漆黒の黒の秘策
「クソッ!なんでこんなことに!」
冒険者ギルド「漆黒の黒」のギルドマスターのマタミンは荒れていた。
その怒りの原因は、あの料理勝負にあった。
マタミンはデスイタマエが言い出した料理勝負にのっかり、ジョニーを始末するつもりだった。
しかし連中ときたら、勝手に和解し始めるし、アサシンとして飛ばした「漆黒の黒」御三家にいたっては、ジョニーを始末するどころか、デスイタマエをサツガイしてしまうという結果を残した。
ジョニーを始末して、デスイタマエだけを残す。
そうすれば、「漆黒の黒」で料理バフを独占できる。
マタミンは、これを目的にしていたのだ。
しかしその計画は、全てご破産となった。
デスイタマエは死に、ジョニーはまだ生きている。
そしてデスイタマエの正体は、何を隠そうジョニーの父だったのだ!
あの子にして、あの父ありという感じだが、全く不愉快だ。
あの一族に、この漆黒の黒は振り回されっぱなしということではないか!!
デスイタマエは「漆黒の黒」の御三家の一人、「ザコガリ師匠」の狙撃で死んだ。
きっとジョニーはそれに怒り狂って、「漆黒の黒」を潰そうとするだろう。
異常なチート級の料理バフを手に入れた上に、「漆黒の黒」を敵対視するジョニーは危険極まりない。なんとかして手を打たねばならない。
しかし現状は絶望的だな、とマタミンは思っていた。
御三家はその全員が死亡。デスイタマエも、もういない。
愛する我がギルド、いや、金づるの「漆黒の黒」が大きく弱体化した今、ギルドを強化する方法はないものか?
いままで頼ってきたハーケンは、頼りにならん。
殺象剤のときにわかった。奴はオレを切り捨てようとした。
ここは自分の手で運命を切り開かなければなるまい。
人智を超えたバフ料理を超える力。しかしそんなものこの世に存在するのか?
マタミンは悩む。勝利への方程式が全く見当たらない。
このまま冒険者ギルド、「漆黒の黒」は、滅んでしまうのか?
そしてマタミンは、あることに気がついた。
力がなければ、どこか
そうだ!「ハローワーク」を使えばいいではないか!!
実務経験のある中途採用のみを雇うのだ!!
正社員登用あり、即戦力募集!!
そう
高給で雇ったとして、その給料はどうすれば良いのか?という問題は確かにある。
中途採用の連中に払う給料は、新卒と比べると中途半端に高くなりがちだ。
しかし今回ばかりは、その給料の問題は発生しない。
どうせ半分以上、いや、9割位はジョニーとの決戦で死ぬからだ。
100人の冒険者を集めたとしても、問題ないだろう。死人に給料は必要ない。
大体、冒険者なんて派遣労働にすがる連中は、社会とのつながりが希薄な、社会的弱者だ。妻や子供はおろか、遺族なんているはずがない。頼れる親戚がいるなら、冒険者なんかになったりしない。
中途採用の連中が死んだとしても、大した問題にならないだろう。
10人くらい残れば十分だ。
そいつらも今月の終わりまでに、どっかのダンジョンに突っ込んでぶっ殺せばいい。そうすれば、月末締めの給料をギルドが払う必要はない。
完璧だ。完璧なプランだ。
さっそくマタミンは、ネットで拾ってきた適当な求人票のテンプレートに、会社の名前とか色々な必要情報を書き込み始める。
ほどなくマタミンの手によって、うさんくさい求人票は完成した。
【仕事内容】・冒険者業務(強盗・放火・殺人) 午前:略奪先の調査 午後:略奪・遠征
【勤務時間・休日】・8時~22時 ・日祝休み、見なし残業あり、裁量労働制
【募集する人物】・中途採用のみ・殺人スキル必須(剣術・銃道)・運転免許(装甲車、戦車・キャタピラ車)
【給与】月給2000万円((1)の手当を追加した額面。ただし試用期間中は半額)
(1)残業手当1999万円。残業の有無にかかわらず、固定残業代として支給。
(2)固定残業代は繁忙期のみとする。
給与はどうせ払わないんだし、ゼロを3つくらいふやしていいだろ。
どうせ冒険者共はちゃんと読まないから、適当しても大丈夫だ。
うん、いい感じだ。
……いや、見返してみると、ちょっと堅苦しいか?
もうちょっとこう柔らかい感じにしてみるか?
うちのこう、「漆黒の黒」の雰囲気とか、わしの素敵なイメージを想像できるような名文をちょこちょこっと書き足すとするか。
「今回、中途採用のみを採用となります。ギルドと一緒に成長できる潜在能力をお持ちの方、ギルドマスターのマタミンの理念を理解し、ギルドのために身を粉にして働ける方を募集します」
「冒険者事業、略奪、放火、殺人が大好きな方を歓迎いたします。気に入らないやつの家に押し入って、すべてを奪い、穴のあるものすべてを犯してギルドを一緒に盛り上げていきましょう!冒険者のすることは冒険です!蛮族相手の強盗、殺人、放火、レ●プは犯罪になりません!」
うむ、ただ「中途採用する」とだけ求人票に書くより、こういった「ギルドと一緒に成長できるポテンシャルのある冒険者」とか、「ギルドの事業を一緒に盛り上げてくれる冒険者」とか言う風に工夫して書いてやったほうが、うちのイメージがしやすいな。
ここまで書けば、自分の名前しかかけないような冒険者でも、なんとなく応募してくるだろう。我ながら芸術品のような求人票だな。
――まったく、我が事ながら戦慄する。
完全に、完璧で、万全な計画ではないか!!!
「ガハハ!勝ったな!!」
マタミンは絶望の淵にあったが、いまや勝利の予感に酔いしれていた。
「そうとも、『漆黒の黒』は滅びん!何度でもよみがえる!!」
マタミンは高笑いをし、求人票のプリントアウトのボタンを押した。
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――――――
もうやめて!
板前の残り話数は後4話よ!
ここでまた風呂敷を広げたらどうなるの?!
次回「作者、展開に死す。」
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