゃない」
参加者の誰もが炎上を狙い、炎上を誘う。そして、炎上した者たちを特定しようと躍起になっていた。だが、彼らの頑張りもむなしく1日目にて成功した人間は誰一人として現れなかった。アプリは冷酷に参加者へ期限を伝えていく。
【2ndゲーム:炎上ゲーム】
参加者:95名
ゲーム終了まであと 6 日
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