襲撃

「あー、なんか面白いこと起きないかなぁ」


「ジョニー、急になんだよ」


 俺はカウンターに座るミタケと話をしていた。

 そっと視線を彼女の顔から少し下にさげる。


 ミタケの二つのメロンはカウンターの上にあり、その柔らかさを視覚で表現している。俺はその柔軟性をあくまでも数学的見地から堪能していた。

 ううむ、すばらしい。おぉπはやはり世界を救う。


「うっ……ふう。」

「ほらなんつーの?」


 トリ肉を取りに行った流れで、なんとなくワイナビ四天王のツカレタヨーネと戦った俺だが、その戦いが終わった後はフツーにギルドで板前として料理人してた。


 いや板前にして冒険者なのでこれは当然なんだけど。

 せっかく冒険者になったんだからねぇ?もうちょっと冒険者成分が欲しい。


「ふつうに板前してたらこれまでと変わんないじゃん!」


「えー、でもジョニーは板前だからジョニーじゃん?」


「いやでもよ、だってさー?オレ、板前にして冒険者だよ?もっとこう、ほら、何かあっても良いじゃん?」


「ほーん?じゃあ組み手でもすっか?」


「やだ、潰されそう」


「ジョニーはわがままだなー」


 オレは反射的に断ったが、「いや待てジョニー。これはミタケとくんずほぐれつになるチャンスでは?」そうオレのジョニーが訴えかけて立ち上がってきた。

 まったくこいつはきかん棒だな。


 まあそれはいいとして、実際ミタケは実際戦闘マシーンだからなぁ。

 オレでは速攻で意識を刈り取られて、次の日には見知らぬ天井の下で、どろどろの病院食を食べる羽目になる。


 オレが戦うならトリニティドラゴンみたいな食材相手が良いな。

 人間とか無機物の相手はミタケにまかせればいい。

 ぶっちゃけると、絶対に勝てる都合のいい相手とだけ、オレは戦いたいのだ。


 そんな最低なことをナチュラルに考えるジョニーだった。

 きっとその想いが通じたのだろう。

 ギルドの扉が爆発し、砕かれた扉の破片が弾丸のように飛び散った。


<ズガァァァァァ!!!>


「な、なんだぁ?!」

「おっ!なんだなんだ!?」


 恐怖の混じるジョニーの悲鳴に比べて、ミタケはちょっと嬉しそうだ。

 ぶっちゃけ彼女も暇だったのであろう。


 やはり彼女もオニなのだ。合法的に暴力をふるえそうな場面に遭遇すると、自然とテンションが上がるのである。


 それはともかく、爆破された扉を蹴破って「輝きの白」のギルドハウスに入ってきたのは、他でもない。


 ここまで読み進めた読者の君たちなら、もう知っているであろう。


 そう!デスイタマエのエントリーだ!!


 デスイタマエは手に手紙を結び付けた矢を持っている。

 これは伝統的な通信方法であり、「矢文やぶみ」という。


 矢文とはなにか?


 これは「催促さいそくの矢」に手紙を結び付けて相手に渡すことで、一方的に決闘を成立させるという、恐怖のダイレクトメールだ。


 矢文の起源は、古代の戦士「リキシ」が、相手に決闘を申し込むときの文書送信に由来しているという。


 これよりさらに近代まで時代が下ると、ピンク色に染めた熊に手紙を持たせたりしたが、矢文はそれよりも由緒正しい、公文書としても利用できるスタイルだ。


 これを受け取ったものは、必ず決闘に応じなければいけない。


 デスイタマエは矢文を持ち、まっすぐジョニーへと歩いていって手渡した。


「……矢文って、投げたり弓で射たりしないのか」


 ジョニーのもっともな疑問に、デスイタマエは低い声で答えた。


「先が尖っていて危ないだろう」


「――たしかに!」


「我が名はデスイタマエという。板前のジョニー、オヌシに決闘を申し込む」


「なんて雑な展開だ!」

「それ以上いけないぜジョニー」


「詳しい内容はその矢文の中にある。まずは目を通せ」


「なになに、なんだって……?」


 ジョニーは矢から手紙を取り出して広げる。

 そこにはこう書かれていた。


~~~~~~~~~~~


拝啓ジョニーくん(*'ω'*)


デスイタマエといいまつ

ジョニー君も

板前なんでつか?( *´艸`)


実は漏れもです!(^^)!

デスイタマエといいまつ

漏れはジョニー君が

バフ料理をつかってると

ワイナビの人から

聞きました( ..)φメモメモ


でもバフ料理は世界から

取り除かないといけません

ヽ(`Д´)ノプンプン


ジョニー君にそれ以上

バフ効果のある料理を

つくってほしくないのです

(((uдu*)ゥンゥン


なので決闘を申し込みます

漏れが勝ったらもう

料理はしないでください


日にち:○○○○

場所:グンマー国境


~~~~~~~~~~~


「ジョニー、貴様はこの私、デスイタマエと勝負しろ」

「そして負けた方は包丁を折り、料理を封印するのだ!!」


「うわぁ……」

「ジョニー、これは、うわぁ……」


「ふふふ、恐ろしいか?」


「別の意味で恐怖したわ」

「すっげー、マジの古文書じゃん。情報のアプデが無いって怖いなジョニー」


「まあ、でも50代くらいでパソコンが使える人って、いまだにブログやってたりするよ、書き方もこんな感じだな」


「やめろ、それは私に効く」


 デスイタマエは襲撃に来たにもかかわらず、盛大なダメージを受けていた。


 ジョニーが送った、あなたはもう時代に追いついていませんよ?というメッセージは、何よりも人を傷つけるのだ。


 しかし傷つき、痛みを覚えねば、人は成長しないのもまた事実。

 デスイタマエはジョニーの言葉にちょっぴり涙の味を覚え、成長した。


「……フン今日はこれくらいにしておこう」

「決闘の日時と場所は矢文の通りだ。逃げるでないぞ……!」


「まて、料理のテーマや食材が何も書かれていないぞ!」

「お前の得意な分野で戦うつもりじゃないのか?!」


「鋭いな、しかし書かなかったのではない、書けなかったのだ」


「どういう事だ……?」


「フッ、場所を見て気づかぬか?そう、グンマー国境には恐るべきモンスターたちがいる。アダマンチウム装甲を持つカメや、鉄球を握りつぶすほどのゴリラなどがな」


「決闘のルールはひとつジョニー、オヌシ自身で食材を仕留め、調理することだ」


「何だと……?!すごい板前かつ冒険者っぽいっていうかアレだよな、トリ――」


「待てジョニー、それいじょういけない」


 デスイタマエはジョニーの言葉を遮った。

 実際それ以上言ってはならなかった。怒られるからだ。


「面白そうじゃねぇか……乗るぜ!展開は雑だが!」


 それは展開と言うにはあまりにも雑だった。適当で、勢いしかなく、細かいことは考えていなかった。それはまさに行き当たりばったりであった。


 こうしてデスイタマエとジョニーはグンマー国境へ向かい、特に修行シーンとかお約束のシーンも無く、決闘を始めるのであった。



―――――――――――

何て冷静で的確で雑な展開だ!!

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