🔳8話
すべての測定を終えたセラフィムとミラは中庭まで来ていた。
「いや~……この結果には我ながらまいっちゃいますね」
自分の測定票と睨めっこしていたミラがばつが悪そうに苦笑し、ベンチへと腰かけた。
「気を落とさないで、ミラ」
「……慰めてくれるんですね。でも私は大丈夫ですよ」
セラフィムは声をかけるでもなく、ただ彼女の隣に座る。
「……」
「……」
ぽつり。
不意にミラの握りしめていた測定票に大粒のしずくが落ちる。堰を切ったように彼女の瞳から涙があふれ出した。
「ご、ごめんなさいっ。いきなり泣くなんて、私、変ですよね……」
「……」
セラフィムは黙って彼女の言葉を聴く。
「わ、私……魔法の才能ありませんでした……お母さまの娘なのに……っ」
ミラが母親をどれだけ尊敬し、慕っていたのかセラフィムは十分に分かっていた。だからこそ母の代名詞であった魔法の才能がないことは、彼女にとって筆舌に尽くしがたいほどショックだったのだろう。
セラフィムは肩を震わせているミラの頭を優しく撫でる。そして、きっぱりと言ってみせた。
「大丈夫。キミは間違いなくあの人の子どもだよ」
「……フィム?」
「だってそっくりだもん。超が付くほどのお人好しなところとか、すぐに無茶しちゃうところとか、あと実は食いしん坊なところとか。君たちとずっと一緒にいた俺が言うんだから間違いない。マギアの大小なんて関係ないよ。大事なのはそういうところだと俺は思うな」
セラフィムの言葉にぽかんとしているミラに「でしょ?」と付け加える。
すると、彼女がくすりと笑った。
「……そう、ですよね。私としたことがちょっと弱気になっちゃってました。これじゃ天国のお母さまに叱られてしまいますね。そうですっ。考えてみれば身体もマギアも鍛錬すればいいですからね」
「うん。そうだね」
先ほどまで落ち込んでいたのが嘘のように両手を胸の前でぐっと握りしめて意気込むミラ。
……そういうところも似てるよね。
セラフィムは彼女のこの前向きさに何度となく救われていた。
「根性です、根性っ」
日が傾き始めた頃、学籍番号ごとに教室が割り振られたものが掲示板に張り出された。これがチームの初顔合わせになる。ファルケが手配したのだろう、セラフィムとミラは同じチームになっていた。
「基本的にはフォーマンセルなんですよね。あとのふたりはどんな方なんでしょうね。男の子なんでしょうか、それとも女の子ですかね」
「……さあ。どっちでもいいでしょ」
「もう~。フィムったら相変わらず他人に興味ないんですから。いけませんよ、これからはチームなんですから」
「む。……ごめん」
「私はですね、ちょっとだけ女の子がいいなぁなんて思ってるんです。お友達になれたりなんかしたら素敵じゃないですか。初めてのお友達です。あ! もちろん私のこと嫌がらないでいてくれたらの話ですよ?」
……友達、ね。難しそうだけどなぁ。
話をしながら指定された教室に到着する。ミラが緊張した面持ちで「すーはー」と深呼吸を繰り返してからドアを開いた。
教室の中にはセラフィムたち以外のふたりが揃っていた。
ひとりは良く言えば物静かな、歯に着せぬ言い方をすればじみーな男子生徒だった。
「……」
地味な男子はまるでお通夜みたいな雰囲気で背中を丸めて机についている。彼がそうなっているのはもうひとりのチームメイトが原因であった。
あれは――……。
セラフィムはその生徒に見覚えがあった。そう、そこにいたのは入学式の前にひと悶着を起こし、マギア潜在能力測定ですごいポテンシャルを見せていた獣人種の少年だった。
「は、はじめまして~。よろしくお願いします」
早速ミラが挨拶している。
「うるせー。俺に話しかけんじゃねぇ」
しかし人狼種の少年は舌打ちしてそっぽを向いてしまう。
そしてもう一方の地味な男子はというと、
「………………最悪だ最悪だ。ただでさえ厄介そうな奴と同じなのに“国賊の娘”まで一緒だなんて――」
と机に突っ伏して頭を抱えていた。
「あ、はは、は……」
そんなふたりにミラは固まってしまう。
いくら他人に興味がないセラフィムでも察してしまう。
……ダメそうだね、これは。
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