村に到着。



 翌日、ネリーの持ち物から食料を分けてもらって朝食を摂ってから移動を開始した。


 何気にこの世界に来てから初めての『マトモな食事』だったので、感動の余り涙が出た。そんな俺を見たネリーが驚いてしまって、あたふたと慌てる姿はとても可愛かった。


 朝食後にガードナーを走らせると、一時間も走らない内に村っぽい物が見えて来た。


 ガードナーの時速とこの世界の移動方法を鑑みれば、これでも『馬車で数日』なんて距離を移動したはずだ。


「おぉ村だ。ネリー、村だぞ」


「んっ」


 ガードナーの運転席に座って、ネリーは膝の上に抱っこしてる。昨日の夜とは違って景色が楽しめるようにと思ってこうしたが、凄まじい速度で流れて行く景色は気晴らし程度の効果があったらしい。


 子供らしい笑顔で外を見るネリーの頭を撫でながらハンドルを切る。眷属は自動運転も出来るが、手動での運転も可能らしい。重機は無理だが車の運転なら出来る。


 ネリーを抱っこしたまま片手運転してても、道交法違反だと追い掛けて来るパトカーもこの世界には居ない。とても快適なドライブだった。


 行商の馬車なども乗り込めるように作られてる村の門は、このままガードナーで乗り込んでも大丈夫そうに見える。


 イカつい装甲車で乗り込まれた村人は騒ぐかも知れないが、正直なところ俺の能力が能力なので、毎回気にしてたらストレスで禿げてしまいそうだ。気にせず乗り込むとしよう。


 そう決めた俺は街道を真っ直ぐ進んで村の正面まで行く。


「ちょ、ちょっと待ってぺさー!? そったらモンあんだってんだぁ!?」


「ごめんちょっと何言ってるか分からない」


 簡単な柵と門に囲まれた村は、見張り兼門番のような者が入口に居た。粗末な木の槍を持ってる以外は武装らしい武装も無く、恐らくは村民が持ち回りでやってるんだろう。


 麦わら帽子みたいな物を被った黒髪の男が、ガードナーの進路に立って両手をバタバタしてる。


 そんな門番に車を止められた訳だが、訛りが酷くて何言ってるか分からない。異世界言語も何故か分かっちゃう翻訳システムだって言うなら、こう言うのも勝手に翻訳してくれよ使えねぇな。風情とか要らねぇんだよ。


 一応、相手が木の槍とは言え武器を持ってるから降りずに対応する。窓ガラスを下げれば充分だろう。


「俺の名前はアルマで、この子はネリー。乗ってるコレは、馬の代わりに魔力で動く馬車みたいなモンだと思ってくれ」


「ほへぇ、都会っぺぇはこんなんさあっぺさー?」


 ごめんマジで何言ってるか分かんねぇから聞き専になっててくれねぇかな。解読するのダルいんだわ。


 まぁ多分「都会にはこんな物があるんですねぇ?」ってところか。短文ならギリギリまだ解読出来る。


「それで、村には入っても良いか? 金は持ってないが、何かちょっとした仕事を手伝うくらいはするぞ」


「あんちーさ、そんちょっさ聞いてくっぺさー」


「なんて?」


 聞き返すも、村民はスタコラサッサと村の中に消えて行く。あぁ、村長に話を通しに行ったのか。発音が独特で毎回読み込むのにワンテンポ必要なのマジで辛い。


 で、五分ほど待たされて村長的なオッサンがやってくる。村長と言えば老人ってイメージがあるけど、文明的な平均寿命とか考えるとこんなもんなのかも知れない。


「さて、旅の方だとか……」


 良かった、この村長は標準語を話せる。訛りっぽいイントネーションが有るから、普段から標準語で喋ってる訳じゃ無いんだろうが、それでも聞き取り易いのはホントに助かる。


「ああ、この村に何かをしようって魂胆は無いから、少しだけ厄介になれないかね? その代わり、多少の労働はするつもりだ」


「何がお出来になるね?」


「木の伐採とかは凄く得意だぞ。竜樹だって切れる」


「ほっほ、そりゃまた、大きく出ますなぁ」


 何となく知ってる知識を会話に織り交ぜてみたが、やっぱり竜樹ってのはそう言う扱いなんだろうな。レベル12の時点でジャックが苦戦してたバケモノだし。なんだよチェーンソーを跳ね除ける樹木って。


「後は、土を掘るのも得意だぞ。水を火にかけて沸き立つまでの時間で井戸だって掘れる」


「…………ほぉ?」


 おっと、井戸って言葉に村長が反応した。井戸を掘れるとは言ったが、井戸を作れるノウハウは無い。掘ったら掘りっぱなしで、井戸の建造は出来ないぞ。


 いや、新しくボーリングマシンでも買って試掘しくつして水源を探したら、その後タイタンでガッツリ露天掘りすれば行けるか? 井戸の奥から直接この手で作って段々と埋め立てれば井戸にはなるだろ。


 まぁそこまではやらんけど。


「井戸が、掘れなさると?」


「言っとくが、出来るのは掘るだけだぞ? 井戸の石積みとかは出来ない」


 掘るのは一瞬で終わるが、井戸の筒部分を構築するのは何日掛かるか分からん。数日は居るつもりだが、一週間も一ヶ月も滞在するつもりは無い。掘るのはやっても良いから、建築は自分たちでやってくれ。


「井戸が必要なのかい? 溜池とかも作れるが」


 既に察してるが、一応は聞いておく。不可解ではあるし。


 井戸なんて村の誕生と同じタイミングくらいで掘られて然るべき重要施設だろう。それがなんで、こんな新しくも無い村で今更必要になる?


 それとも、見るからに年季の入った柵や門、建物達は全部カモフラージュで、実は新造の村だったりするのか?


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