🔳6話

 セラフィムとミラは生徒会室での話を終え、食堂で朝食を取ってから教室へと向かった。

『………………っ』

 ドアを開けると教室内ににわかにざわついた。しかし、昨日のようにミラに因縁をつけてくるような生徒はいない。どうやら早くもファルケが働きかけてくれたみたいで、その効果があったようだ。

 ふたりは空いている一番後ろの席へと腰を掛けた。

「……なんだか落ち着かないですね、フィム」

「む? なんで?」

「なんでって……」

 図太いセラフィムにがっくりと肩を落とすミラ。

 キーンコーンカーンコーン。

 しばらくすると本鈴が鳴ってエールが教室へとやってきた。教室内は先ほどセラフィムたちが入って来た時の緊張感はもうなく賑わっている。そんな中、相変わらず自信なさげに話し始めた。

「は、はじめまして。わたしはこの学園の教師でエールともうし――あ、皆さん、ちょっとお静かに~。ふ、ふふ、そうですよね……みなさんわたしなんかの話なんて聞きたくないですよね。わかってます、わかってますよぉ。どうせわたしなんか……」

 しゃがみ込んで床に人差し指で「の」の字書いていじけている。その様子に教室は水を打ったようになった。

「――あ、なんか静かになってますぅ。それじゃあ今のうちに今日一日の流れを説明しちゃいますねぇ」

 エール曰く、騎士道学園ではまず四人一組の小隊――フォーマンセルを作り、座学以外の授業・訓練ではこれを用いることになっている。メンバーは個々の能力や相性などを考慮して学園側が選考し、基本的には卒業までは変わることはない。

 今日はそのフォーマンセルを組むための選別日。生徒たちは身体能力・マギア潜在能力測定、性格適正面接テストなどを受けることになっていた。チーム発表は今日のうちに掲示板へと張り出されるらしい。

 エールからの一通りの説明が終わった後、一旦解散となった。


 部屋に戻って制服から学園指定の運動服へと着替え、セラフィムたちは会場へと向かっていた。

「さて。いよいよ始まりますねっ」

 ミラが自分の頬をぱちりと叩く。

「気合入ってるね」

「それはそうですよ、自分の適性がわかるんですから。私としては前衛の剣士としてこう、しゅばばーっと活躍できるの前衛もいいんですけど、やっぱり魔法で――」

「せ、セラフィムくん。ミラさん。こっちですぅ、こっち……」

 話しながら歩いていると木の陰に隠れていたエールに呼び止められた。

「エール先生? どうかされたんですか?」

「……実はわたし、ファルケちゃんからあなた達のことを一任されましてぇ」

そう耳打ちしてから特大のため息を吐く。

「うう……あの子ったら昔っからいつも無茶ばっか言って~。他の先生にバレたら大変なんですよ!? ほんともうったらもうですよぅ~~~~」

 頭を抱えて天を仰ぐエール。

「――はっ。ご、ごめんなさい、取り乱してしまいましたぁ。とにかくですね、そういうことですからチーム決めに必要な面接はパスでいいので他の測定を回ってくださいね……」

「……ご迷惑おかけします」

「わ。わ。わたしになんて謝らないでください。今のはファルケちゃんへの愚痴というか恨みというか……それにこう見えてもわたし先生なので頼ってくれて大丈夫ですよぉ」

 眉をハの字にしながら自分の胸をとんっと叩いた。なんだかんだ言っても教師としての矜持がある――……。

「あ、そうです。セラフィムくん」

「む?」

「能力測定ではくれぐれも目立たないようにお願いしますね……。これ以上ストレスかかったら胃に穴が開いちゃいます~~~~……っ」

 ――というわけでもないらしい。

 エールが涙目になってそう訴えてくるのであった。

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