滞在と準備。



 井戸掘りは割りとすぐに終わった。と言うのも、直下掘りで開けた穴に長い木の板を四枚ぶっ刺すだけの簡単な物で良かったから。


 直下掘りの方を簡易井戸として、露天掘りの方はもう少し丁寧に作ってから簡易版の方も作り直す事にしたらしい。


 とかく、掘ったばかりの井戸は濁ってて使えないので、マトモに使えるのは明日以降だろう。確か砂利とかを入れておくんだったか?


 まぁその辺も追い追いやってやれば良いだろう。俺としては給水車に水を補給する時までに井戸が使えればなんだって良いさ。滞在するのも数日だし。


「アルマさんや、少し相談があるのだが……」


「はいはい、今行きますよっと」


 そんなこんな、村に滞在して二日目の朝だ。ガードナーの中で寝泊まりしてるので、村の家を借りてのみしらみに汚染されたベッドとか使わずに済んでる。


 ネリーの荷物から分けて貰ってる干し肉をガジガジして朝飯を済ませたところで、村長が手を揉みながらやって来た。畑の拡張とか出来ないかって事らしい。


「何回も言うけど、掘るだけだそ?」


 いや、多分トラクターとかなら立派に『働く車』カテゴリーだから買えるんだけど、今後使うか分からない物は遠慮したい。


「それはもちろん。硬い大地が掘り返されるだけでも助かるものでして」


 まぁ、ゼロからクワ持って開墾するくらいなら、タイタンで一気に掘る方が楽だろうさ。一度掘った場所に土戻せば良いだけだし。


「で、昨日の今日で持ち掛けて来たってことは、対価は用意したのかい?」


「それについてもご相談したいのだけど……」


 言われてみれば、確かに俺が欲しがる物を知らなかったら対価もクソも無いよな。この村だって大して金持って無いだろうし、文無しと文無しが交差する時、物々交換が原則となるのは世の常だ。と言うかそれ以外に方法が無い。


 物々交換とは言うが、当然ながら労働だって立派な交換材料だ。


「じゃぁ、そうだな。余分な布とか有るか? 服を作って欲しいんだが」


「服、ですか?」


 村長が俺の服を見て、首を傾げる。まぁアルマーニがあるなら村で用意する必要なんて無いと思うだろう。ただ、このスーツはもうボロッボロなのだ。ウンコのフレグランスも添加された事もあるし、匂いを落とす為に擦り切れるほど水洗いもした。


 正直、替えの服が有るならもうこれ着たくないってレベルだったりする。俺は早急に着替えが欲しい。


 あとネリーの服も必要だしな。可愛い女の子は可愛い服を着なきゃギルティって古事記にも書いてあんだよ。


「もちろん、一日で開墾を終わらせるだなんて凄まじい仕事の対価なんだ。なるべく良い服を頼みたい」


「…………でも、この村で用意出来る服なんてっ」


 俺は当然の要求をするが、村長も無理な物は無理だと困ってしまう。ただお互いの認識に差があって勘違いしてると気付いた俺は、すぐにそれを否定する。


「あぁ悪い、言い方が悪かったな。違うぞ村長、この村で用意出来る中では一番良い物が欲しいってだけで、なにも都会で売ってる様な服を今すぐ用意しろだなんて無茶は言わないさ」


 まぁ、デザインにはある程度口出しするかもだけど。


「あと、多少の食料だな。村の負担にならない程度で良いから見繕って欲しい」


 そんな話を五分ほど続け、交渉が成立したので村の外にタイタンを呼び出した。昨日のユンボと比べて何倍もデカいタイタンの存在に、村人達は本気で度肝を抜かれて尻餅をついてた。


 その後も、始動したエンジンの唸り声を聞いた村人がパニックになったり…………、色々とトラブルもあったけど無事に仕事は終わった。


「おにーてー、ふたらきっぺーさ!」


「ぺーさぺーさ! ふたらきっぺ!」


「ごめん、なんて?」


 仕事が終わってガードナーに戻ると、村に住む娘さん方に囲まれた。多分、井戸掘って畑の開墾を速攻で終わらせたから優良物件的な感じで目を付けられたっぽい。


 だが依然として何言ってるか全然分からねぇ。


「ははっ、『お兄さんは働き者ですね』と言ってるんですよ。申し訳ないねぇ、村の者が」


「ああ言え、褒められる分には別に……」


 なるほど? 『おにーてー』がお兄さんで、『ふたらきっぺー』が働き者って意味なのか? なら『ぺーさぺーさ!』はそうそう、みたいな感じか。


「おうおうおう! どぐらしゃっぺーよおぃでんっ!」


「いや追加で解読させんな。誰だよアンタ」


 そうやって若い子に囲まれてチヤホヤされてると、ムッキムキの兄ちゃんに乱入された。だが依然として以下略。


「村長?」


「これダグラ、失礼な事を言うな」


「ぺーさぺーさ! てるぬきーよ!」


「さちらん、てるぬきー!」


「あれ、もしかして翻訳機能ぶっ壊れてる?」


 頼むから俺の周りで呪文を詠唱すんな。本当に何言ってるかわからんのだよ。


 村長によると、何やら失礼な事を言われたらしいのだが、何言ってるか全然分からないから怒りようが無い。


「どくらしゃぁ!」


 しかし、流石に胸ぐらを掴まれたら喧嘩を売られてるって事くらいは俺でも分かる。


 俺はアルマーニをぐしゃっと握り潰して捻り上げるムッキムキ兄ちゃんの腕をそっと掴んで、優しく捻り返す。


「んぎぃっ!?」


「いやさ、俺って森の中でクソトカゲを相手に殺しあってたんだよ。今更お前なんか怖くない訳。分かる?」


 盗賊の件があったので、一般人はそんなに強くないと予想してた俺はちょっと強気に出る。盗賊があれだけ弱かったんだし、村人があれより強いって事はないだろう。もし村人の方が強かったら、盗賊共は誰から略奪して生きてんだって話だし。


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