2ndステージ:炎上ゲームは止まらない
2-0:アカイハコ ~止まらないゲーム~
1stステージである、宝探しゲームが終了してから1週間。今のところ運営からの音沙汰はなく、参加者は平穏な生活を暮らしていた。ただ一つ、自分に関する記憶が自分の周りの人間、ひいては他人から消えていることを除いて。その犠牲者となった飯田豪と藤宮誠は、知ってか知らずか一つ屋根の下で暮らすことになっていた。藤宮は飯田に「帰る家がない」と吐露し、飯田はそれを半分信じて藤宮を半ば使用人のように家事をさせていた。
「マコ、今日の晩飯は?」
「はい、今日はお好み焼きにしようかなって」
「いいね。お前、高校生の割には料理できるから助かるわ」
藤宮は人に褒められたことがなかったので、気をよくして自分の頭を掻く。
「いやぁ。母さんの指導がうまかっただけだよ。飯田君は今日もバイトだっけ? がんばって」
「ありがとう、いってくる」
飯田は、高卒でアルバイトをしていると藤宮に嘘を伝えている。彼は自分で借りた家と生活を守るため、さらには藤宮にゲームの参加者であることを隠しながら、つい3日前に見つけたバイト先で仕事していた。
藤宮に見送られながら、飯田は今日もバイト先のコンビニへと向かう。彼がアルバイトの一つとしてコンビニを選んだ理由は、コンビニ飯がタダでもらえるという点もあるが、最も重要な点として他のゲームの参加者の情報が客伝えで入ってくるかもしれないと考えたからだ。品出しなどで店内を歩いたり、ごみ出しで街中を自由に行き来できるコンビニは飯田にとって最高の情報源だと言える。
「あいつが女だったら抱けたのにな......。すげーいい嫁になるのに、男ってのがもったいない」
「何をブツブツ言ってるんですか? 飯田くん」
飯田が振り向くと、そこには彼とシフトが同じだった女性が首をかしげてレジのカウンターに立っていた。
「ごめん、なんでもないよ。緑川さん」
飯田が彼女に微笑むと、彼女はショートボブの髪をかき上げ笑う。その瞬間、彼女についていたピアスがきらりと光る。緑川は飯田のバイト先のバイトリーダーで、かなりの美人だった。それは、いつもコンビニではシフトの同じ人間がレジに並んでいても彼女のレジに並んだままの人間が多いくらいだ。そんな彼女の笑顔を見て飯田はますます心を高鳴らせる。ただ一つ、残念なことは二人とも「アカイハコ」に捕らわれているという点にある。
「そこは先輩、でしょ? 飯田君。 でも、君は真面目そうだから助かるわ。 前来てた子、1週間前いなくなったきり連絡なしだから」
「先輩、大変だったんですね......。あ、いらっしゃいませ!」
飯田は彼女に見せる笑顔とは違う、ぎこちなく笑顔の画像を張り付けたような顔で対応する。朝のラッシュがすぎたくらいの少しゆったりとした時間、彼の前に警官服の着た女性がコーヒーの缶を置く。
「あら、もしかしてこの間あった子?」
彼女は飯田の顔を見るなり、彼に声をかける。だが、飯田は顔を覚えるのが苦手な性質で全く身に覚えがなく、首をかしげる。
「あの、どこかで会いました?」
「だいぶ遠い場所でね。 じゃあ、K県で検問していた美人のお姉さんって言えば思い出せる?」
飯田はなんども首をひねるも全く思い出せないそぶりを見せていた。警官服の女性は肩を落とし、ため息をついた。彼女はしぶしぶ警察手帳を出し、財布から現金を取り出す。
「犬上愛美。これでも名前は覚えられる方なんだけどな」
「すいません。顔覚えるの得意じゃなくて。あ、おつりとレシートになります」
「ここのコンビニ、確か失踪者出てるんでしょ? 君も気をつけなよ。最近なにかとこういう事件が多いから」
「は、はあ」
犬上は飯田のきょとんとした顔を見つめる。彼女は偶然の出会いに不思議な運命を感じながら、彼女はコンビニを後にしようとした。ふと、ハッとしたかのような顔をして一つの紙を見せた。
「ねえ、こんな感じの高校生の男の子見てない? 他人の住居に侵入したらしいんだけど」
その紙には高校生の学生服と、そばかす顔、黒髪、目が隠れそうなくらいの前髪という平凡そうで特徴がありそうなモンタージュが映し出されていた。飯田は本気で理解できなかったが、藤宮誠と特徴が完全に一致していた。彼の母親だった人が通報した後、彼女が調査をしていた。飯田の首をひねる姿を見て彼女は呆れ笑いを浮かべてコンビニからすぐの横断歩道を渡っていった。
ーーーーーーーーーーーーー
