国賊の娘の付き人

パンドラボックス

🔳プロローグ

 広大なサードリッド大陸の北部、海岸沿いにその国はあった。

 聖ルマディナル王国。

 国土は縦に長いひょうたん型の特徴的なかたちをしている。季節風の影響で四季が分かれていて南部は暖かく穏やかな気候なのに対し、同じ国内でも北部は冬場には厳しい寒さになるところが多い。特に最北端は常に雪が降り積もる永久凍土となっていた。

 聖ルマディナル王国は争いの絶えないサードリッド大陸の中で地形の有利も相まって大陸一の歴史を持つ。文化は多様性に富み、国力は高水準で保たれており、他国では珍しい亜人種の集落も存在する。それもひとえに脈々と受け継がれてきた王族への敬愛の厚さ、そしてその想いに応えるだけの歴代王族の“在り様”によるもの。近隣諸国からは「北のマルディナル」と一目置かれていた。

 ヴィオ連邦――それはサードリッド大陸の中央部、戦争の絶えない通称“煉獄の平地”の小国から始まった。ヴィオ連邦は初代皇帝の辣腕によりまるで炎が舐めるように勢力を拡大していき、その脅威は聖ルマディナル王国へも牙を剥いた。並大抵の国ならば飲み込まれてしまいかねないところ、聖ルマディナル王国はその限りではなかった。その頃にはもう大陸一強大になっていたヴィオ連邦と対等に渡り合ったのだ。苛烈な戦争が長く続くことになったがルマディナルの国民は決して悲観することなく国王のもと奮起していた。

 しかし――事件が起こった。

 現ルマディナル王を含む王族がヴィオ連邦へと亡命したのだ。

 青天の霹靂。まさかの裏切りだった。

 聖ルマディナル王国は国王不在の中、実質組織を統括していた王国騎士団アールグレイン副師団長により体制の立て直しを図った。しかし精神的支柱がなくなった影響は甚だ大きく、ヴィオ連邦との戦争は劣勢に立たされ王都の目の前まで押し込まれる状況になる。

 もう時間の問題で聖ルマディナル王国は呑み込まれてしまう――誰もがそう思ったときヴィオ連邦初代皇帝が病により逝去。それによりヴィオ連邦は国内での権力闘争が激化し、勢力拡大どころではなくなる。

 こうして聖ルマディナル王国とヴィオ連邦の戦争は意外な形で幕を下ろした。これは国王たちが亡命してからほんの三か月後の出来事だった。

 聖ルマディナル王国は国王を含めた王族の裏切り行為により多くの国民を失い、そして国土の半分を失った。今回の事件を通してルマディナルは王族制度を廃止、民主主義の共和国へと生まれ変わる。

 ――それから五年が経った。

 人々が戦禍で負った記憶や傷跡は少しずつではあるが癒えつつあった。


 これは王族にも関わらずルマディナルに残り“国賊の娘”と呼ばれた少女。


 そして。


 困難に立ち向かう彼女を、傍でずっと支えてきた“付き人”の少年の物語だ。

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