最大最重。
──カロロロロ…………!
俺の叫び声で存在に気が付いたクソドラゴンが振り返り、俺を見つけると嬉しそうに嗤う。
「嗤ってんじゃねぇぞテメェ! 今すぐそのツラ叩き潰して、二度と嗤えなくしてやるァアッッ……!」
隠れて近付いた方が良かっただろう。わざわざ俺の存在を教える必要なんて微塵も無かっただろう。
せっかく崖下の乾いた糞が服にこびり付いて匂いを誤魔化せたのに、そのメリットを自分で投げ捨てるなんて馬鹿のする事だ。
だけど我慢がならなかった。その背を目にした瞬間に頭が沸騰した。
大丈夫だ、手が無いわけじゃない。失敗したら確実に死ぬし、無様な最後を迎えるだろうが、成功したら奴を確実に殺せる手を思い付いた。
「ぶっ殺してやるぁぁァァアアアアアッッッ!」
アルマーニのジャケットを脱ぎながら走る。この体でまだ走れる事に驚くが、恐らくアイツを殺して全部が終わったら一ミリも動けなくなるだろう。それくらいにボロボロな自信がある。
だがそれで良い。後のことなんか知るか。今動けばそれで要求スペック十割満たしてる。
奴も待ちきれないんだろう。俺を見付けた瞬間にはこっちに向けてドスドスと地面を鳴らしながら走って来る。
そして馬鹿の一つ覚えみたいに蹴りを放つ。正面から見れば何とも無様な、小学生のサッカーキックの如き挙動だった。俺はこんな拙い動きにボコられたのかと思うと更なる怒りが湧いてくる。
ギリギリの所で足を止め、鼻先をクソドラゴンの爪が掠って空振るポジションで両足にブレーキを掛ける。そしてそこに両手でしっかり握ったジャケットを被せる。
「──ィぎっ」
賭けだった。もし目算を誤って、顔面を蹴られてたら即死してた。
だが俺は賭けに勝って、俺を蹴り飛ばそうとしたクソドラゴンのつま先にジャケットを引っ掛ける事に成功した。
その結果俺は、クソドラゴンのつま先に引っ掛かって上空に飛ばされる。まるで
「────────ここだ」
ここまでが思い付き。ここまで上手く行くとは思ってなかった。あとはスキルのサービスチケットを切るだけだ。
これで殺せないなら、俺にもう手は無い。その時は大人しく死んでやるさ。
「重量1万4200トンっ、長さ225メートルッッ……!」
呼び出すのは、人類史上最大の乗り物としてギネスにも乗っているワークビークル。
「テメェが舐め腐った人間の
人の作り上げたカラクリだけで、山を丸ごと大陸から消してしまう人間の
「喰らえ、俺のバケットホイールエクスカベータァァァアアアッッ!」
奴に向かって手を突き出し、一枚しかない貴重なチケットを使用した。
どんなワークビークルでも無条件で貰えるなら、コレだって有りだよなぁ!
──ガルァロロァァアアアッ……!?
クソトカゲの真上、俺が起動したスキルから鉄の塊が生み出される。
矮小な人間視点では、重量が1トンも有れば質量兵器としては上等な部類に入るだろう。『神の杖』と呼ばれる、成層圏から落とす質量兵器ですら100キロなのだ。
それを至近での発生である代わりに万を超える重さの超巨大質量物を、受け取れられるモンなら受け止めてみろよクソッタレ。
十階建てのビルだって、よほど広い面積の建造物じゃ無かったら1万トンは超えないんだ。場末の雑居ビル程度の大きさしかないお前に、この質量が止められるか。
──グロロラァアッ!?
「死ね」
完全にこの世へと現れたバケットホイールエクスカベーターは、重力に引かれて地上に落ちて行く。当然、エクスカベーターと地面の間には奴が居る。
5000〜6000トン程の重量だと思われるクソトカゲに、倍以上の重さを有する超巨大重機を押し返すだけの力がある訳ない。
カブトムシは自重より重い荷物を引けるが、あれは生物としての作りがどうとか言う前に、単純に小さい生き物だからって理由が大きい。
質量とは物の大きさが増えると指数関数的に保有量が増大するので、たとえドラゴンだなんてクソファンタジーな生き物だろうと、比率だけを比べてコイツに当てる事は出来ない。デカければデカいほどに、ほんの一回り大きくなるだけで増大する質量は莫大になる。
それにコイツは巨大な翼が生えてる。つまり飛行する生き物だ。魔法などのファンタジーな空力アプローチがゼロだとは言いきれないが、それでも飛行するなら生態的にも軽い方が良い。
そして生物の総重量に於いて、筋肉とはかなり大きなウェイトを占める存在だ。飛行する生物なら翼で空力を得るに足る最低限しか無いのが理想だろう。
飛ぶ為に骨がスカスカな種だって多い。いくらファンタジーなロジックが働いてたとしても、地上でのみ生きる生物より頑丈って事は無いだろうよ。
分泌され過ぎたアドレナリンのせいだろうか、全てがゆっくりに見えて潰れゆくクソトカゲが良く見える。
あまりに突然な
──ギャォォゥウウァァアアアッッ!
潰れろ、潰れろ。俺も重力に引かれて落ちて行くが、このままエクスカベーターの上に墜落して死んでも気にならない。クソトカゲの顔を絶望に歪ませてやったから満足した。
ああ、中々に愉快な異世界転生だった。点数を付けるとしたら百点満点中で二点とかだが、まぁ概ね満足した。
ブチブチと潰れゆくクソを長めながら、俺も落ちてく。終わりの瞬間はもうすぐだ。
ああ待ってろよクソトカゲ。どうせお前も地獄行きだろうから、あの世で第2ラウンドと行こうぜ。その気に入らないツラを何回でも凹ませてやるから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます