生きてた。
「……………………ん?」
ふと、目が覚めた。気怠く重い瞼をこじ開けて見れば、巨木の隙間から燦々と陽の光が降り注いでいる。
超巨大重機の上に居るからか、巨木の葉がとても近い。こうしてみると普通の森みたいだ。
「…………あれ? もしかして俺、生きてるのか?」
体を起こして確認してみる。戦闘前は『ギリギリ生存』といった感じの半死人みたいな状態だったのに、何故か今は全身の痛みが引いてる。
左肩を見ても腫れが無くなっていて、誰かに治療して貰ったのかと思えばエクスカベーターの上に居るまま。誰かに何かされた様子も無い。
ふむ? あの高さから鉄の塊に向かって落ちて、無事で済むわけないと思うんだが。どうなってる?
痛みが引いてる事自体も別に良い。どれだけ寝てたのか分からないが、相応の時間を休んだと思えば回復してる可能性もゼロじゃないだろうし。
ただ、あれだけ壊滅的なダメージを受けてた左肩まで全快してるのはどう言う事だ? 固く握りしめて保持したままだったアルマーニは未だに酷い異臭がこびり付いてるし、誰かの介入は本当に無かったのだと伺える。
もし善意の第三者が居たら、まずこの死ぬほど臭いアルマーニを何とかするだろ。人の鼻は匂いに慣れる物なのに、未だに臭いってこれどれだけ臭いんだよって逆に感動する程の異臭だぞ。常人だったら絶対に処分する。
視線を下に向け、エクスカベーターの下敷きになったクソトカゲを見る。ちゃんと死んでるっぽい。轢死した野生動物みたいなツラしてやがる。ざまぁみろ。
「さて、降りれるか?」
回復してる理由は分からないが、生きてたならそれはそれで良い。ひとまずここから降りようと思う。
世界最大の乗り物、バケットホイールエクスカベーターなんて人生でお目にかかる機会なんて早々無いだろう。俺だって今初めて見るくらいで、つまりどうやって降りれば良いのか分からない。
「確か最低でも五人乗りで、中で生活出来る居住スペースとかあるんだったか?」
デカ過ぎて、自分が今どのパーツの上に居るのかすら分からないから、人が乗って良い場所とかも分からない。ある程度知ってればハシゴや階段とかの場所も分かっただろうに。
今俺が居るのは、なんだ? どっかの鉄板的な場所の上だ。
「上から落としたし、正位置で落ちてるとも思えないが……」
訳が分からないので、機体の表面的な場所を伝ってよじ登る、いやよじ下がるしか無い。
掴める場所、足が乗る場所を必死に探してなんとか降り切ると、見上げたエクスカベーターは本当にデカかった。なるほど、コレが世界最大の重機か。そりゃギネスにも乗るわ。
「さて、コイツはちゃんと死んだのかね?」
ふと考えが頭を過り、その発想に従って黒いクソトカゲに手で触れる。そして売却を念じると死体が一瞬で消えた。生きてたら多分所有権とか無いだろうし、消えたなら殺せてたって事なんだろう多分。
「あ、やべっ…………!?」
そして突然下敷きが消えた事で、上に乗ってたエクスカベーターが更に降って来て死ぬほど危ない。走って逃げるが、もし倒れて来たりしたら問答無用で死ぬ。プチッと死ぬ。
「にぎぃやぁぁぁあああああッッ!?」
1万4200トンもの質量が地面に激突する音は凄まじく、その衝撃だけで俺は吹っ飛ばされて巨木に激突した。
しかし思ったほど痛みが無く、エクスカベーターもそれ以上動かなかったのでほぼ無傷で終わった。倒れて来なくて良かった…………。
「……ふぅ、何とかなったぜ。さて、あのクソトカゲはいくらになったんだ?」
──『邪法竜/156000000P』
「ふむ。…………一億と五千六百万か」
クソほど高額で売れて逆にビビってる。サービスチケットを消費してしまったが、お釣りが来るくらいのポイントが手に入ってしまったな。
「ある意味、理想的な展開か?」
バケットホイールエクスカベーターは製造に数十億だったか、数百億だったか、とにかく凄まじい額が掛かる代物だ。値段を無視して購入出来るサービスチケットで買う物としては、ある意味最適解とも言える。
その結果で得た莫大なポイントを使って細々とした重機も買えるようになったので、貴重なチケットを使ってショボイ金額の重機などを買わずに済んだ。最初は文無しだったから、どんなに安いビークルでもチケットで買わざるを得なかったし。
「まぁ、買っても依然として動かし方を知らんのだけど」
精々、配達用のバイクや業務用の車を動かせるくらいか。こっちなら余計なオプションが付いてるだけで、実質ただの車だし。
「この森を抜けるなら、バイクかね? オフロードを爆走出来るラインナップとか無いもんか…………」
そう言えば、呼び出した乗り物って俺の魔力で動くんだっけか? その
「俺の持ってる魔力がゴミだったら、これから買う乗り物が全部物置か質量兵器にしかならんぞ……」
ああ、そうだ。こんな巨大なクソトカゲを殺したんだから、何か成長要素的な物は無いのか? 冷静に考えなくてもドラゴンって普通は強敵ポジションだよな?
