二戦目。



 色々試した結果、12レベルしか無い雑魚ステータスの癖に結構な超人化してる事が分かった。


 走れば景色を置き去りにし、ジャンプすれば大木の半分くらいまで手が届いた。耳をすませば少し離れた場所を這う虫の足音も聞けるし、目に集中すれば視力も多分5とか6とか有りそうなくらい良く見える。


 これなら囮役も問題無くこなせるだろう。


「って事で、重機追加」


 戦闘を意識すると、どうしても重機の移動速度が欲しくなる。すると選択肢はタイヤ走行の機種になるが、生憎とここは森の中だ。木々の間隔が大きく空いてるから多少の重機も通れるだろが、タイヤで満足に機動出来るかと聞かれたら否だろう。


 だとすれば、残る選択肢は森の中でも動けそうなキャタピラ走行の重機になる。


「速度とパワー、あと出来れば攻撃性。この三つが揃ってる重機って、やっぱりパワーショベル系なんだよな……」


 思案した結果、今の手持ちで買える最大サイズの油圧式パワーショベルを一機購入。名前はストレートにコマツと名付けた。


 コマツのアタッチメントはショベルバケットじゃなく、解体作業に使われるコンクリート圧砕機が付いてる。オオクワガタのハサミみたいなアタッチメントで、文字通りにコンクリートを砕く為の装備だ。


 簡単に言うとショベルカーのスコップ部分がオオクワガタに換装してあるタイプを買った。これでクソトカゲの足をグシャッと切断してやる。


「よし、最悪の場合は走って逃げるくらいの抵抗は出来そうだな。なら次は、食料と水の調達が課題か」


 食料の当てはめる。そう、クソトカゲだ。一匹居たならもう一匹くらい居るだろ。探し出して殺せば肉が手に入る。


 そもそもが口にして良い物なのか分からないが、あの図体で毒持ちって可能性は少ないだろ。なら食えなくも無いはずだ。


 生物が毒を持つ理由は主に二つある。捕食する為と、捕食されない為だ。


 捕食する為に持つ毒は蛇をイメージすれば良い。噛み付いて毒を流し込み、食えるようにする。これが捕食する為の毒だ。要するに武器なので、毒腺を取ってやれば肉は食える。


 で、捕食されない為の毒は厄介だ。フグをイメージすると良い。その身に致死性の毒を持ってるから、その毒に耐性を持ってる海鳥でさえ食べるのを避ける。


 そもそもが食べられない為の毒だから、肉その物が毒であり、食べるのは困難を極める。………………日本人はそんなフグを嬉々として食う変態なんだが。


 とかく、そう言った生態からも分かる通り、捕食者側の生物が肉に毒を持つ可能性はとても低い。ゼロじゃないが、それはもう運の話になるから置いとく。本来は無視して良い確率に怯えて行動を止めたら、どっちにしろ飢えて死ぬのだから食うしかない。


「だから、問題は水だな」


 肉はクソトカゲを探せば良い。虫も居たけど、流石に虫は毒の可能性が捨て切れないあたいなので止めておく。


 別に、この期に及んで選り好みしてる訳じゃない。先の通り、非捕食者は毒持ちの可能性が結構有るからリスクが無視出来ないのだ。なので食料はとにかく頂点捕食者くさいクソトカゲに絞る。


 それで、問題はやはり水。これは喫緊の問題だ。


 人は二日か三日も水を飲まなければすぐにダウンする。一日に1リットルから2リットル程も汗をかく生き物である限り、水の確保は必要だ。


 しかし、下手なサバイバル知識で水を飲むと逆に危険でもある。汚水を口にして下痢でもしたら脱水症状ですぐさま死ぬ可能性が有るし、聞きかじりのサバイバル知識で植物から水を得るのも実は危険だ。


 樹木の中には樹液がクソやばい毒になってる種も存在するので、そのまま口にすると問答無用で死ぬこともある。実際、アボリジニかどこかの民族が樹液を煮詰めた物を毒として使って狩りをしてるらしい。


 そんな訳で、水の確保に困ってる。


「最悪は樹液も飲むが、出来れば最終手段にしたい。…………給水車って購入時点で水が入ってたりしねぇかな?」


 いや、ダメか。購入時点で燃料ゼロで出現するんだ。給水車だけ水たっぷりとか望み薄だろ。


「とりあえず、肉の確保を目指すか。ジャックを召喚して伐採を再開。その騒音を聞き付けてクソトカゲが来る事を祈るか」


 って事でジャックを召喚。さっき中断した大木に対して伐採を命じる。一応、燃料はフルで補給しておく。


「どうせヌルは数ヶ月使えないんだし、9600もの魔力は気にせず使って良いだろ」


 ◇


「…………来た」


 待つこと二十分ほど。ジャックが大木を1メートルほど切れた頃に、ズシンズシンと足音が聞こえた。


「これ、あの黒い奴じゃないな。別のトカゲか、それとも種類からして違う生き物か…………」


 出来れば毒を持って無さそうな捕食者側の生き物が良い。肉が不味くても安全性を優先したい。


 耳をすまして、足音のする方向を確定する。


「そっちか…………」


 俺は先手を打って走り出した。レベルが上がるまでとは比べるべくもない程の疾走だ。大木の影に隠れながらでも素早く音の主まで接近出来た。


 するとそこに居たのは、ジャックが奏でる騒音に向かってゆっくり歩いて来る竜の姿。


 やはり見上げる程にデカいが、先のクソトカゲと色が違う。褐色の鱗を持つ西洋竜で、多分アイツが拾った鱗の主なんだろう。


 よく見ると、黒かったクソトカゲより二回りくらい小さい気がする。あのくらいならコマツでも戦える気がしてきた。


 俺が隠れてる大木を通り過ぎようとしたクソトカゲにそっと近付き、その足元にコマツを召喚する。召喚されたコマツは圧砕機を使って褐色クソトカゲの足に噛み付く。


 ──ガルァアッッ!?


「振り回せ!」


 ガッツリ噛み付いたコマツはアームを持ち上げ、二足歩行してた褐色クソトカゲのバランスを崩す。そうして足が地を離れたなら、大型のパワーショベルであるコマツの独壇場だ。


 サイズで負けてたとしても、黒クソトカゲじゃなく褐色クソトカゲ程度の大きさならば、持ち上げるのは無理でも振り回すくらいなら可能である。


 足が浮いたクソトカゲは、コマツのアームスイングによって大木に叩き付けられる。クソトカゲの重さに遠心力、そしてコマツのエンジン出力によって成されたフルスイングは、重量の足りてないコマツの機体をも浮かしてしまうが、コマツはキャタピラ前の排土板を上手く使って耐性を維持する。


 右から大木へ叩き付けたら間髪入れずに逆回転。今度は左から大木に叩き付ける。


「死ぬまで続けろコマツ!」


 ジャイアントスイングでリングコーナーに叩き付けるような暴虐を絶命まで続ける。


 振り回される遠心力のせいでロクに抵抗も出来ないクソトカゲだが、奴は腐ってもドラゴンである。ファンタジーに於ける最強生物として名高い化けもなのだ。


 そう考え、反撃を封じたうえで持久戦を覚悟してたのだが────……


「…………ん?」


 ────あれ、アイツもう死んでね?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る