アルマクッキング。
うちの姫様が空腹を訴えておられるので、料理を作る事にした。
今までは旅の途中と言う事もあり、干し肉や豆が練り込まれた小麦の板を焼いた物とかを齧って過ごしてた訳だが、村にいる間は料理くらいしようと思う。
幸い、ネリーの荷物には塩や小麦の他にも芋、豆、乾燥した葉野菜なども有る。多分これが商材だったんだろう。
「さて、何作るか」
これも幸いな事だが、どうやら俺は多少の料理が出来るらしい。自分の事は分からないが、普段から料理をしてた記憶がある。
村人にお願いして適当な
「何を作られるッペさー?」
「お? 聞き取れる!?」
借りた家の奥さんにそう聞かれ、聞き取れた事にちょっと感動する。どうやらこの人は訛りが薄いらしい。
「ええと、
「ええ、あっぺよ」
科学的な洗剤が産まれる前はこれが洗剤替わりだったし、今でも地球のどこかでは現役で使われてる生活の知恵。
灰の主成分はカルシウムやカリウムであり、カリウムは水溶性なので灰を溶いた水はカリウムが溶け出してアルカリ性に傾く。
人が出す汚れは大体が弱酸性なので、弱アルカリ性の灰汁で洗うと中和して汚れを落とせる他に、界面活性作用もあるから油汚れも落とせるのだ。割りと真面目に万能洗剤である。
だから村でも洗濯などに使う物として常備してあると踏んだのだが、どうやらビンゴだったらしい。
「灰汁なんてなに使うっぺ?」
「実はこれ、料理にも使えるんだよ。綺麗な上澄みだけを小麦粉に練り込んで茹でると、モチモチした食べ心地になるんだ」
いわゆる中華麺って奴だな。現代の中華麺は重曹を溶いた水で練るのが殆どだと思うが、ぶっちゃけると人体に悪影響の無いタイプのアルカリ性なら大体なんでも代用出来る。一番手軽なのが灰汁って事だな。
もちろんアルカリ性が強まればどんな成分だろうとヤバいので注意は必要だが。
灰を溶いた水は一晩置いておくと、灰の粒子が沈殿して綺麗な上澄みが取れる。これを貰って、小麦粉と練るのだ。
小麦は粒で保存してたのでこのままじゃ使えない。なので同量の小麦粉と交換してもらった。手間賃はこの料理のレシピって事で。
「生地を練ってる間に、干し肉、干し野菜、豆、芋を塩茹でにする」
鍋でグツグツと材料を煮込んで旨味を取り出し、塩味ベースのスープにする。美味しく作るコツは、豆と芋の一部を潰してから入れる事。スープに溶け出して味が濃くなるし、芋はデンプンを多く含んでるからスープにとろみが付く。
煮込む時、麺に練り込んだ灰汁じゃなくて煮物作ってる時に浮いてくる方の灰汁の処理はしっかりやる。品種改良されて美味しくなった現代の野菜ですら煮込むと灰汁が出るのだ。殆ど原種みたいな野菜を煮込んだら凄まじい量の灰汁が出る。
「煮込んでる間に練った生地を切って麺にする」
大体一人前くらいに麺を切り分けたら、別の鍋でサッと茹でる。生麺は茹で時間がシビアなので気を付けないとコシが消滅するので注意。
「スープの味を整えて、完成したら器に麺とスープを入れて、完成」
簡単チャンポンの出来上がり。
「良い匂いっぺさぁ〜!」
「にぃちゃ、しゅごぃ」
こんな簡単な料理をするだけで妹に尊敬される異世界あったけぇ。
「熱いから気を付けてな。さぁ、食べよう」
ホントなら箸が使いたいが、当然そんな物は無いので木材のフォークで食べる。と言うかコレ、フォークと言うより先割れスプーンか……?
中世では殆ど使われてなかった食器らしいが、この村では普通に使われてるのか。地球と歴史が違うのは当たり前だが、こうやって小さな違いでも見付けるとちょっと面白いな。
「…………んっ、ぉぃし」
「むにゅむにゅっぺさー」
三人でチュルチュルとチャンポンを食べる。麺を啜るって文化は日本と中国くらいしかやらない独特の物らしく、殆どの人類は麺を啜るのに苦戦するそうだ。今回もこれ、啜ったりせずに先割れスプーンでクルクル巻いたり、スープごと掬ったりして食べてる。
一人だけズゾゾゾって鳴らすのも悪目立ちするから、俺もそれに習ってチュルチュルする。くぁ〜、啜りてぇ……。
「ぁむぁむ…………」
「可愛い」
「かぁいっぺさ〜」
先割れスプーンを逆手に持って、逆に今日な食べ方してるネリーが無限に可愛い。もしかしたら俺、日本でもシスコンだったのだろうか? ロリコンでは無いと思うが、自分の記憶が希薄過ぎて自信が無い。
しかしまぁ、影を背負ったダウナー系幼女だったネリーが、ラーメンをあむあむしてお目々がキラキラしてる様子は無限に可愛いとしか言えない。これは一種の永久機関なのでは?
存在するだけで『可愛い』って言うエネルギーが発生し続けてる。研究したらエネルギー問題も解決しそうだ。
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