お買い物。



「おにゃか、くるし…………」


 食べ過ぎたネリーがうっぷうっぷと苦しそうにする中、同じくらい苦しい俺はネリーの可愛さで回復してる。


 依然として腹は苦しいが、同じくらい癒されてるのでプラマイはプラに振り切ってる。


 お姉さんに用意されたデカい麻袋を腰に吊るし、流石に抱っこは辛いのでネリーと手を繋いで店を出た。


 支払いは嵩んだが、それで270マドカだったので所持金からすると大した事は無い。食べ切れなかった分は欲しいと言う他の客に振舞ったから無駄にもしてない。


「さて、次は買い物か。ネリーは欲しいものあるか?」


「わかにゃい」


 隣をゆっくりぽてぽて歩くネリーに聞けば、物欲が無いのか即答された。というより、必要なものが多すぎて何が必要なのか分からないのかもしれない。


「うーん。…………とりあえず、服と靴でも買おうか? バッグも要るよなぁ」


 荷物は全部ガードナーに入れてあるとは言え、必要になる度に召喚する訳にも行かない。ものを持ち歩く最低限の装備は必要だし、今着てる服もデザインは洒落てるが生成りの生地である。


 村で作ってもらっただけのものだし、布の品質だってお世辞にも良いとは言えない。


 と言うわけで、俺はネリーと手を繋いで服飾店を探し始めた。


「この文明レベルだと多分、既製品は無いだろ? だったら繋ぎで古着を買いつつ、オーダーメイドしてくれそうな場所も探すか」


 場所が分からないのでどうにか探し出すしか無いが、しかし今の俺達は控えめに言っても貧乏そうなお上りさんだ。親切にしてくれる人は稀だろう。


 露店で買い物でもしてから聞けば教えてくれそうな気もするのだが、このふん尿の臭いがこびり付いた街で露店の物を食べたくない。市場も同じだ。


「ふむ。詰んだか?」


 討伐者ギルドに戻って聞くのも手だが、店の場所だけ聞くために戻るのも躊躇ってしまう。


 なんで俺はさっきギルドで聞かなかったんだろう。


 まぁ良い。嫌がられながらでも道行く人に聞けば良いか。最悪は小銭を握らせたら教えてくれるだろうし。


「ごめんなさい、ちょっと道を教えて欲しいのですが」


 そんな訳で道行くお姉さんにエクスキューズ。女性を選んだのは下心じゃなく、単純に女性と男性では前者の方が親切に教えてくれる確率が高そうだからだ。


 本当ならおばあちゃんとかがベストなんだけど、今のところ『おばちゃん』までしか見掛けない。『おばあちゃん』が全然居ない。


 もしかしたら平均寿命が低い世界なのかも知らない。老人になるまで生き残れないから、『おばちゃん』まで生きたらご長寿的な感じで。


「…………なんでしょう?」


 明らかに警戒されているが、服を買いたいから良いお店を教えて欲しいと隠さず伝える。それと一緒に、お姉さんの着てる服が素敵だったから、妹にも着せたあげたいと言って相手を持ち上げる事も忘れない。


 お金の心配をされるが、田舎で貯めてきたから大丈夫だと言って小銭の方の大袋を開けて見せた。流石に十万マドカの大判がギッチリ詰まった方は見せれないだろう。


 最後に銀の小判を一枚、親切のお礼だと言って握らせたら完璧だ。


「よし、ミッション完了。服屋はあっちの方に有るらしいぞ」


「ん!」


 お姉さんと別れて教えられた店まで向かう。聞いたのは古着屋だが、そこまで行けばオーダーメイドの店だって教えて貰えるだろう。買い物した客に聞かれて答えないなんて事は無いはずだ。


「ここか」


 庶民用と言われたら「うん、そうだよね!」と全力で納得しそうな木造一階建ての店構え。イメージとしては個人経営でマダムがこじんまりとやってるブティックを、異世界風にランクを落としまくった感じか。


 こう言う店は扉が開きっぱなしなのがベターなのか、ギルドでも食事処でもそうだった。


 中に入ると、驚くほどにごちゃっとしてる。ハンガーラックすら無い店内は服が箱詰めされていて、マーケティングもクソも無い陳列になってる。


 ああ、そうか。ハンガーって当時は貴族とかが使うもので、庶民には浸透してなかったのか。日本でもハンガーが出回り始めたのは明治ごろで、結構最近の事なのだ。


 仕方ないので箱に詰まってる布に手を突っ込んで物色。どれもこれも、使ってる布は今着てる物より良いが、デザインは今着てる物よりもしょぼい。


 これでは着替えてもランクが上がったのか下がったのか分からない。


「ふむ。作戦変更するか」


 上に羽織る物だけ見繕う。こんな時代なら、使用してる布の総量が増えるだけでもランクは上がる。つまり重ね着出来るだけでも結構違うはずだ。


 現代人は産業革命を経て量産が可能になった布の有難みを知らない。それ以前では全て手作業で生まれていた為に、布って言うのは凄まじく高価だった。


 だから布を沢山身にまとってるだけでも、みすぼらしいとは言われなくなる。…………はず。


 それに、そんな理由もあるので重ね着用のジャケットなんかはそもそもが金回りの良い者が着るので、デザインも質も悪くないだろうと予測出来る。


「お、予想通りか」


 考えた通り、悪くない物を見付けて箱から引っ張り出す。紺色のローブだが、染められてる時点で超高価な布である。ローブは布地も多いし、これを着てるだけでも貧乏人のイメージは払拭出来るはず。


 まぁその分高いんだろうけど、金ならある。


「次はネリーのも探さないとな」


「…………ねりー、こぇがいい」


「お、見付けたか?」


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竜伐転生。〜働く車で戦う男は、世界最強の竜殺し。喰らえ、俺のバケットホイールエクスカベータァァア!〜 ももるる。【樹法の勇者は煽り厨。】書籍化 @momoruru

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