2-5:炎上ゲーム ~影武者アイドルとカルト教団~
炎上ゲーム終了まであと半分を切っていた。参加者の誰もが自分が成功者なのか、不安になりながら今日も炎上の火種を探していく。だが、藤宮は悠長にも加藤とともにひたすらに都内へと続く国道を歩いていた。
「ごめん......。もう無理かも」
加藤はガードレールにもたれかかると、藤宮は彼女に手を差し伸べた。
「だいぶ歩いたもんね......。でもここじゃ車に撥ねられちゃうし、道の駅までもうすぐだと思うからそこまで歩こう」
藤宮の言葉に加藤は静かにうなずき、彼の手を取り歩き続ける。藤宮は幼い時に母親と手をつないで以来、女性と触れ合う機会などなかった。それでも、藤宮は心臓の鼓動を悟られないように必死で彼女をエスコートしていく。
しばらくすると、藤宮の言う通り道の駅が見えてきた。
「それで、藤宮くんはお金ある?」
「財布には1万円くらいあります......。あの、加藤さんは?」
「瀬奈でいいよ。私は、カードしか持ってない。もしかしたら止められてるかも......。ちょっと待ってて」
そう言うと、彼女は近場にあったATMへ駆けつけていった。するとすぐに明るい顔をして帰ってきた。
「.....やったよ! 一応まだカード止められてないみたいだし、当分は私が払うよ」
「そんな......。悪いですよ! まだ知り合ってばかりなのに」
「いいの、いいの。あなたはいわば命の恩人。これくらいさせてよ」
藤宮はなんとなく以前に助けてもらった飯田のことを思い出した。彼にしてもらったことを今度は自分がしていることに、藤宮自身はとても誇らしくなった。それと同時に藤宮は加藤に対して友情以外のものを感じていた。藤宮は少し、加藤に甘えるように声をかけ始める。
「じゃあ、お昼はごちそうになってもいいですか?」
「いいよ。藤宮くんはなにがいい? それとも、『誠くん』って呼んだ方が嬉しい?」
「お昼は、とりあえず安いもので節約しよう。呼び方は瀬奈さんが決めていいよ」
二人は道の駅の中にあるうどん専門店で素うどんを二つ注文した。席に向かい合わせで座り、ただ会話もなくうどんをすする音だけが二人の間で聞こえる。
「はぁ......。誠くん、これからどうしようか」
「僕もどこにも当てがない、です。力になれないのに、適当なこと言っちゃったよね。ごめんなさい」
「あなたの言葉で生きようと思い直したのは私! 謝らないで。あと、敬語禁止ね! さて、行きましょうか」
食べきって空になった皿を二人は返却して道の駅から出た。また二人は歩き出していく。当てのない旅が続いていく。だが、その中で藤宮は焦りも感じていた。炎上をし続けていなくてもペナルティはないものの、藤宮は一度もSNSで炎上騒動を起こしていない。さらにはテレビで今世間を騒がしている赤星のことなど知る由もなく、彼は親切心だけで彼女をサポートしていく。
「街に行って、なにするの? あまり都内は生きたくないんだけど」
「わからない。でも、もうホームレスとして生きるしかないのかなとは思ってる」
街の方へと歩き続け、マンションや民家の裏の小道を進んでいく。だが、そこにはホームレスはいない。川の方へと向かうと、賑わいを見せる集団を見つけた。
『ホームレスの皆様、ご安心ください。我々には与える家があります! 我々には分け与えるだけの食料があります! さあ、本日の給仕をお受け取り下さい~』
藤宮たちは声の方へと近づくとホームレスたちは二人を睨みつけていた。よそ者、あるいは一般人の野次かと警戒していく。
「あの、与える家があるっていうのは......」
赤星は炊き出しをしている一人に縋りつく。炊き出しをしていた女性は赤星の両手を自分の両手で包み、聖女のように説法する。
「我ら『
女性の意味不明な言葉に藤宮はびっくりするも赤星はすがるように頷く。
「そうなんです......。私も......。その、弟も両親を早くに失くしてしまって、私もこの間職場でいじめにあって、辞めさせられて路頭に彷徨っていたんです」
「え?」
藤宮が加藤の大嘘に反応するも、加藤は目くばせをして黙らせる。藤宮は彼女の意図を組んで押し黙って白聖会の女性の言葉を待つ。
「......。なるほど、それは大変だったでしょう。そうだ、次の職が決まるまで我々の元で活動しませんか? それがいいわ。あなたたちがここに流れ着いたのも宇宙の導きでしょうから」
そういって、白聖会の女性は炊き出しを一通り終わらせた後に藤宮達を車で白聖会の本拠地へとつれていく。そこは都内からかなり離れた郊外の白い豪邸だった。女性は藤宮たちが乗っていた後部座席のドアを開けて彼らを迎えた。二人がおっかなびっくりで中に入ると、そこには白い服の集団が見たこともないダンスを繰り広げていた。
「あれは?」
加藤がダンス集団を指さすと女性は気味が悪くなるほどの笑顔で返す。
