🔳13話
「ふわぁ~~~~……」
あんぐりと開いた口をセラフィムは眺めていた。
「ミラ眠そうだね。大丈夫?」
「……平気ですよ、平気。フィムの方が大変だったんですから私だけ泣き言言ってられませんよ」
結局、昨日の一件でセラフィムが部屋へと帰ったのは日を跨いだ明け方になってからだった。しかし、そんな彼をミラは一睡もせずに出迎えてくれた。その後、少し休んだものの仮眠程度ですぐに朝を迎えてしまう。セラフィムは徹夜なんていくらでも大丈夫なのだが、ミラは完全に寝不足だった。おかげで今日の座学の授業は何度も寝落ちしかけて机に額をぶつけていた。
……。
…………。
………………。
そしてチームでの訓練時間になった。
修練場に到着するとそこには先にルゥの姿があった。彼はふたりを見つけるなり開口一番要求してくる。
「おっ。来やがったなニセモブ野郎! 組手だ、組手。勝負すっぞ!」
「ニセモブ……? もしかして俺のこと?」
「そうに決まってんだろ! つえーくせに目立たない見た目しやがって」
「あは、は……褒められてるのか微妙なあだ名になっちゃいましたね、フィム」
「おい! 何笑ってやがるんだ、おせっかい女ぁ!」
「わ、私はおせっかい女ですか!?」
がーん、とオノマトペが出ていそう感じでミラがショックを受けている。そんなやり取りをしていたら始業の鐘が鳴ってエールがやってくる。
そしてもうひとり――。
「……ふんっ」
そこにいたのはリナリアだ。今朝と違って学園の制服を着ている。
「……彼女は今日付けで学園に入学したリナリア・アールヴライトさんです。リナリアさんはまだ十歳ではありますがその魔法の才能を評価されて飛び級での入学となりましてぇ……うちのチームに所属してくれることになりました。よ、よかったですね~、これで正式にチーム結成ですぅ」
エールが簡単に説明してくれる。そう、ファルケが言っていた提案とはこのことだった。学園に通うのであれば孤児院にいるよりは安全だし、欠員の出ていて補充の目途の立ってないセラフィムたちのチームにとってもメリットは大きかった。
リナリアがずいっとセラフィムの前に出る。
「そういうことだから。感謝しなさいよね、セラフィム」
「あら? もう知り合いなんですか?」
「うん。ほら昨日の話した例の――」
「まあっ。そうだったんですか」
「ちょっと。何? その女」
リナリアが訝しげな視線を送ってくる。
ミラとリナリア、ふたりの視線が交差した。
「……何よ。ダークエルフがチームに加わるのが嫌だって言いたいの?」
「いえ、全然? ただ――……」
言いづらそうに口をもごもごしている。
「ただ、何? 言ってみなさいよ。どうせロクなことじゃないんでしょ。ふんっ」
「あの、その……小さくてお人形さんみたいで可愛いなぁと思いまして」
てれてれと白状するミラ。
「――は? ……――可愛いっ!?」
意外な言葉にリナリアがびっくりしながら一歩後ずさった。耳まで真っ赤にしてぷいっとそっぽを向いてしまう。
「セラフィムと言い、アンタと言い何なのよ……調子狂うわね。……はじめて言われたけど、まあ悪い気はしないわね」
「よろしくお願いしますね、リナリアちゃん」
「ふんっ。そこまで言うなら仲良くしてあげなくもないわ」
両手を腰に当てて得意げに胸を張っているリナリアに「ありがたき幸せです~」と拝んでいるミラ。
どうやらふたりの相性はそこまで悪くはなさそうだった。
一方で――。
「飛び級ねぇ……。俺は別にダークエルフとか気にしねーけど戦力になるのか、そいつ」
がりがりと後頭部を掻きながらルゥが言った。
ぴしり。
場の空気が張り詰める音がした。ミラとじゃれ合っていたリナリアが彼の方へと振り向く。
「……」
「……」
そして無言で相対する。身長は一回り以上違うというのにリナリアはルゥ相手に一歩も引いていない。
「それはこっちのセリフなんだけど? あたしも
「んだとクソガキ……っ」
「何よワンころ」
ふたりの視線がばちばちっと火花を散らす。
こちらのふたりは少し雲行きが怪しそうだった。
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