4-4:魔女狩りゲーム ~正しい選択~

 魔女狩りゲームは淡々と進んでいた。キサラギはゲームを進行しつつ彼らの会議の様子を監視していた。ここまで彼の思惑通りなのか、そうでないのか仮面の下はまだ誰もわからない。参加者たちは昼のターンになり、早速話し合いを始めた。


「ま、分かってるとは思うけど、矢坂っちはクロだったよ」


「なら、魔女は残り一人か」


犬上の言葉に飯田は少し安堵した。自分がまだ生き残れる確率がどちらにせよあるということだ。欲をかかず、飯田はこのまま村人のふりをして身をひそめようとしていた。一方、藤宮は飯田たちがの言っていた『セオリー』という言葉が理解できずにいた。


「ねえ、さっき富山さんが死んだとき当たり前じゃなかったような雰囲気だったけど......。あれなに?」


「ああ。あれか......。おまえは友達いないからわからねえのも無理ないけど、だいたいこういう脱落ありきの推理ゲームで脱落させる側に不利な情報を与える人間は邪魔なんだ。つまり、司祭や僧侶、勇者を先に殺した方が手っ取り早いってこった」


「それは君が魔女だから言えるの?」


「一般論の話してんだよ。だから、意味わかんねえんだよ」


飯田はイラつきながら頭を抱えた。そんな姿を見ても犬上と天童は考えるのを辞めなかった。


「ちょっと面白くなってきたじゃん?」


「奇遇ですね。これが好奇心というものなのでしょうか......」


二人の狂気的なまでの思考力と冷静さに、三吉は当てられて思わず震えた声で反抗する。


「二人ともおかしいよ! 狂ってる! 人が死んでるんですよ!? 犬上さん、あなた警察なんですよね? 犯罪のない世界にしたいんでしょう? 終わりにしましょうよ、こんなの!!」


「おあいにく様。私の本当の願いは『犯罪があり続ける世界』。私は交通整理したくて警察になったわけでも、正義を振りかざしたいわけでもない。『悪を倒したい』『犯罪を目の前で感じたい』それだけなの」


「僕たちを騙したのか? わかったぞ! 君が魔女なんだ! だっておかしいじゃないか! 自分の願いを嘘ついて、何の得になるんだ! あそこはみんな正直に言ってたじゃないか!!」


三吉の焦る顔とは対照的に天童は冷静に彼をなだめる。


「だが、正直に言ってしまった北条さんはみんなに処刑された。これが現実です。おそらく彼女が正直に答えていたら真っ先に、もしくは北条さんの次に殺されたでしょう。だけど、自分が死んでしまうと人間側が余計に不利になると分かっていたのでしょう。だから自分は役割のことを考えて自分の願いを殺した。そうですね?」


「そうね。さっすがIQ180の天才ちゃん。とにかく、僧侶を名乗る人間が他にいなかったから私は白。人間ってわけ。それで、あんたはどうして私を魔女だと思ったわけ? 嘘の願いを言ったから?」


犬上は立ち上がり、三吉のそばまで歩いていく。ぴちゃ、ぴちゃ......。と血だまりの上を歩いていく様に三吉は話題をそらしていく。


「そ、そうだ! ここはとにかく富山さんを狙った魔女を探そう! 僕は飯田くんだと思う!」


「は? なんで」


「君はお金が必要だったっていったよね? もしかして君、富山さんに借金を抱えていたからお金が必要だったんじゃないのか。でも、ここで彼女と出会い、殺せば借金がチャラになると思ったんじゃないのか?」


意味の分からない空想のような証言に飯田は首をかしげるも、藤宮は三吉の言葉をすこし本気にしていた。


「ほんとなの? 飯田君」


「めんどいから、一旦お前は黙ってろ......」


「そうやって逃れようとする......。やっぱりなにか隠してんじゃないの?」


「ふざけんなよ! 俺は村人だぜ?」


「そんなのおかしいよ! 魔法使いが一人いるかもしれないんでしょ? だったら人数があわない!」


「そういうゲームだろうが! マジで言ってんのかお前!? じゃあ、お前魔女だったら『僕は魔女です』って言うつもりだったのか?」


二人が胸倉をつかみあうと、犬上と天童が二人を引き離していく。


「はいはい、凡人くんとぼっちくんは黙ってようね~。 そいで、三吉っちの言う通り魔女探しをするとして、私は三吉っちだと思うのよね~」


犬上は三吉の椅子の背もたれにトンと両手を置いて彼を威嚇した。


「奇遇です。自分もそう思ってました」


二人の秀才に窮地に落とされた三吉は、さらに顔を青くする。

だが、その顔を悟られてはならないと虚勢を張り続ける。


「根拠はなんだよ! 私のように根拠を述べてください!」


「あんたのは『負け犬の遠吠え』っていうのよ。ま、確かにあんた指名するってのもおかしいよね? じゃあ、話してあげる。富山さんが殺害される前の会議中に、あんたたち揉めてたわよね?」


犬上は椅子の後ろから三吉の顎に手を当てて自分の顔に向けた。

三吉は目をそらし、犬上の言葉に沈黙した。犬上は自分の席に戻って机の上に足をのっけて話始めた。


「揉めてた時、あんたはすぐ顔に出てたよ。『この女、むかつくな』って」


「そんなことで、人が殺せるのか!」


「いいえ、殺せます。あなたは『妻子さえ元気であれば、他はどうでもいい』とおっしゃっておりました。それは間違いなくあなたの本心。ですが、あなたがやれ『人が死んでいるんだぞ!』と言っていたときは感情が乗っていなかった。富山さんのえげつない言葉を聞いていたときも、あまり表情を変えなかった。それはどうしてでしょうか」


