重機は普通にチート。



 実は────、なんて雰囲気たっぷりに語り始めるから何かと思えば、別に大した理由じゃなかった。


 この村には元々井戸なんて無く、生活用水は全て近くを流れる川でまかなっていた。


 しかし、最近は川の上流にある別の村がマナー最悪らしく、平気で川に汚物やゴミを流すから生活用水に使えなくなってしまったそうな。


 一応は役人などにも訴えてるが、動いてくれるか分からないし、動いてくれるとしても何時いつになるやら……、って所に俺が来たと。


「じゃぁ、速攻で終わらせるか」


 村に入れてもらった俺は、適当な場所にガードナーを駐車する。送還はせずにそのままにして、車から降りた。


 その後、ワークビークルショッピングで大き目のボーリングマシンを一機買う。ビルの基礎打ちなんかで、鉄骨を地面に埋める為の穴を掘る奴だな。呼び出して眷属化の後に召還契約はもうワンセットのルーチンである。


 購入したボーリングマシンはディグと名付けた。なんの捻りもない名前だな、


「こ、こりは……」


 ガードナーだけでも結構ビックリしてた村長は、ディグの存在を前にしてとうとう智者の仮面が崩れ落ちて訛りが出た。口をあんぐり開けてる様は中々に滑稽。


 まぁ、うん。馬車が現役の文明レベルだとするなら、重機なんて物は理解が及ばないチートそのものだろう。文字通りのチートずるだ。


「スキルは分かるかい?」


「え、ええ……」


 ふむ。異能はスキルと言って通じるのか。いや、都合良く翻訳されてるだけか。ならもう、自分の発言をそこまで気にしなくて良いだろう。


 お互いの知識に同じ概念が存在するなら、言葉は多分そのまま通じる仕組みなんだと推測できる。地球にしか無い概念とかを得意げに語らなければ多分大丈夫だ。


「こいつは、スキルで呼び出せる鉄の獣さ。何種類か居るんだが、これは特に井戸掘りに適した種類なんだ」


「ほへぇ……」


 そうだ、せっかく井戸を掘るなら、給水車も買って補給させて貰うか。度には水が必要不可欠だし、給水車ほどの容量を確保出来たら、旅先でシャワーだって使えるだろう。


「で、村長? 井戸は何個くらい掘れば良い?」


「なんこ!? 何個も掘って頂けるので!?」


 まぁ、ボーリングマシンで井戸を掘るなら、一個も二個も変わらんしな。


 そんな訳で、村長に相談して色々と決めた結果、村の真ん中に一箇所と、畑の近くに一箇所の計二箇所を掘ることになった。


 掘り方もどんな風にするか聞いたが、一個はボーリングマシンの直下掘りで、もう一つは露天掘りを試して見ようって事に決まる。俺もそうだが村民にも井戸作りのノウハウなんて無かったから、分からないならどっちも試しちゃえって事に。


 しかしここで一つ問題が浮上。


「タイタンがデカ過ぎて村の中に出せないな…………」


 結局、普通の道路工事とかで使われるタイプの中型パワーショベルを一機追加で買うことになった。うーん、まだ二億ほど残ってるから良いけど、こうやってポンポン新しい重機買うのは問題な気がする。


 早いところどこかで、ポイントを荒稼ぎ出来る環境を用意しないとな。まぁ最有力候補があのクソトカゲだらけの森なんだけども。


 竜樹を一本切るだけで二億ポイントも手に入るのは正直美味しい。あれを続けてたらヌル以外のバガーシリーズを買えるかも知れないし。


 何だかんだ、一万トンを超える超重量で圧殺出来る一撃必殺は手元に欲しい。深層のクソトカゲだってヌル級の重機を二、三機も降らせてやれば殺せるはずだし。


「さて、お前の名前はユンボだ。マークしたポイントを露天掘りしてくれ」


 これまたどストレートに名付けた新眷属に指示を出し、後は見守るだけで仕事が終わる。


「これだけで良いか? 森とかあるなら木も切ってくるが……」


「いやぁ、もうこれ以上何かされたらお礼が出来ないもんで」


 あぁ、そういや滞在の為に井戸掘ってんだっけ。なら食べ物とかくれたら木も切るぞ? 薪にも健在にも使えるし、丸太はあっても困らないだろ。


「にぃちゃ、ひと……」


「そうだな、人がいっぱいだな」


 停めっぱなしのガードナーに群がる村民を見て、ネリーが呟く。片時も俺から離れなくなったネリーは、村に入ってからもずっと俺の裾を握ってそばに居る。


「申し訳ないねぇ。あんなに立派な乗り物なんて、滅多に見ないもんだから……」


「まぁ、そりゃそうですよね。ただ、あの、車体をバンバン叩いてる子供だけは注意して欲しい……」


「こりゃぁあッ! 悪ガキ共は何してっぺさぁッ!」


 俺が指さすと、村長はガキの所業を見付けて怒鳴りながらすっ飛んで行った。VIT的にはかすり傷すら入らんと思うが、念の為な。頼むぞマジで。


 せっかくピカピカでカッコイイ車なんだ。出来れば維持したいじゃないか。ガードナーは要人警護用の装甲車である為、かなりスタイリッシュな見た目になってる。


 普通の装甲車ならゴツゴツしてる如何いかにも装甲車って感じの外装になるが、ガードナーは普通のミニバンをオフロード仕様に仕立てたような厳つさがあり、しかしやっぱりカッコイイのだ。


 多分ワークビークルショッピングで買える車両の中で、恐らく唯一の『見た目が普通の車』だろう。ちょっとした荷物も乗せられるし、多分ガードナーはずっと使い続ける気がする。


 本格的に荷物が増えて来たらトラックも買おうと思ってるし、キャンピングカーが買えなかったから自作するつもりでは有るけど、結局移動はガードナーかヘルメスになると思う。


「要らなくなっても売却出来ないしなぁ」


 そう、ワークビークルショッピングで買った物はワークビークルショッピングの売却システムが使えないのだ。それはつまり重機の処分も難しいって事だから、無駄な買い物は出来るだけ避けていきたい。


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