スキル。



 ひとまず、今の自分に出来ることを考える。


 やるべき事は生存に繋がる行動が最優先だが、しかし一つだけ喫緊で有りながらも優先度の低い矛盾したタスクが存在する。


 そう、ワークビークルショッピングとやらの確認だ。


 これは今すぐ確認しなくても生存性には影響を及ぼさない。だからすぐにでも食料と水、寝床を確保しなければ即日死に絶えるような現状ならスキルなんて無視しても構わない。


 だが逆に、このワークビークルショッピングが見知らぬ森でのサバイバルに有効な能力である可能性もある。と言うか可能性はかなり高い。


 だって、どんなワークビークルだとて現代の乗り物であれば頑丈かつ快適に過ごせる物が多い。


 キャンピングカーはワークビークルに類するか分からないが、救急車でも呼び出せるのならその時点で比較的安全な寝床を確保した事になる。救急車にはベッドがあるから。


 そうじゃなくても、ただのトラックだって鍵付きの扉がある運転席を獲得出来る。間違いなくその辺の地面で寝るよりはずっと快適に寝れる。


 燃料問題もこの能力が忖度そんたくしてくれるなら、明かりや空調も使い放題だし、物によってはシガーライターが備え付けられた車だってある。簡単に火が起こせるのはひ弱な現代人としても有難い。


 という訳で、一発逆転狙いでワークビークルショッピングとやらの確認を始める。


 適当な巨木の根元に腰を下ろして、空中に浮かぶ画面に触れる。


 そもそも操作可能なインターフェースなのかを存じ上げなかったが、触れてみると画面が反応したので大丈夫らしい。ちなみに触れた感触は一切無いので、慣れない感覚に背中が痒くなる。


 画面をタップすると、その説明欄などが浮かび上がるのかと思えばどうやら違う様で、ネットショップさながらのレイアウトで働く車がリスト表示される。


 …………本当に買い物ショッピングが能力なんだな。


 ここまでくると、本当にコレがスキルなどと呼ばれる類の物だと理解した。半信半疑どころか一信九疑くらいだったが、残念ながら本物らしい。


 何が残念かって、これが本物だとするなら逆説的に、この場所が異世界で確定するからだ。流石に現代日本でなんの機材も使わずにこんなARオーグメンテッド・リアリティ表示の画面を映し出す技術なんて聞いた事も無い。VRヴァーチャル・リアリティならまだギリギリ理解出来るが。


 そう思って、一応VRギアなどを付けられてないか頭をぺたぺた触ってみるが、何も無い。つまりVRは有り得ない。絶望した。


「えーと、なになに…………」


 気を取り直して画面を見る。本当にネットショップさながらのレイアウトであり、少しだけオンラインゲームのスキルリストやアイテムリストの様な印象も受ける。


 検索欄がセンターの上寄りにあって、その下にカテゴリー別のタブ分けがされている。その下にはズラっとカテゴリー別のラインナップが写真付きで載っている。


 ワークビークルの定義がどうなってるのかも俺は知らないが、少しばかり覗いてみると裾野はかなり広いようだ。パワーショベルなんかもラインナップされてる。


 ネットショップかオンラインゲームか知らないが、どちらにせよ右上か左上あたりにサポートメニューがあるだろうと当たりをつけ、適当に操作してヘルプを呼び出す。


「ふむふむ……」


 Q&Aは無かったが、詳細な説明はあったのでそれを見る。


 このスキルはやはり、異世界転生だか転移の当事者になった俺が、いつの間にか貰っていた『チートスキル』に相当する物らしい。


 使用法としてはこのスキルを使って特殊なポイントを入手して、それを消費することでラインナップの中に存在するワークビークルを購入出来るとの事。


 つまり、このショッピングサイト風のスキルに於いてポイントが通貨になる。


 そしてポイントの入手方法だが、このスキルを使用して何かしらの品物を売り飛ばすとポイントに出来るらしい?


 説明だけではピンと来ないが、要は売ると決めた物がファンタジーパワーで消し飛んで、その消した物の査定額分のポイントがスキルにチャージされると思えば良いのだろうか?


 まさかスキルを使うとバイヤーが飛んで来て査定してくれるわけでもないだろう。


 この場合の売り飛ばす品は、所有権などの裁定はどうなるのか? 人の物でも勝手に売り飛ばせるなら色々と考える必要がある。


「まぁ良いか、それはおいおい考えよう。次」


 購入して呼び出したワークビークルは、スペックそのものは地球の物と遜色無いが、燃料だけは俺の持ってる魔力に依存するそうだ。ふむ、俺の体にはいつの間にか、そんなファンタジーなエネルギーが宿されてしまったらしい。意味わからん。


 呼び出すワークビークルだが、基本的に呼び出しコマンドを実行すると目の前にドーンッと出て来て、一度出すと収納とかは出来ないらしい。クソゲーか?


 いや当たり前の事なんだけどな。車や重機がそのままそこに残るのなんて、当たり前過ぎて疑問を抱く余地すらない。


 だが、俺のコレが次々とワークビークルを購入して使えるようにする事を強みとするなら、呼び出したワークビークルがそのままだと普通に具合が良くないよな?


 中にはビックリするほど大型の重機や車も存在する。そうなると、それほどに大きな物を管理するなら相応の労力が必要になると馬鹿でも分かる。


 つまり、身を置く環境によってはワークビークルを一つか二つだけ買って、あとは一生なにも買わないって可能性も有り得るのだ。


「それも後で考えるか。ポイントゼロの今に考えたって仕方ない。次」


 複数台持ちの悩みは、複数台持ちになってから考えれば良い。


 色々と説明を読んだが、これで最後か。


「サービスチケット?」


 最後の文を見ると、『どんな商品でも一点だけ無条件で入手可能』って謳い文句のチケットがあるらしい。現状は初回特典的なシステムで一枚だけ所有してる。この先、何かしらの実績を解除するとたまに手に入るレア物だとか。


「ふむ、大体分かったな」


 纏めると、このスキルはワークビークルを購入して召喚する為のものであり、一度召喚すると消せなくなる。


 ワークビークルを買うためのポイントは不用品の売却で貯められる。そして今は、初回特典でどれだけ高額な品でも無条件でなんでも買えちゃうチケットを一枚だけ持ってる、と。


「……なんでも無料は、流石に太っ腹が過ぎる気もするけどな」


 儲けが発生しないなら、こんなもんなのかね?


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