5-1:かくれんぼゲーム ~進行方向~

 飯田はある程度休憩した後、立ち上がって残りのドアを触っていく。


「立ち止まってられるか......。でも次にどこに行けばいいのやら」


「上に行くのはどう?」


犬上の言葉に飯田たちは天井を見上げる。どこもかしこも赤い色の壁に覆われていて気が狂いそうになるのを押さえながら、彼女の言葉に従ってみることにした。


「上に行ってみるか。でもまずは靴で罠があるかどうかチェックしてみるか。マコ、靴ならいつでも替えがあるんだから、もう一つくらい投げてくれないか?」


飯田は藤宮の肩をぐっと掴んで懇願するも、彼は少し不満そうにしながら飯田の手を振り払い、自分の靴を脱いでから、壁についている梯子へと昇っていった。藤宮はある程度の高さまで登り、2階へ続く扉を開けて自分の靴を投げ入れた。2階の部屋から罠が発動する音はいつまで経っても聞こえなかった。藤宮は梯子越しに他の3人に伝える。


「大丈夫みたいです! 上れます!」


「おう。気をつけろよ」


藤宮が2階に上ったあと、飯田、天童、そして犬上が次々と2階に入っていった。


「誰もいませんね......」


キサラギの姿がないことに4人は少し落胆してしまうも、彼らの闘志の目は消えていなかった。


「なあ、天才。お前ならキサラギがどこにいると思う?」


飯田がまたももたれかかりながら、天童に話を振ると、彼は腕組みをしながら語る。


「あまり天才という言葉は好きではありません。現に、自分はコミュニケーション面では皆さんに劣る面がありますので......」


「そういうのいいから。それで、どこにキサラギがいるかって聞いてんだよ」


「......。私がキサラギさんなら、奥の方にしますね。自分たちがいた場所と一番遠く、一番行きにくい場所だと思います。3階の左奥の方や、1階の左奥の方もそうですね」


飯田は頷きながらも頭を悩ませる。


「やっぱそうだよなぁ......。でも問題は罠だ。死んだら全部パーだし......」


「そうね。なるべく人の多い状態でキサラギに近づきたいわ」


「もし、4人全員生き残ったら本当に全員の願い叶えてくれるのかな?」


藤宮の楽観的な言葉に他の3人が、眉を顰める。3人は全員が生き残ることはない。ましてや、全員の願いを叶えてくれるとは限らないと踏んでいた。キサラギは「全員の願いを叶える」とは言っていたものの、彼らは疑念を持っていたのだ。ただ一人、藤宮だけは純粋に物事を捕らえていたのだった。


「お前はいつもそうだな。ま、そういうとこ嫌いじゃなかったけどな。まずは動こう」


「そうですね」


天童は、自分の近くにあったドアを開けて自分の靴を投げ入れた。瞬間、靴を投げ入れた部屋に透明な板が四方に降りていった。その後、四方の壁からノズルのようなものが出てきて、気味の悪い色のガスが噴き出していた。天童はすぐにドアを閉じた。ガスはこちらには行き届かず胸をなでおろす。



