「暴食」の鬼娘、ミタケ
★★★
「あ~それにしても腹減ったなぁ」
切っ先が潰れ、刃も無くなり、どう見ても剣と言うよりは鉄塊と言った方が適切なグレートソードを担いで、ひとりの女性が道を歩いていた。
彼女は2Mを越える長身が目を引き、腰までの長さの黒髪を揺らしている。だが、一番の特徴は額に生えた2本の角だ。
彼女はオニと言う人に似た種族の剣士で、その名を「ミタケ」という。
身に着けた甲冑は、装甲を簡略化し、防御力よりも動きやすさを重視した、水着のようなデザインであった。
肩や腕、
いや、むしろ無防備と言っても良いだろう。
しかしこれには理由がある。身体全体のひねりやタメを使ったオニの伝統剣技には、腹回り、腰回りにゴチャゴチャ板のついた鎧は、かえって邪魔になるのだ。
もとより鎧などなかった時代に練りあげられたオニの剣技なので、ミタケがまるでこれから海にでも行きそうな格好をしているのは、ごく自然で、当然のことだ。
決してやましい理由があって露出が多いわけでは無いのである。
そのミタケはくんくんと鼻で空気を嗅ぐ。
なにかいい匂いが遠くから香って来るのに気づいたのだ。
「……ん~っ?」
おぉ、この脂の焼ける臭い、間違いねぇ!!……これは、焼肉の臭いだ!!
「肉ゥゥ!!」
走り出したミタケはすぐに臭いの元を見つけて走り出した。
途中にあった邪魔な木々をラリアットで根こそぎ倒し、道を作ると真っ直ぐに向かう。彼女の食欲の前では、あらゆる障害は無意味だった。
彼女ミタケの持つスキルは「暴食」。
食うためなら山を砕き、川を飲み干し、木々を引っこ抜く。
食欲はどんな障害をも打ち倒す。それが「暴食」だ。
さらに始末に負えないことに、食えば食うだけ強くなるスキルでもある。
彼女がジョニーと引き会うのは必然だったのかもしれない。
一方の板前のジョニーは、そんな存在が迫ってきてるとは思わず、真空波によって大まかなブロックとして捌かれた肉を、さらにきめ細かく調理している最中だった。
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まったく、緊急事態とはいえ、血抜きも何もあったものでは無い状態で切り分けられてしまった。このまま焼いては非常にケモノくさい焼肉になってしまうな。
腱や筋をきめ細かく処理するついでに、黄色い質の悪い脂肪を取り除いていかねば……そしてさらに甘塩を振って味をキメていくのだ!!
これにはスピードが重要だ。さっと処理して、そして焼く!!
大胆かつ繊細、板前の基本だな!!
ジョニーは薄い石を探し出して、それに火をかけて鉄板代わりにしていた。
過熱された石の上に肉を置くと、石はその熱であっというまに肉を焼き上げる。
表面に脂が浮くと、彼は特徴的なポーズで塩を振っていった。
ふふふ、石を使って焼いてると、まるで原始人のようだが、まさか原始人も、ここまで良い肉は喰えまい!!
肉が焼けるたびに芳醇な脂の香りがするじゃあないか!!!
ん~!たまらん!早速頂くとしよう!
「はふはふ!もぐもぐ!」
俺はまるで無限機関だ!肉を焼く、取る、そして、喰う!
きっとこのサイクルを、地球が終わりまで続けるに違いない……!
しかしながら、この量を一人で食うというのは、流石にきついな。
俺の横には、まだ見上げるほどの量の肉がある。
まさかずっとこれをココで食ってるわけにもいかないよなぁ。
その時だった、何かが下草をかき分けてこっちに来るような、「ガサガサ」という音が、俺の耳に入ってきた。
「なんだ、狼か?!」俺はとっさに包丁を抜いて、音のする方をじっと見つめる。
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草をかき分けて現れたのは、鬼娘のミタケだ。
いきなり森から現れた彼女に、ジョニーは腰が抜けそうになった。
なにせミタケは2M以上の身長がある。ジョニーより頭ひとつは大きい。
並んで立つと、ちょうど彼女の胸に彼の頭が来るくらいだ。
そして額に角を生やし、完全武装で肩にグレートソードを担いだその姿とあっては、どっからどう見ても、ヤベー奴であった。
(デカイ……2Mくらいか?背もそうだが……)
身長差のせいで、自然とミタケの胸が目に入るジョニーは、男としてごく正直に「うーむ、でかい」という感想を抱いた。
「よっす!大将、やってる?」
「びっくりした……ここは俺の店じゃないし、勝手に食って良いよ、むしろこの量をどうしようか、処理に困ってたところだし」
「マジかよ!!お前いい奴だな!!ウチはミタケ!よろしく!」
「板前のジョニーだ。肉はいいけど、火が足りるかなぁ?」
「あー、
なんだ、オニって怖い連中かと思ったけど、意外といい奴らなのか?
俺の作った世界の
むっしゃむっしゃと食っては笑顔でお代わり!をしてくる。
合間に勝手に酒を飲みだすわ、このミタケとか言う鬼娘すげーな。
遠慮が無さ過ぎて、いっそ清々しい。
しかしなんだ、俺の作った料理、ってもただの焼肉だけど、それで誰かが笑顔になっているところを見ると、なんだか嬉しくなるね。
ジョニーがミタケの笑顔を嬉しく思ったその瞬間、石の上で焼かれた肉がキラリと光ったのだが、これに気が付いたものはこの場にはまだいなかった。
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