一週間。



 この森に来てから、七回目の日の出を見た。つまり一週間が経過した。


 生肉を食うリスクを負いたく無いから火起こしを頑張って、寄ってきたクソトカゲ共をあらゆる方法でぶち殺し、乾いて死ぬ未来を許容して悟りを開きかけた時にやっと見付けた川の存在に感動し、そしてそこに居た水棲のクソトカゲに殺されかけてブチ切れたり、本当に色々あった。


 取り敢えず水棲クソトカゲをぶち殺した後に、川でスーツの洗濯が出来たのは良かった。ほんのりウンコ臭いスーツをずっと着てるのは流石に苦行過ぎた。


 そんな一週間を過ごす中で、いくつか分かったことがある。


 まず一つ、クソトカゲは総じてクソトカゲだと言うこと。とても大事な事なので魂に刻み付けた。


 どいつもこいつも嗜虐性が強くて人の事を遊び殺そうとしやがる。俺はドラゴン絶対殺すマンになる事を俺自身に誓った。


 次に、スキルはやはり五の倍数にレベルが達した時に貰えるらしい事。レベル20に達した事で五つ目の枠が開放されたから多分、このルールは確定で良い。


 三つ目、スキルは眷属と共用出来る事がほぼ確定した事と、経験を増やすとスキルリストもちゃんと増える事。


 重機による行動のほぼ全部が基本的に『超パワーによるゴリ押し』なので、普通に眷属を動かすだけで『剛力』の上位スキルだと思われる『金剛力』がリストに生え、四つ目のスキルにこれを入れた。


 その結果、明らかに重機達のパワーが爆増したのでコレも確定で良いはず。


 四つ目、どうやら俺はステータスも眷属達と共用らしい事。


 俺のステータスが上がると、同じだけ眷属達のパワーも上がったので多分これも確定情報で良い。ただ眷属毎に上昇幅にムラがあるので、ステータスは外付けバフ説にも信憑性しんぴょうせいが出て来た。


 ステータスの数値は倍率みたいな物であり、俺や眷属達に同じだけのステータス処理が入っても、倍率をかけるベースに差があるから結果も違うと思えば辻褄が合う。


 例えばステータス補正でパワーが倍になるとして、俺が十、原付バイクヘルメスが百、伐採機ジャックが千のパワーを持っていたら、出力される結果は二十と二百と二千である。つまりそういう事。


 ただ、確定情報で良いとは思うんだけど、もしかしたらステータスが共用なんじゃなくてレベルだけが共用で、コイツらはコイツらで個別にステータスを持ってる可能性もある。それでも辻褄は合うし、どっちが正しいのかを確かめる方法が無い。


 五つ目。眷属化した重機達、薄いけど自我がある説。


 これは確定情報じゃないけど、少なくとも学習する機能は持ってるのは確定だ。


 俺が出す命令を段々と覚えて、簡単な指示でも細かく動くようになったり、命令を出す前に準備し始めたりする事が多々あった。


 その行動自体には自我を感じる要素もほぼ無かったのだが、お礼を言ったり褒めたりした後は心做こころなしか行動が機敏だったり、調子が良かったりした。


 六つ目。この森、クソトカゲしか居ねぇ。


 いや、初日に見たナナフシみたいな虫も居るから正確には他の生物も居るんだろうけど、鹿や猪、熊や狐なんて野生動物のポジションが全部クソトカゲなのは間違い無い。


 一応は川に魚らしき存在も見た気もするが、水棲のクソトカゲが邪魔過ぎてそれどころじゃなかった。まぁカニやエビくらいは居るかもな。


 七つ目、この森は場所によってクソトカゲの強さが雲泥の差。


 仮にクソトカゲが弱い場所を浅層せんそうと呼ぶとして、クソトカゲの強さによって中層、深層と呼ぶ区分を仮に作ったのだが、深層からはマジでクソトカゲの強さもデカさもシャレにならなかった。


 下手するとヌル並にデカい化け物も居たので、あそこでクソトカゲ絶対殺すマンをやると絶対殺されるマンにジョブチェンジさせられる。分からされる。


 そして最後に八つ目。俺はどうやら、この森の浅層では頂点捕食者になったらしい。今では中層のクソトカゲとやり合ってるが、浅層に居るクソトカゲはマジで相手にならなくなった。今なら初めて殺した黒いクソトカゲも瞬殺出来る自信がある。


「やれ、コマツ」


 今も浅層で喧嘩を売ってきたクソトカゲをコマツに瞬殺させた。


 剛力を超えた金剛力を手に入れた俺はSTRが三倍であり、その補正を丸っと手に入れたコマツのパワーは浅層のクソトカゲなんて鼻で笑える出力である。


 更にAGIなども共有してるので、キャタピラ駆動なのにスポーツカーの最高速度並の加速で数秒あればトップスピードに乗っちゃうパワーショベルはめちゃくちゃシュールだ。


 俺が命令を出した瞬間、シュッと近付いてジョキンッと首を切断して帰って来るコマツが普通に怖くなって来た。


 ちなみに原付バイクのヘルメスもAGIを共有してるので、フルスロットルだとシャレにならない速度で走るモンスターカーになっちゃった。深層を冷やかしに行って死にかけた時はコイツが無ければ死んでたと思う。