「あ、危なかった。とにかく、こちらはダメでした。犬上さん、そちらはどうですか?」


「こっちは大丈夫そう! 上はどう? マコっち」


3階へと続く梯子に上っていた藤宮は、犬上の言葉に残念そうな声で返す。


「上もダメみたいです。 飯田くんは?」


「こっちは行けそうだ......。どっちに行くよ」


飯田が指し示す方も、犬上が示した方もキサラギの影はなかった。だが、彼らが進まなければキサラギは見つからない。多数決で決めて飯田の方へと行くことにした。


「ここはおそらく、始めにいた部屋の真上ですね」


「じゃあ、あんまり行く意味なかったか?」


「いえ、まだ右手に部屋がありますのでなんとも......」


すでに藤宮は素足、天童が片方の靴を無くしている状態で右手にある扉を開けて天童が靴を投げ入れるとまたもその部屋は閉鎖され罠が発動した。


「ヘビがたくさん......」


「あれはニホンマムシという毒ヘビですね......。攻撃的な性格なので、あれらにすべて噛まれると死ぬのは時間の問題でしょうね」


天童の解説に、戦慄する藤宮と飯田をよそに犬上は元の部屋を通り過ぎ、向こう側の部屋へと向かっていた。


「かなり、靴も少なくなってきたな......」


飯田たちも犬上に合流し、次の部屋で作戦会議をし始めた。


「靴に頼っていけるのも時間の問題ね」


「自分も藤宮くんも靴が無くなってしまいましたし......。悠長にしている暇はありません」


天童が次に行く部屋を考えていると、犬上が思いきりよく左手の扉を開けて飛び出した。


「ちょっと! 犬上さん! 危ないじゃないですか! 罠がなかったからよかったものの......」


「これくらい思い切りいい方がいいのよ。私はスリルがある方が好きなの。私が警察になった理由、知ってるでしょ?」


飯田は少し苦笑いをしながらも、自分がそんな風に思いきりよくできるだろうかとも思った。飯田は元から臆病な性格だったがゆえに犬上の思いきりの良さも、藤宮のような土壇場での切り替えもできないとも考えていた。


「そうかもしれないけど、もう少し慎重に言ってもいいだろ。キサラギは特に制限時間を設けていなかったんだし」


「そうだよ。みんなで生き残って、みんな一緒に帰ろうよ。自分の家に」


藤宮の言葉に、犬上は首を振る。


「悪いけど、私はそういう仲良しこよしは嫌。願いを叶えるなら自分だけがいい。私だけが犯罪の続く社会で、おもしろおかしく生きたいの」


彼女の語る願いは本物なのかもしれないが、彼女の眼に本気とも狂気ともつかない虚無感があった。それを一番先にくみ取ったのは藤宮だった。


「嘘だ。本当は、みんなと生き残りたいって思ってるでしょ。でも、自分の願いも叶えたい。願いを叶えると仲良くなった彼らも犯罪に巻き込まれる......。そう思ってるんじゃないの?」


犬上は、自分の気持ちを当てられたかのようにドキリとする。犬上自身、特に飯田とは並々ならぬ因縁があった。そのこともあり、飯田と共に生き残りたいとも考えていた。


「別に、君とは初めて会うしね。というか、君あれだよね? 一度、不法侵入で手配されてた子と似てるけど? もしかして、犯罪者の子?」


藤宮は首を傾げた。自分は不法侵入など一度もしていないと思ったが、よくよく自分のここまで来た敬意を思い出していると一つ思い当たる節があった。


「いや、それは違うよ。自分の家に帰ったんだけど、お母さんが僕の記憶を無くしてたんだ。みんなだって、そんなことあったでしょ?」


「ああ、あったわね。それをいいことに私は刑事課になれたんだけど」


「周りにそういう人間がいませんでしたので、気が付きませんでした」


「天童君は、ファーストステージの時どうしてたの? 両親と住んでるわけじゃないの?」


藤宮の言葉に天童は少し、ためらった後口を開いた。


「いえ、一人暮らしです。両親は自分が6歳の時に死亡したそうです。それからは多くの親戚の元で引っ越しを繰り返して、今に至ります。別によくあることですよ。どうでもいいことですし、同情も不要です」


