意外と気にならない。



 草原を走る事、三日。


 正直「いや何でこんな広い土地が手付かずなんだよ道すらねぇんだよ馬鹿かよ死ね!」と文句がグロス単位で出続けたが、良い事も幾つかあった。


 それは、クソトカゲ以外のマトモな生物と遭遇出来た事だ。


 自動運転とは言え疲れも溜まるので、数時間おきに車を一旦止めての休憩を挟んでた時、一抱えもあるデカいウサギと遭遇した。


 めちゃくちゃ可愛かったし凄く美味しそうだったので、ステータスのゴリ押しで捕獲して、コマツのハサミで無理矢理解体してから丸焼きにして食べてみた。流石にウサギは毒持って無いだろの精神で。


 まぁ、うん。解体が大雑把なせいでそこまで美味くは無かった。首を落としての血抜きはしたが、内臓を掻き出すのには苦労した。


 適当な刃物が無いからウサギの腹を掻っ捌くのもコマツの圧砕機ハサミである。内臓を幾つか潰しながらの切断になったのは仕方ないだろう。


 調味料だって持ってないし、どうしようも無い事は諦めるしか無い。


 そんな経験を経て三日目の夜。やっと見付けた人工的な『道』の傍で今日は寝る。


 やっぱり眷属化による自動運転が出来るとは言え、走行中に車の中で一人寝てしまうのは少し怖かったから、車を停めて寝る様にしてる。


 さて、そんな理由で止まって居たのだけど────


「へっへっへっ、よく分からんが有り金全部置いてけや兄ちゃん……」


「見るからに高そうな魔道具だなぁ? 売ったら幾らになるんだこれ」


「今日は運が良いぜ。行商の馬車襲ってすぐにこんな獲物が見付かるとはな。こんな場所に一人で居るとか、完全にカモじゃねぇか」


 ────マジで盗賊にエンカウントして乾いた笑いが出る。


 この時点で分かった事の二つ目。この異世界は『何故か言葉が通じるタイプのご都合異世界』だったって事。言葉の勉強から始めなくて良いのは助かるが、言語差などによるバグとか不具合とか怖いので、後々そう言った細かい所も検証して行きたい。


 まぁ、今は目の前の盗賊達に集中か。


 八人組で、二頭の馬を連れてる。馬にはギッチリと荷物が乗ってて、アレが俺の前に襲われた行商から奪った物なんだろう。もしかしたら馬その物も略奪品なのかも。


 レベルがたった21しか無い俺は、相手のレベルが分からない内から無茶は出来ない。取り敢えず今はガードナーの防御力を信じて引きこもりつつ、コマツ達を召喚して小手調べだ。不味かったらタイタンを真上に召喚して何人か潰して、そのまま残りも轢き殺してやる。


「コマツ、ブレイク、シザース、殺れ」


 車の中に引きこもったまま、外に召喚した眷属に指示を出す。


 その結果、三十秒で盗賊達は全滅した。


「…………………………えっ? 弱過ぎん?」


 高レベルの盗賊を警戒してたのだが、見てた感じは八人全員がゴミだった。コマツ達に襲われる際の動きは全てが緩慢かんまんで、レベルが21しか無い俺から見ても非常にゆっくりしてた。


 あれが本気の動きだと言うなら、俺は素手でアイツらを殴り殺せる自信がある。剣も槍も弓も全部見てから回避余裕な感じで、コマツ達に襲われてる様子から見ても防御力が高いって事も無かった。


 コマツの圧砕機ハサミでバラバラにされた奴と、ブレイクの自動ツルハシブレイカーで風穴が空いた奴と、シザースの作業鋏クローでグチャっと潰れた奴。そんなバリエーションで八人の盗賊は全員が確実に死んでいる。


「…………これが標準、って事は無いよな?」


 もしそうなら、俺のステータスが化け物過ぎる事になってしまう。


「いやいや、これはアレだろ? やっぱ盗賊だから弱かったんだよな? 冷静に考えて、ちゃんと強かったなら盗賊になんて成らなくても仕事はあるはずだし」


 そう、つまりコイツらが異様に弱かったんだ。多分、きっと、メイビー。


「それにしても、人を殺したのに全然気にならないな」


 俺が命令するまでもなく、気を利かせて馬確保に動いてるコマツ達を眺めながら呟く。たった今、自分の意思で人間を何人もめちゃくちゃスプラッターな感じにぶち殺したにも関わらず、俺の心は凪いでいだ。


 やっぱ、クソトカゲに蹴り転がされて死の恐怖を感じ、その後も殺してボコられを繰り返したせいで精神がバグってるんだろうか?


「おれ、MINマインドの数値だけ異様に低いもんな。可能性はあるぞ」


 他のステータスは三桁に突入してる中、精神を意味するMINだけは余裕の二桁なんだよな。一番高いVIT189に対してMINが84。


 これは、本当にメンタルがやられてる可能性を否定出来ない。


「まぁ、ゴミを殺しただけでメンタルが凹むよりは良いか。…………ん?」


 しかし現状それで困ってないし、むしろプラスだから気にしないと開き直った所で、コマツ達の様子がおかしい事に気が付く。


 二頭の馬を三機で上手く囲んで逃がさない様にしてるのだが、その動作を見ると何やら困惑してる感じがする。やっぱコイツら薄くても自我有るよなコレ。


「どうしたー?」


 見てるだけだと原因が分からないので、ガードナーから降りてコマツ達の方に向かう。ついでにタイタンを召喚して街道の脇に穴を掘って死体を埋めるように指示を出しておく。


 死体を放置すると疫病の元になるからな。


「で、なに。どうし────」


「──ここ、どこぉ…………? おとうさっ、おかぁしゃっ」


 ビビり倒して今にも気絶しそうな馬に近寄って、コマツ達が困惑する原因を探ろうとした俺の耳に、はっきりとその言葉が聞こえた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る