「スキルとかある異世界なんだし、ついでにレベルとかステータスとか────」
──『アルマ/Lv.12』
──『ワークビークルショッピング』
──『拡張可能』
──『拡張可能』
うわ、なんか出た。
……………………………………名前をタップ。
──『アルマ/Lv.12』
──『HP:1200/MP:1200』
──『STR:96/INT:84』
──『VIT:108/MIN:48』
──『AGI:84/DEX:72』
「────ステータスとか、あったら、うん。良かったなぁって、思ったけど、うん。…………本当に出て来られるとソレはソレで引く」
ドン引きした。なんだよ、マジでレベルとかあるのか。引くわぁ。
スキルとかある世界だし、こんなの今更なんだけどさ。でも現実でレベル概念とか出て来ると普通に引かない? 引くよね? 俺は引く。
いや、だって、何をもってして俺の能力を数値化するわけ? どうやるのそれ? プログラムで組まれた世界に落とし込まれたキャラクターなら分かるけど、ここって異世界とは言え現実じゃん?
例えば握力とか、握力計使ったって本当は数値化なんて無理だぞ? その日のコンディションで結果が変わるし、使用機器の精度でも変わる。筋肉の質だって秒単位で成長したり退化したりするんだから、尚更無理だ。
それを「はいコレが今のあなたの能力値でーす」って出されて、信用出来る? 出来ないだろ?
それとも何、その日のコンディションによって上下した数値も綺麗に反映されんの? 今日はSTR96だけど、明日ちょっと調子悪かったら94とかになるの?
「気持ち悪っ……!」
そんなのリアルタイムで反映してたらしてたでソレも気持ち悪いし、反映されないならされないで普通に気持ち悪い。
「いや、落ち着け俺。スキルなんて物を押し付けられてんだ、そこから考えればそう変でもない…………」
そう、これはバフだと考えよう。
俺の身体能力に対してステータスの数値だけバフが掛かる。コンディションが良かろうと悪かろうと、STRが96なら96分の強化が常時入ってるんだろう。何者かにスキルを植え付けられた様に、このステータスも後付けのブースターだと思えば良い。
つまりステータスは「今あなたはこれだけ強いですよ」って表示ではなく、「今のあなたはこれだけ強化されてますよ」って数値なのだ。きっとそうだ。これは『ステータス』って名前の恒久的バフ魔法なんだよ多分。そう考えた方が精神衛生的に良い。
「そう思わないとやってられんよな。俺は今ここに生きてるのに、ゲームキャラみたいに数値を弄られただけで強くなるとか…………」
異世界転生に伴って、体というか存在と言うか、俺って言う概念を丸っとゲームキャラ化されたとか、悪夢が過ぎるだろ。それつまりデータ化した訳じゃん。生き物じゃなくなってるじゃん。
うわぁ、鳥肌立ってきた。頼むからバフシステムであってくれ。本当に俺の筋力がステータス通り俺の出力アップする新細胞になってるとか止めてくれ。
「うぁぁ……、頭痛くなってきたわ」
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