🔳7話

 こうして新入生の能力測定が始まった。

測定の順番は自由となっていて、セラフィムたちは面接を受けなくてよくなったので身体能力・マギア潜在能力測定だけになる。そこでふたりはまず身体能力から測ることにした。

 目立たないようにって言われてもなぁ……。

 まあ前の人と同じくらいにしておけばいいか。

 セラフィムは少し戸惑ったものの測定項目を消化していき、なんとか怪しまれることなく終了した。

 ちなみにミラはというと――。

「ふぅ˝み˝み˝み˝み˝みぃ……˝みっ!」

 握力測定、二十グラム。

「じゅ……ごぉ――あ。お腹攣って……っ」

 上体起こし、十五回。

「ふぃ、フィム。背中ちょっと押してくださ……え? それはダメなんですか?」

 長座体前屈、二十八センチ。

「はひゅ~……はひゅ~……。フィム、私に構わず先に行って――おふぅ」

 千メートル持久走、七分。

 etc……。

 すべての項目で平均以下の数値をたたき出していた。自分の計測票と睨めっこしながらミラが恐るおそる口を開く。

「……もしかしてですけど私って運動オンチなんでしょうかね」

「もしかしなくてもそうだね」

「ひどいっ。ちょっとはフォローしてくれてもいいじゃないですか。フィム、そういうところですよ。そういうところっ」

「えー……そう言われてもなぁ」

 ぷりぷりと頬を膨らませていたミラが測定票を折りたたみ、胸の前で両手を握りしめて気合を入れている。

「これで終わりじゃないですからね。ささ、気を取り直してマギアの測定に行きますよっ」


 ふたりはマギア潜在能力測定を行っている第一屋内修練場へと場所を移した。

建物の中では新入生たちが三つの列を作って並んでおり、その先には台座の上に丸い水晶のようなものが置かれている。

「……あれはマギアを測定する魔道具アーティファクトなんですよ」

 セラフィムたちが遠くから物珍しそうに眺めていると、ちょうど居合わせたエールが教えてくれた。

「もしかしてマギアの測定は初めてですかぁ?」

「は、はい。恥ずかしながら……」

「い、いえいえ、そんなことないですよぉ。種族や個人差はありますけどマギアの発現は二次性徴くらいからなので今まで受けてない子も実は多いですよ」

 そう補足してから彼女が続ける。

「だ、大丈夫ですよ、やり方はわたしでもできるくらい簡単なので……。あの魔道具に手をかざしてマギアを注ぐとですね――」

 そのとき、眩い光とともに会場に大きなどよめきが起こった。発光があった先では昨日の入学式で見かけた人狼種の少年の姿があった。

『マジかよすげぇマギアだな……っ』『でも私ちょっと怖いかも……』『やっぱり亜人種のマギア量が多いってのはマジなのか』

 他種族だからであろう、嫌悪と畏怖が入り混じった視線が集まる。

「……ちっ。おい、もういいんだろ」

 それを煩わしそうにしながら少年は第一修練場を後にした。

「と、あんな風に反応します。光の強弱で潜在能力が計れますぅ……」

「さっきの光はすごかったの?」

 セラフィムが尋ねてみる。

「そ、そうですねぇ……今年の新入生の中では今のところ一番だと思いますよ」

「おお~~~~」

 瞳をきらきらと輝かせているミラ。どうやら先ほどの光景によほど感動したらしい。セラフィムの腕を引っ張ってくる。

「フィムっ。私たちも早くやってもらいましょうっ」

 ……。

 …………。

 ………………。

 列に並んでしばらくすると順番が回ってきた。

 まずはセラフィムから受ける。

 これくらい、かな?

 先ほどと同じように加減をしながら魔道具へとマギアを注ぐ。

「……どうぞ」

 担当の教師から渡された測定票には『マギア潜在能力測定:B』と記されていた。

 ……これは目立ってないってことでいいんだよね?

 列から離れようとしたとき、周りに人だかりが出来ていることに気付く。

「センセ。もしかして俺やっちゃった?」

「あ。お、お疲れ様ですぅ。いえいえ、セラフィムさんは問題なかったですよ。この人だかりはミラさんの結果が気になるんだと思いますよ……」

「ミラの……?」

「だ、だって彼女のお母様はあの“大魔女”じゃないですかぁ」

「“大魔女”……そう言えば――」

 今は亡きミラの母親は王妃になる前は大陸屈指の魔法の使い手“ルマディナルの大魔女”と呼ばれ、周りの国々からも畏れられる存在だった。

 たしかそんな風に呼ばれてたっけ。

 言われてセラフィムはそのことを思い出した。

 でもミラは――……。

「ミラさんがどれほどの才能なのか……わたしもちょっと気になっちゃいますぅ」

 周囲の注目を知ってか知らずか、ミラが緊張した面持ちで魔道具へと両手を添える。

 そして――。

「ふぅ……っ」

 小さく息を吐いた。

 魔道具には一切の反応がない。

 しんっと静まり返る会場。

 そんな中、測定担当の教師がおずおずと口を開いた。

「あの、マギア込めてもらってもいいですか?」

「え!? わ、私なりにやってみたつもりなんですが……」

「測定できていませんね。もう一度お願いします。今度はもっと気合を入れて」

「は、はぁ」

 ミラが改めて両手をかざす。

「ふぎ~~~~……っ」

 そのとき、魔道具が弱々しい種火のような光を灯す。しかし、それも一瞬で消えてしまった。

『………………』

 様子を窺っていた人たちがぽかんと口を開けている。

 ……まあそうだよね。

 その測定にセラフィムは心の中で頷いた。

「えーっと、あの、どうでしょうか……?」

「え!? あ、はい、そうですね――」

 担当の教師がはっと我に返ったようになり慌てて測定票に記入する。


 ミラ――マギア潜在能力判定:F

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