もう一回。



 やはり竜樹とはレアな物資らしく、伝えたお姉さんはとても慌てた様子で再三俺に確認する。


 本当に竜樹なのか、どのくらいあるのか、それはもう何回も聞かれた。


 だから「外にあるから確認したら良い。真偽も総量もすぐ分かる」と伝え、まぁ色々あったが売却は完了した。


 その色々の中には俺がこの施設を利用する為の登録が含まれていて、何やら俺のステータスを確認するための装置を持ち出されて『竜伐りゅうばつ』なる称号が付いていて更に騒ぎになったり、本当に色々あった。


 どうやら、俺が自分で確認するステータスと装置で他人が確認するステータスは違うらしく、俺は自分の能力値とスキルを見れて、装置を介すと名前と称号、レベルの三つが確認出来るらしい。


 そして竜伐の称号とは、竜を単独で何度も討伐した時のみに得られる物らしく、名誉を示す称号では最高峰だと言われた。


 ちなみに単独で一度のみ竜を討伐すると『竜殺し』で、五人以下の複数人で討伐した場合は『竜の涙』、五人以下で何度も討伐すると『竜の血』が称号に付くそうだ。


 田舎から出て来たばかりで、その手の事をよく知らないと言って教えて貰った情報だが、今回は多少怪しくても称号とレベルのインパクトでゴリ押す事が出来た。


 ちなみに、本来は自分のステータスを確認するなんて出来ないらしく、俺も「自分の能力とか称号なんて初めて見た」と乗らせて貰う。


「この、レベル21って言うのは強いのか?」


「つ、強いなんてものじゃないですよ!? レベルの壁を四回も超えるなんて、極一部の方だけです!」


「ふむ、そうなのか。何分、田舎から出て来たもので、比較対象が居なかったから良く分からないんだ。でも、国の偉い人はレベル50を超えてるなんて話も聞いた覚えがあるんだが……」


「あ、あれは例外ですよ!」


 聞くと、レベル50はスキルを使った仕組みカラクリがあるらしく、その将軍とやらは平常時だとレベル6くらいなんだそうな。


 なんでも有事は配下のレベルを上澄みだけ集めて一時的にレベルアップ出来る感じのスキルらしく、それで配下の軍人からちょっとずつ経験値の上澄みを集めたドーピングでしか無いと言う。