 俺も強くなったんだが、深層のクソトカゲは本当に化け物だった。いつか絶対に殺してやる。


 そんな殺意を胸に抱いた俺のステータスは現在こんな感じ。


 ──『アルマ/Lv.21』

 ──『HP:2100/MP:2100』

 ──『◆眷属MP:11085』

 ──『STR:168/INT:147』

 ──『VIT:189/MIN:84』

 ──『AGI:147/DEX:126』

 ──『ワークビークルショッピング』

 ──『眷属化(機械)』

 ──『召喚術』

 ──『金剛力』

 ──『拡張可能』


 五つ目のスキルは取得せず保留にしてある。特に欲しいスキルが今のところ無いので、新しい候補が生えるか必要に駆られるまでは残しておく事にした。


 そして『◆眷属MP』って項目なのだが、あれから眷属を増やしたらステータスが見にくくなったので、「おい、見やすくしろよ」と誰にともなく口にしたらこんな感じで纏めてくれた。やっぱり変なところで便利だが、誰が操作してんだよと思うと気色悪さも依然として感じる。


 とにかく、この眷属MPの項目をタップするとこうなる。


 ──『ヌルMP:9600』

 ──『ジャックMP:200』

 ──『コマツMP:150』

 ──『ブレイクMP:150』

 ──『シザースMP:150』

 ──『タイタンMP:800』

 ──『ユニコMP:30』

 ──『ヘルメスMP:5』


 これが今の眷属達だ。新顔はブレイク、シザース、タイタン、ユニコの四機だな。


 ブレイクとシザースはコマツの同型機で、アーム先端のアタッチメントだけ違う派生型となってる。ブレイクにはブレイカーって言う自動ツルハシが、シザースには瓦礫などを掴める爪型のマニピュレータが付いてるタイプだ。色はコマツと同じ黄色。


 タイタンは前に欲しがってた16億もする超大型の油圧式パワーショベルだ。操縦席まで行くのにハシゴとか登らないといけないタイプの、本当にデカい奴である。色は赤みの強いオレンジ。朱色と言った方が良いかな?


 そんな戦闘用三機と違って、輸送機として購入したユニコ。こいつはユニック車の愛称で知られるクレーン付きトラックで、色は黒。荷台部分は銀色だ。伐採した竜樹の運搬に使う。


 そう、竜樹の伐採にも成功した。どうやら取得した金剛力が良い仕事をしたらしい。伐採スキルを取らなくて本当に良かった…………。


 竜樹は一本あたり二億ちょいで売れたので、数本伐採してポイントに変えた。クソトカゲの売却と合わせて、タイタンが買えたのはこれが理由。


 そして、そんなにも凄まじい樹木なら人里でも高く売れるんだろうと思って換金用にも確保してある。デカすぎてユニコの荷台には乗せられなかったから、そこはジャックに頑張ってもらって丸太に加工した。


 本当ならもっと大量に伐採したい所だけど、今のステータスをもってして一日に二本が限界だったし、どうやら硬過ぎてジャックに相当な負荷が掛かってたらしい。昨日の夜にジャックがぶっ壊れて現在は修理中だ。


 ヌルの四ヶ月と比べたら軽傷だが、それでも一週間はジャックが使えないらしい。


「…………そろそろ、良いかな? 森を出て人里を探そうか」


 ジャックが壊れてしまったので、ポイント稼ぎ兼クソトカゲへの復讐に一旦の区切りを付けても良いかと思い、そろそろ人里を探す事にした。


 ユニコは荷物を乗せたまま送還すると、荷物分の魔力が追加されたりはしないけど荷物も一緒に送還しておけて便利だ。これで森の中をユニコに乗って爆走しなくて済むし、小回りの利くヘルメスで移動出来る。


 コマツもステータスを供用してるので、高いVITの効果で運転席も安全なのだが、それでも小回りの利かないユニック車で森を走ってドラゴンに先制されるのは面白くない。


「よし、行くか」


 持って行く物は全部ユニコに乗せてから送還し、代わりにヘルメスを出して跨る。本来は森の中を走る為のバイクじゃないが、この森はクソトカゲが闊歩してる関係なのか木々の間隔がバカ広い。原付バイクでも何とか走れてしまう。


 恨み骨髄でクソトカゲを殺して回ってたが、ようやっとこの世界の知的生命体に会えるかと思うと、それはそれで楽しみにしてる自分を自覚して、俺はアクセルを回した。


 さぁ、しばらくクソトカゲとはサヨナラだ。


 いざ、異世界の街へ!


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