「そうやって、二人して僕を貶めようとしてるんだ! やっぱり犬上は魔女だ! そして魔法使いが天童なんだ! 間違いない! 藤宮くん、飯田くん! 何か言ってくれ!」


「やっぱりって言ってるけど、さっき『俺』が魔女だとも言ってたよな? 結局俺と犬上さん、どっちが魔女だと思ってんだ? その根拠は? あんたはただ、俺達に擦り付けたいだけじゃないのか?」


自分の発言の裏を盗られた三吉は、もう引くに引けなかった。三吉は立ち上がり、声を荒げて乱れだした。


「黙れ! 私が正しいんだ! 私が根拠なんだ! 私の言うことを聞け! どうしてオレの周りはいつもいつも言うこと聞かないやつらばかりなんだ!!」


彼の大声に参加者たちは絶句した。彼の本性を見たとき、犬上は少しニヤついていた。そんなものは誰も見ていなかった。参加者たちは皆三吉の姿を見つめていた。


「あーあ、ボロだしちゃった」


「これは、クロですね」


「黙れ。私は村人だ! 私だけが村人として生き残るんだ! そして、妻と息子を取り戻す! 彼らを私の思う通りに生活すればなに不自由ない幸せが訪れるんだ! なぜそれを理解しようとしない! だからお前らはいつまでたってもクズな夢や願いしか思いつかないんだ!! そんな穢れたやつら、ここで消えて当然だ!!」


そういうと、三吉は真っ先に藤宮の元へ向かい髪の毛を引っ張り振り回す。飯田は三吉の腕を掴みかかり、引き離そうとするも離れない。天童は見かねて呼び鈴を何度も鳴らした。だが、誰も出てこなかった。それでも、なぜか電動ノコだけが四方の壁一面に張り巡らされていった。


「なによこれ!」


「これを使って自分たちで処刑しろということでしょうか......」


「殺す! 殺す!! 全員まとめて殺して私が願いを叶えて見せる!!」


三吉は藤宮を投げ飛ばすも、犬上がギリギリのところで彼を捕まえる。壁の電動ノコの刃にあたる本当にギリギリだったため犬上の背には少し血が滴っていた。


「まずいって! はやく三吉、止めて! 飯田っち! 天童っち!」


飯田と天童はお互いに見合い、アイコンタクトを使って三吉の元へと向かう。その姿を見てターゲットを二人に変えた三吉は二人を投げ飛ばそうとするも、二人は何とか耐えて三吉の腰のあたりでタックルをして押していった。


「いけええええ!!」


「私を殺してどうするっていうんだ! この人殺し!! ふざけるな、ふざけるなああああああああああああああああああああ!!!!」


飯田たちは三吉を壁まで押し切り、その大きな背丈が小さくなるまで電動ノコに押し付けた。血しぶきは飯田と天童を汚していくが彼らは物おじなどしなかった。三吉が静かになるのを見つめて二人が息を切らしていると、部屋の奥からゆっくりとした拍手の音が聞こえてきた。そして暗闇から白いキツネ面をつけた男が姿を現した。背丈は平均の男性くらいの大きさで体格も普通だった。ただ異様だったのはそのお面だった。お面には本来着けるために紐やバンドがあるはずである。だが、彼にはそれがなく、顔半分が狐のようにも見える。彼は表情の読み取れないまま拍手を続ける。


「おまえ、キサラギか!!」


飯田は、がくがくと震える足を自分で叩いて無理やり立たせてキサラギに向かっていき胸倉をつかむ。


「てめえ! よく来たなクソ野郎が!」


『お疲れ様です、飯田豪様。ファイナルステージ進出おめでとうございます。他の皆様も、素晴らしい健闘でした。特に犬上様と天童様の分析力、推理力は目を見張りました。ですが、大変残念な方もいらっしゃいました。藤宮誠様、あなたには少々幻滅しました。終盤以降の無能ぶりは目に余ります。ですが、運で生き残ることもある。これもアカイハコの神髄です』


「ふざけてんのかてめえ。俺はお前を殴り飛ばすためにここまで来たんだぜ? 一回くらい殴らせろ!」


飯田がキサラギを殴ると、キサラギは普通に倒れていった。だがその面は絶対に外れなかった。いや、外せないという感じだった。お面の硬さが災いして飯田は殴った右手を押さえる。キサラギの方はというと特に何も感じていないかのように立ち上がった。


『さて......。これで気は晴れましたか? 改めまして、皆様初めまして。私の名はキサラギ。このアカイハコプロジェクトの運営を務めております。以後、お見知りおきを......』


キサラギは生き残った4名の参加者に向けてお辞儀をした。深々と腰を折り、手を添えた最大限の敬意を払ったものだった。彼はさらにスクリーンを取り出し、彼らに4thステージの最終結果を見せた。


【4thステージ:魔女狩りゲーム】

ゲーム終了


<最終ステージ進出者>(順不同)

天童 竜成

飯田 豪

犬上 愛美

天童 竜成




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