「あれね! 古川様から教わった『宇宙体操』よ。万病に効くからみんな朝の活動に取り入れているのよ」
「は、はあ......」
体操をしている人たちはというと、こちらのことなどまったく気にしていない様子で音楽に合わせて体操を続けている。彼らに少し奇妙さを感じつつも女性はある男を藤宮達に紹介した。
「ここのことは北条さんの方が詳しいから、ここからは彼にバトンタッチしますね! それでは北条さん、後をよろしくお願いしますね」
北条と紹介された男は、合掌したあと藤宮達をみつめた。すると、加藤の方にさらに近づいて彼女の手に触れていく。
「あああああああ!? 赤星みどりちゃん!?」
藤宮は聞き慣れない名前に疑問を抱きながら加藤に迫る。
「ん? どういうこと? 瀬奈さん」
「いやー。これはいろいろありまして......。話せば長い」
加藤は北条の手を離し、北条と藤宮に自分の経緯の真実を伝えた。ファン出会った北条は最初驚き、戸惑いつつも加藤の言葉を終始頷いて聞いていた。藤宮の方は理解しつつも常に眉をひそめていた。アイドルの代わりを務めていたなど、常人には理解できないことなのである。
「じゃ、じゃあ......。その顔は瀬奈さんの顔じゃなくて、その女優さんの顔ってこと?」
「騙したみたいになってごめんなさい」
「みどりちゃん、いや瀬奈さんは悪くないよ! でも、君が赤星みどりを続けていたから僕は夢を見られたんだ。ありがとう!!」
北条の見当違いの言葉に加藤は首を傾ける。北条は彼女と同じように首を傾けて笑顔をふりまく。その笑顔はさわやかさなどなく、どこか不快感を抱くものだった。
「それで、私達はどうすればいいの?」
「まずは我らが創聖祖様に洗礼名を授かってください。ちなみに僕の本名は北条雅樹ですが、洗礼名は北条・コスモ・雅樹なんですよ。こんなふうに洗礼名を頂くことで宇宙の真理に近づけることができるんです。だから今日あなたと出会えた。瀬奈ちゃんにもそんな出会いがあるはずです」
北条は曇りなき眼で二人を説き伏せる。その圧倒的なまでの威圧感と逃れなさそうな空気感に藤宮と加藤は流されて『白聖会』の教祖古川の元へと向かう。古川は教団のアジトの最奥の部屋の床で座禅を組んでいた。彼は、カルト教団の教祖でありながらデスゲームに身を投じたギャンブラーでもある。彼は元よりギャンブルが好きでありながら会社では営業成績上位のセールスマンだった。そんな彼がデスゲームで居場所を無くして路頭に彷徨っていたときに天啓が訪れ今にいたるという。
「私に天啓を下さった神『
そういうと、彼は立ち上がり藤宮と加藤一人ずつの頭をなでていき洗礼名を決めていく。藤宮は『藤宮・シューティングスター・誠』加藤は『加藤・レッドスター・瀬奈』と名付けていった。さらに古川は二人に信者へとなるための修行を強いていく。
「さて、これでお二人は晴れて我々の仲間です。ですが、あなた方は今生から来たばかりで穢れている。身を清め俗世から身を切る試練を与えます」
そういうと古川は写真を取り出した。そこには古い神社が映されていた。
「これは?」
「
「え、いやそんな罰当たりな......」
「藤宮くん、罰が当たるのは信心のないものだけです。ここにいる方たちはみんな信心深いものと神に認めてもらったものたちなのですよ? こんなにいるのですから自分を信じなさい」
そういうと、加藤は少し怯えた声で古川に聞く。
「で、もし信心深いものじゃないって神様が思ったらどうなるんです?」
「死にます。当たり前でしょ? これが我々白聖会の最初の試練。『お守りの儀』です。さあ、分かったら行きなさい」
「いや、ちょっと待ってください! 僕たちはただ寝床がほしいだけで」
「『欲するなら勝ち取れ』『勝ち取りたいなら欲せ』これが宇宙統一の原理です。円環こそ真理、それを悟るのがこの試練なのです。行きなさい」
圧の強い言葉に藤宮と加藤は怖気づき、彼の言うままに二人は神社へと向かっていった。
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アカイハコの参加者は知る由もないし、知る気もないが古川の信仰していた『
そのことは運営者であるキサラギしか知らない。キサラギは古川の様子を見ながら頭を悩ませる。
「参加者の中にも、私と同じように導かれた人間がいたとは驚きですね。アカミハコ様の呪力はそこまでも強くなっておられたか......。まあ、いいでしょう。泳がせておくこともまたデスゲームの一興。真理にたどり着くのが先か、他の人間に蹴落とされるのが先か......。皆様にはもっと私を楽しませていただきたい。すべては私自身の幸福のため。アカミハコ様の幸福のため」
【2ndステージ:炎上ゲーム】
参加者:90 名
失格者:5 名
ゲーム終了(成功者発表)まで 3 日
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