 その方法だとステータスは本来の半分程になり、スキルも増えたりしない。尚且つ、使う時に少なくない代償もあり、乱発も出来ない。


 それを聞いて、「あれ、じゃぁ俺って実はめちゃくちゃ強い?」と今さら理解した。どうやら俺はめちゃくちゃ強いらしい。


「当ギルドに居る最高峰でもレベル14なので、アルマさんのレベルは比べ物にならないですよ…………」


「なるほど」


「ちなみに、どうやってそこまでのレベルを……?」


 恐る恐る聞いてくるお姉さんに、嘘を混ぜて色々と語る。


 自分は幼少の頃に竜が蔓延はびこる森へ捨てられ、最初は逃げ惑いながら森の虫や草を食べて生き長らえた。


 そして体が成長して来たら、長い時間をかけて大規模な罠を用意し、なるべく弱い竜を探して罠にハメて殺した。


 そうして最初のレベル5を突破した時に手に入れたスキルを駆使して、少しずつ少しずつレベルを上げて大きくなった。


 やがて、森から抜け出せる程の実力を手に入れたから森から出て、近くにあった村で少し世話になってからこの町まで出て来た。


 言葉も常識も、幼少に捨てられるまで見知った物しか分からないし、村で少しは教わったけど殆ど何も知らない。


 だから当たり前の常識なんかを知らずに変な事を聞いたり、やらかしたりするかも知れないが、本当に知らないだけなので怒らないで欲しい。


 あと、世話になった村でお金の事を知って、竜樹が高く売れると教えて貰ったので一度森に帰ってから取ってきた。


 まぁ概ねこんな感じのカバーストーリーを展開した結果、お姉さんはえぐえぐと泣いて俺の頭を撫でてくれた。少し照れる。


 このカバーストーリーだと、俺は「体がデカいだけの子供」になるから、この扱いも仕方ない。


 いや、そもそも俺って今は何歳なんだ? 鏡なんか見る機会がなかったから、自分の年齢すら分からない。


 自分から見えてる手足は若い気がする。だが今までそんな事を気にして生きてなかったから、今になってやっと違和感を覚え始めた。


「ちなみに、お姉さんから見ると俺は何歳くらいに見えるんだろうか? 幼少に捨てられたから、自分の年齢も覚えてないんだ」


 そう言うと、更に泣かれて頭をヨシヨシされた。身長は俺の方がデカいはずなんだが、背伸びして撫でられる。


「十五歳くらいに見えますが、そんなに苦労していたならもっと若いか、逆にもっと上かも知れませんね」


 ろくに食べれない粗末な生活をしてたなら成長が遅いはずだし、逆に苦労し過ぎて老けて見える可能性もあると言うのだろう。


 しかし、前情報が無ければ十五歳に見えるのか。随分と若い気がするけと、前世の自分が何歳だったのかも覚えてないのだから「若い」と思うのも変な話しだ。


「なら、自分は今日から十五歳と言うことにする。色々とありがとうお姉さん」


 ちなみに、ネリーの事も話したらもっと泣いてネリーもナデナデし始めたお姉さん。もしかしたら撫でるのが好きなのかもしれない。


「では、お待たせしましたがコレが討伐者のタグと竜樹の売却金です」


 お姉さんの後ろで進んでいた買取査定と登録の申請が終わったらしく、回ってきた書類とタグ、お金をカウンターに置いて仕事に戻るお姉さん。


 俺はわざと拙く汚い文字を心掛けてサインをして、タグとお金を受け取った。


 タグは金属製で、特にランクとかの制度は無いらしい。ドッグタグみたいな作りだがソレよりも分厚く、紐を通す穴が横向きに空いてるのが面白い。


 イメージとしては分厚いタグの端にストローがついてて、ストローの中に紐を通す感じだろうか。実際はストローなんて無くて板に直接穴が空いてるのだが。


「ちなみに、お金の事もよく分かってないんだ。貰ったこれはどのくらいなのか教えて欲しい」


 厚めの麻袋に入ったお金は金属製の貨幣で、イメージしやすい金貨とかでは無くどっちかと言えば日本の大判小判が近い。


「その鉄の丸っこい板に書いてある数字がそのままお金の価値になります。単位は『マドカ』で、大体5から10マドカあればパン一つが買えますね。宿を取りたいなら2000マドカ程が相場でしょうか」


「…………ふむ。じゃぁ食事処で自分くらいの男が一人前を頼んだら、どのくらい要求される?」


「そうですね、お店の程度にもよりますけど…………」


 色々と相場を聞いて、一食大体50マドカもあれば充分。少し高めの料理でも一人前なら100マドカくらいだと言われた。


 もちろん、高級志向のレストランとか行けばその限りでも無いが、定食屋みたいなイメージの場所ならそのくらいらしい。


 貰ったお金は金色の大判がたくさん入ってて、全てに十万の数字が刻まれてる。数えて見ると二百枚ほど入ってたので、二千万マドカが竜樹の売却額なのだろう。


 もっと他の場所に持ち込めばもっと高値が付くだろうし、実際にお姉さんからもそう言われた。だが面倒なのでここで売る。こっちとしては森に帰って伐採すればいくらでも持って来れる商材に過ぎず、ヘルメスやガードナーがあれば簡単に行き来出来る距離でしかない。


「色々とありがとう。また分からない事があったら聞きに来ると思うが、大丈夫だろうか?」


「もちろんです! 我々は討伐者の味方ですから!」


 ニッコリ笑うお姉さんに別れを告げて、カウンターから退いた。


 最後に、最初に絡んで来た男が意識を取り戻してまた絡んで来たから二度目の右ストレートでぶっ飛ばしてから討伐者ギルドと呼ばれる施設から外に出た。


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