街での食事。



 外に出た俺は、竜樹の積み込みで苦労してるギルドの職員を手伝ってからユニコを送還した。


 当たり前だが超大木な竜樹を一般の人間が簡単に積み下ろし出来る訳が無いし、そもそもユニコに積んでたのはクレーンで積み下ろしする為なのだから。


 職員達はユニコのクレーンに驚いてたが、輸送用のゴーレムで積み下ろしの機能もあると説明するとめちゃくちゃ感心して、あっという間に積み下ろしを終えたユニコを褒め倒してた。


 多分、ユニコも気分よく送還されたに違いない。


「よし、ずっと良い子で偉かったな。ご褒美に欲しいものは何でも買ってやるが、何がいい?」


「…………ごはん」


 そりゃそうだ。


 旅の途中は俺が何かと美味しいものを作ってたが、素人かつ男料理しか作れない俺のキャンブ飯なんかより街で普通の食事が食べたいに決まってる。


 俺はネリーを抱っこしたまま適当に街をぶらつき、臭いを我慢しながら食べ物屋を探した。


 草食の馬が出したはまだマシだが、アパートメントから放り出される人間が出したの臭いは強烈なので、出来れば住宅街に近い場所に軒を連ねる食事処は遠慮したい。


 同じ理由で、露店で出してる串焼きとかも嫌だった。


 そんな選り好みの結果、商業区っぽい場所を探し当てて一件の食堂に入る。


 丸テーブルが並ぶ古めかしい食堂で、キャパが三十人くらいか。半分以上の席が埋まってる事を考えれば、この食堂がハズレという事も無いだろう。


 ただ俺にとってここは異世界なので、現地民にとっての当たりと俺にとっての当たりが同じ保障はどこにも無いのだが。


「…………あ、しまったな。デカい金しか持ってない」


 ふと気が付く。今の俺は腰に吊るしてる二千マドカと、盗賊から奪った小銭しか持ってない。


 一応ポケットの小銭を確認してみたのだが、全部合わせても38マドカしか無い。一人前の相場が50マドカくらいだと教えられたばかりなので、これでは足りない事くらいは理解出来る。


「どうしたものか。お釣りは要らねぇよとか言ってお茶を濁すか?」


「ご注文はお決まりかい?」


 悩んでいると、明るい茶色の髪をポニーテールに纏めたお姉さんがシニカルに笑いながらテーブルに来た。粗末ながらエプロンのような物を身に付けてるので、この店の給仕ウェイトレスなのだろう。


 ただ、メニューも何も無いのに、決まったかと聞かれても分からない。他の客は何を見て注文してるのか。


「すまないが、初めて来たから何を食べれるのか分からないんだ。肉を中心にオススメを適当にお願い出来るか?」


「あら、剛毅な注文をするねぇ。店に任せて良いなんて、とびっきり高い物を出されちまうよ?」


「もしそうなら、むしろ願ったりだ。実は今、ちょっと大きな収入源があったばかりでね。だけど収入が大き過ぎて小銭を持ってない事に今気が付いたんだ。こんな大きな金だけじゃ、支払う時に店も困るだろうと悩んでたんだよ」


「あらら、本当に剛毅な事を言うお兄さんだねぇ! そんなに言うなら、本当にお高いものをもってきちゃうからねぇ!」


「是非頼むよ。あぁ、あとこの子が美味しく食べれそうな物も。大人の舌に合わせた物だけ並ぶと可哀想だ」


「あいよ! 先払いになるけど、渡された分だけ持ってきちゃって良いのかい?」


「俺達が食べ切れる分だけで、使い切れるかな」


 俺は試しに十万マドカの大判を手渡して見ると、お姉さんは目をかっぴらいて叫ぶ。


「ちょ、大きいにしたって限度があるだろうさ! なんだってこんな大きなお金もって歩いてんだい!?」


「いや、ほんとにそれしか持ってないんだよ。あとは38マドカって言う本当の小銭しか無くて……」


「いったい何をしたらこんな臨時収入が入るのさ!? 実はお貴族様のお忍びかい!?」


「いやいや、ちょっと竜が居る森から竜樹を取ってきたのさ。見た目はこんなだけど、凄いレベルが高い討伐者なんだよ」


 そう言えばお姉さんも納得して、「そんな大商いの後なのかい!? だったらもっと良い店に行けば良いのに!」と笑ってくれた。


 全てにおいて言い訳足り得る竜樹の便利さには頭が下がる。


「この街には来たばっかりなんだ。本当に何も分からないから、美味しそうな匂いがする店にとりあえず入ったのさ。遠くから来たからこの辺の常識にも疎くてね」


「若いのに大変なんだねぇ〜」


 とまれ、お釣りは何とか用意出来ると言われたので安心した。ただお釣りの量がハンパない事になるから、別途袋も用意してくれると言う。なんて良心的な店なのか。


 十万マドカを出したが、お釣りは一万マドカを九枚と小銭、とはならない。この店で主に使われる貨幣は大きくても千マドカくらいなので、一万マドカなんて大きな金は用意されてない。


 だから一、十、百、千マドカの小銭を掻き集めてお釣りを用意するので、当然ながら総重量が凄いことになるのだ。


 この世界に銀行などがあれば良いのだが、生憎とそんなサービスはやってない。と言うか、銀行なんてシステムが存在する文明レベルなら信用経済が使えるので紙幣が使えるだろうし、そうだったらこんな困り方はしてない。


「少し待っておくんなね! お釣りは料理を全部出した後に計算してから渡すから」


 そんなこんな、料理が運ばれて来て食事を始める。平民はカトラリーなんて小洒落た物を使わないらしく、多くは手掴み。そうじゃなくてもスプーンと木串が精々。


 ネリーは商人の娘だったから手掴みはしないものの、そもそもが食事に介助が必要な年齢だ。四歳ならまだギリギリ手伝いが要るだろし、「ひとりでできるもん!」と言われて信用し切れない幼さがある。


 そんな訳で、運ばれてきたカットステーキをお口に運んであげると、ほにゃほにゃ笑って美味しそうに食べる。


 なんだこの可愛い生き物。こんなん無限にお世話出来るわ。


「美味しいか?」


「んっ……! にぃちゃも、ぁーん」


 木串でカットステーキを刺したネリーが、ソースをボトボトと零しながら俺に差し出す。可愛すぎて心臓がないなった。


「あらあら、仲良さねぇ! 兄妹かい?」


 順次料理を運んでくるお姉さんに見られたが気にしない。むしろ羨ましいだろって気持ちで差し出されたステーキを食べる。


「むぐむぐ……、血は繋がってない。盗賊に全てを奪われたところを通りかかって助けたんだ」


「ん。たしゅけられたの」


 事情が事情なので気まずそうにするお姉さんに、「今は大事な妹だよ」と笑って答える。


「ゅん、にぃちゃしゅき」


「はいかわいい」


 そのあとも運ばれてくる煮物や炒め物を満足行くまで食べて、食べ切れなくてどうしようかと悩むまで食事を続けた。


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