4-1:魔女狩りゲーム ~誰がための犠牲~

 参加者たちは、聞き覚えのあるようなボードゲームのルールに多くの人間は感づきながら話を聞いていた。だが、ここはアカイハコ。デスゲームの最中である。魔女から夜のターンに指名される、もしくは昼のターンで磔に選ばれた場合でも死が待ち受けているだろう。彼らは唾を飲み込み、お互いを見つめあう。


「要はテーブルトークで裏切者をあぶりだせばいいんですね。推理ゲームの王道といったものなら得意ですが、一つ違うのは本当に死ぬリスクがあるということでしょうか......」


「前のゲームのこともあるだろうし、犠牲はあるだろうね~」


犬上と天童の言葉に、参加者たちは改めてお互いの顔を見合った。

自己紹介をするにしても、誰から発言するかお互いにけん制しながら沈黙は続いた。

その沈黙をいち早く破ったのは、犬上だった。彼女は長い足を組み直し背もたれに肘をつきながら口を開いた。


「とりあえず自己紹介でもしよっか。こんなんじゃいつまで経ってもゲームが進まないわ。私は犬上愛美、警察官よ。願いは『犯罪のない世界』ってやつ。じゃあ、次飯田っちね」


犬上は自分の夢について嘘をついた。犯罪の絶えない世界を求める人間は役職がなんであれ怪しまれやすいと踏んだからだ。彼女の思考など知らず、指名されて驚く飯田は体を浮かせた後、眉をひそめながら犬上を見つめた。


「なんで俺なんすか......。しかもあだ名付けられてるし。 俺は飯田、飯田豪っす。年齢25。金のためにゲームに参加してた。でも、今はこんなゲームを主催したあのキサラギってやつをぶん殴りたいがためにここにいる。よろしく」


「あなたもこのゲームしてたのね。炎上の話を持ち掛けたとき気づいておけばよかった」


緑川葵は、飯田と同じバイト先だったこともあり、彼に皮肉めいたことを言い放った。飯田は少し困った顔をしながら笑いかけた。


「じゃあ、次は緑川さんでいい?」


「いいわよ、手短に話すわね。緑川葵。以上」


「え、そ、それだけですか? 叶えたい願いとか、どこでなにしてたとか言わなくていいんですか?」


彼女のあまりの淡泊な自己紹介に、北条は目を見開き思わず口を出した。すると、緑川は冷徹な眼差しで北条の顔を見つめた。


「じゃあ、あなたが手本を見せなさいよ」


「ぼ、僕がですか!? わ、わかりましたよ! 僕は、北条雅樹といいます。職業は普通のサラリーマンです。僕の願いは一つ、僕の推しである赤星みどりを生き返らせて結婚すること。そのために生き残ってきました」


「は? キモ......」


北条の曇りなき眼差しに緑川は目を細める。さらにその隣で話を聞いていた矢坂が首を縦に振る。


「同感や。お前、次の日生きとったらまず処刑確定な」


「そ、そんな......」


北条の願いに一同の空気に沈黙が訪れる。

その沈黙を切り裂くように自慢の筋肉質な腕を組みながら矢坂が全員を見る。


「......。他誰もいかんかったら、わい行こか?」


「お願いします」


「おおきに。わいは、矢坂亮。大阪生まれの大阪育ち。元々あんま人にいえん仕事してたけど、ゲームに参加してたお陰で抜けれたし、夢ができた。今は自分がおった教団を再興させることが夢や」


「あ......。そ、そういえば澁谷での白聖会の暴動の時にいませんでした?」


藤宮は矢坂と出会った時のことを思い出した。彼らは澁谷での白聖会の活動の際に出会っていたのだ。その言葉に飯田も思い出したかのように語る。


「ああ、あの時か......。確かにこんな人見たような気がする」


「絶対いたよ」


「せやったっけ? まあええわ。 そういうお前は? 名前なに?」


矢坂が藤宮に切り返すと、藤宮は頷き自己紹介を始めた。


「僕は、藤宮誠です。高校生でした。ゲームのせいでいろいろあってホームレスにもなったこともあったけど、友達を救うため生き残ってきました」


「なんや、人質にも取られとんのか?」


「いえ、死んでます。だから、生き返らせて救うことで友達になるんです」


「なんか、こいつ怖いわ......」


「みなさん、お知り合いが多いんですね。本当に運営の言葉通りだ......」


矢坂達が盛り上がる一方、残りの4人は輪に入れずに沈黙したままだった。その中の一人、三吉壮太がようやく口を開いた。彼は細身ながらも長身で優しい見た目をしていたこともあり、死線を潜り抜けた他の参加者たちの顔つきより逆に異彩を放っていた。


「ほな、次は口開いたあんたやな」


「わかりました。初めまして、三吉壮太と言います。東北の方でサラリーマンをしており、妻と子供がおりました。皆さんも経験したかわかりませんが、第1ゲームの後、妻も子供も職場も私を認識できなくなり、家を飛び出しましたけども。私は難病の息子を治すためここまで来ました。息子のためなら、なんでもします。先に謝っておきます、申し訳ありません」