かくいう犬上はというと、交通課での交通整理員から刑事課へと転身していた。彼女自身の記憶が警察内部から消えたことをいいことに、自分の整った顔と体そして多少の金銭を積んで刑事課という花道を手に入れていたのだ。
彼女は刑事としてとある女優の失踪事件を追っていた。彼女は、都内を類まれなる勘と多くのパイプを頼りに嗅ぎまわっていく。その中で、女優が死んだという情報が浮き出てきたため彼女は失踪した女優の所属していた事務所へ赴く。
「犬上です。ライズアップ事務所の堂本様いらっしゃいますでしょうか」
彼女が事務所のインターホン越しに伝えると、数分と立たずに事務所のスタッフがしかめっ面をしてドアを開く。
「また、あなたですか」
「また、私です。堂本様に、赤星みどりさん失踪の件でお話が」
犬上は3日前にもここを訪れていたがその時は門前払いで、今回も対応していたスタッフが眉を押さえていたためダメかと少し落胆しかけていた。その時、後ろから黒ぶちメガネと黒いスーツに身を包んだ大柄の男が、犬上を対応していたスタッフの肩に手を置いて下がらせた。
「堂本さん。はじめまして」
「あなたですか。事務所を嗅ぎまわっているという警察の方は......。 いい加減にしてください。うちの赤星は」
「いいえ。今日はちょっとだけ、面白いものを探し当てまして。赤星みどりが死んだという証拠を」
そう言って犬上は、自分が持っていた鞄の中をあさっていると堂本はそれを制止させた。
「いえ、うちの赤星は死んでません。なんなら、お呼びしましょうか?」
「はぁ? あなた何言って......」
犬上は捜査対象である赤星みどりが、死んでいるという確信を持っていた。というのも、彼女が持ち合わせていた証拠が彼女の血痕のついた弾倉だからだ。そのうえで堂本のいう『赤星が戻ってきた』という言葉が理解できずに困惑しかなかった。だが、堂本は曇りなき眼で赤星みどりを犬上を紹介する。
「みどり、彼女がきみのストーカーかい?」
「え? いや、違いますよマネージャー。ところで、この人警察の方ですか? なにか事件ですか?」
そこには、赤星みどり本人が立っていた。エスニックな顔立ちも、その身長、身のこなしに至るまですべて本人としかいいようがなかった。犬上は顔をゆがめた。自分の信じていたものが、すべて打ち砕かれていく光景に唖然とするほかなかった。
犬上は何も言えず、事務所を後にした。 事務所から、自分の仕事場へ戻る途中、彼女はだんだんと狂気に満ちた笑顔へと変貌していく。
「いいねぇ、こういうのを待ってたんだよ!!! 私が刑事課へわざわざなった甲斐があるってもんだ。こういう事件の絶えない世界こそ、私の望む世界......。だからこそ、こういう世界を提供してくれるこのアプリは最高に楽しいね。早く次のゲームが来ないか、待ち遠しいよ」
彼女が、自分のスマホを高く掲げていくと突然電話がなった。相変わらずの非通知の電話。だが、彼女は相手がだれか想像がついた。
「もしもし、キサラギかしら?」
『お疲れ様です、キサラギです。 さて、2ndステージを開催させていただきます。2ndステージとなる本戦のテーマは【炎上】です。SNSであればなんでも構いません。1週間の間で自身の投稿で炎上を狙ってください。手段は問いません。ただし、周りに名前や住所などを特定されると失格となります。もちろん参加者同士の特定も例外ではありません。炎上した参加者のうち、こちらの独断と偏見のデータに基づいた20人を成功者とします。それでは、がんばってください』
電話はプツリと切れるも、犬上はずっと笑顔が絶えなかった。自身の楽しみがこれからまた始まるという歓喜と、炎上した人間を取り締まれる自分の仕事に感謝で胸がいっぱいになっていた。彼女の狂った願いも、感情も参加者は誰一人として知り得ない。
キサラギの電話は犬上以外の参加者たちにも伝わっていた。この間まで大学生であった飯田、高校生だった飯田。そしてインフルエンサーとして活躍していた丸山にも......。彼らに与えられた期限は1週間。彼らはそれぞれの想いを胸に死に物狂いでゲームに挑む。参加者たちが一斉にアプリを開くと、ホームには新しく2ndステージの内容と参加人数が書かれていた。
【2ndステージ:炎上ゲーム】
参加者:95名
ゲーム終了まであと 7 日
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