「確かに、今となっちゃどうでもいいことだな」


「ちょっと、飯田君!」


「ほんとのこと言っただけだろ。今はこの27部屋からキサラギを探すことが大事だ」


飯田の言葉に天童は頷きつつも、補足した。


「いえ、18部屋です。この部屋を含む9部屋は、キサラギさんがいないか罠で進めなかったので」


犬上は呆れ顔をしながらあたりを探り、扉の一つを開けようとした。


「あ、そこはさっき自分が靴を投げ入れたところですよ? 行くならこちら側か、3階、そして1階です」


「わ、わかってるわよ! ちょっとあなたの頭脳を試しただけ......」


犬上は天童にムスッとした顔をするもスルーされてしまい余計に不満を覚えた。

一方天童の方は自分の近くにある扉を開いて犬上たちを見つめる。


「さて、みなさんの靴も犠牲にしてもらいますよ? 僕らだけじゃ不公平だ」


「飯田っち、あんた一回も投げてないんだからなげなさいよ」


犬上にそそのかされるがままに飯田はしぶしぶ片方の靴を脱ぎ、天童が開けた部屋の方へ投げ入れた。だが、そこでは何も起きなかった。飯田がその部屋へ進み靴を拾うと藤宮達もこぞってその部屋に入っていった。


「それにしても、いつまでこんな赤い壁を見続けないといけないんだ。目がチカチカする」


飯田は少し目を瞑って抵抗するも、自分の瞼の裏には今まで来た部屋の構造が残像として見えてしまい、余計にしんどくなっていた。


「ああ、だめだ......。気分わりい」


「弱気にならないでよ......」


「そうよ。 あんたのネガ発言聞くために探索してんじゃないんだからっ」


犬上はそう言いながら自分の靴を別の部屋へ投げ入れた。すると音が鳴り始め、シャッターが下りていく。中で何が起きているか見えなかったが、犬上は自分のお気に入りの靴を取り戻せないことだけが気がかりだった。


「はぁ。おきにのハイヒールが......」


「ここから出た後に、また買えばいいだろ」


「そういうことじゃあ、ないのよ。飯田っち、乙女心分かってなーい」


飯田と犬上が小突きあいながら話し込んでいる間、ずっと天童は全27部屋の構造とマップを頭の中で思い浮かべていた。この2階には計9部屋があり、うち3部屋が罠部屋だということまでは整理はついていた。だが、妙なことに罠部屋に囲まれるように1部屋だけ存在しているのに気づいた。


「もしかして......。2階のあの部屋にいるのか?」


「どの部屋よ......。って、もしかしてこの罠部屋のもう一つ奥の部屋?」


「そうです。罠部屋に囲まれていて行けるとしたら1階から上るか、3階に一度行ってから降りるかの2択しかない。そんな面倒なところ、自分だったら隠れる場所にするかも......」


「なるほど......。じゃあ、行ってみるか? でも、どうやっていく?」


飯田の言葉に天童は顎を押さえて考えていると、犬上が下に続く扉を開けてすぐに下へ降りた。


「ほら! こっちからならすぐ行けるんじゃない?」


「犬上さん! だからもう少し落ち着いて行動して下さい!」


犬上に続き、天童たちも下に降りていくとさらに犬上はまっすぐと進み、笑顔で扉を開ける。


「この先でしょ? 例の2階へ続くところ。 早く行ってささっと願い叶えちゃいましょ!」


「ちょっと! 焦りすぎですよ!」


天童が呼び止めるも、犬上は一向に聞かず前へ踏み出す。彼女が中に入った途端、部屋には檻が天井から降りてきて閉じ込められていった。


「あらやだ......。 でも檻なら大丈夫っしょ」


犬上は飯田たちの元へ戻ろうと折に触れた瞬間、電気が走っていき犬上はすぐに焼け焦げたまま吹っ飛んでいった。


「犬上さん!!」


 飯田の心配する声も虚しく、追い打ちをかけるように壁から機関銃が飛び出して彼女の死体をハチの巣にしていく。飯田はすぐに扉を閉めてそのまま腰を下ろした。


「最悪だ......」


「犬上さん......」


飯田のそばに藤宮達も座り込み、機関銃が止み終わるまで犬上に黙とうし続けた。



【FINALステージ:かくれんぼ】


参加者残り:3 名










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