三吉の言葉に、天童がメガネをくいと上げて食いつく。


「どうして先に謝ろうと思ったんですか? それはあなたが魔女だからでしょうか」


「いやいや、そんなわけないでしょ! 誤解です。 昼のターンにだって人間側は一人殺さなきゃならないルールなんだろ! 謝って何が悪い!」


「そういう変な言い訳が怪しいつってんのよ。妻子持ちアピして善人ぶってても、あんたは人殺しなの。みんなそういう一面を持ってるから、ここにいるんでしょ?」


焦る三吉に犬上はさらに食らいついて離さない。誰もが三吉を怪しみだした。

三吉は自分の考えを見透かしたような犬上をにらみつけると、犬上もにらみ返していく。殺伐とした中、天童が手を挙げていく。


「今度は自分が。よろしいですか?」


「正直飽きてきたわ。さっさとして」


緑川の冷ややかな言葉を無視するように天童は自己紹介を始めた。


は天童 竜成と申します。自分の願いは『自分の持つ知識、記憶を失うこと』にあります。といいますのも、自分は幼いころから勉強に困らず好奇心から多くのことを学んできました。ですが、高校・大学へと進学するころには地球上にあるずべての本は読了しており、その理論も方法論も頭に入ってしまっていた。つまるところ『つまらない人生』になっておりました。その中で、このアプリと出会い......」


「長い長い! 面接聞いてるみたいで、鳥肌立ってきた」


天童のお手本のような話し方と定型文に、これまで口を閉ざしていた富山美咲が大声で止め始めた。すると、天童はしゅんとなり反省し始めた。


「よく言われます。簡潔に話そうとは努力しているのですが......」


「次私だけど、簡単に済ますわ。富山美咲。一応会社では人事やってたけど、仕事失くしてからは自分のやりたいことやってた。私の夢は『自作の小説を世に出すこと』以上。ほら、最後あんたしか残ってないわよ」


そういうと、一人おどおどとしている女性大村美雪にバトンタッチした。大村はうつむきながらも小さくうなずいた。


「お、大村美雪です......。もう、人を殺してまで生きたくありません。魔女の方でもだれでも構いません。始めに指名するなら、私にしてください。私にはみなさんみたいな夢はない......」


彼女の言葉に他の9人は初めて心の中の意見が一致していた。


「なら決まりね。私はここで死にたくない」


「え、え?」


「悪いな、嬢ちゃん。死んでくれ」


「ちょ、ちょっと!」


「呼び鈴鳴らして、キサラギ呼んで構いませんね?」


「ちょっと待ってください!」


淡々と進めていく飯田や緑川、矢坂を大村自身が停めていく。だが、その行動に誰もが疑問を持つ。特に天童は切り込むのが早かった。


「どうして今になって命乞いしようとしているんですか? 往生際の悪い。みんな自分が死ぬ覚悟のうえでゲームをしようとしているんです。夢のためなら人を蹴落としていいと思っています。少なくとも自分はそういう人間だと自覚した。そんな人間たちが、あなたのような臆病な人の言葉を聞くと思いますか?」


「そ、そんな......。み、三吉さん!」


「え? 私? いや、私は妻子が元気であれば他人なんてどうでもいい。そう思ってる。あなたには悪いが......」


焦りだす大村とは反対に三吉が呼び鈴を押し始めた。

ゲームが始まる、犠牲が払われる音だった。キサラギはスクリーンから再度現れて定型文のようにゲームを進める。


『それでは夜のターンに映ります。全員、目を閉じて顔を机に伏せてください。魔女の者は、殺害するものを一人指名してください。......。かしこまりました。魔法使いであるものはさらに選択を。......。かしこまりました。勇者であるものは、一人守護する参加者を指名してください。......。かしこまりました。司祭であるものは一人、調べたい参加者を指名して下さい。......。かしこまりました。それでは、皆様顔を起こしてください』


キサラギの言葉で参加者全員が顔を上げる。まだ10人いることに驚きつつもキサラギから絶望的な言葉が述べられる。


『残念なことに、大村美雪様。あなたは魔女によって殺されました。よって大村美雪、脱落』


「ふざけないで! 私は勇者よ! みんなのこと守れた! それなのに! どうして誰も私をかばおうとしなかったのよ! 全員私のように死ねばいいのよ! 死ね! 死ね死ね死ね!」


彼女の言葉は9人には届かず、彼女の座る椅子を囲むように<彼>が数人現れて彼女を壁に十字を描くように張り付けた。<彼>たちが大村を見つめていると、天井からウィーンという電動の音が聞こえてきた。電動音は近くなってきて、近くまでやってくると大村の頭上に電動ノコがゆっくりと降りてくる。大村は暴れるも壁に張り付けられており、身動きはもうとれない。脳天から血しぶきを上げ、彼女は声も上げる間もなく体が二つになっていった。


「ま、まじか......」


「グロ......」


参加者たちは口々に惨状を吐露していく。さらに死体が<彼>によって回収されていく姿に絶句していた。キサラギはこれからがゲームの始まりだと言わんばかりに次のターンへと移っていった。


【4thゲーム:魔女狩りゲーム】


参加者残り: 9 名


死亡者: 1 名

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