お前ら人間じゃねぇ!!
「あー殺した殺した!」
「今日もいっぱい働いたな―!!気に入らねえ奴らをブッ殺しまくったぜ」
……和やかに会話するギルドの冒険者たちの様子をぼーっとみて思った。
やはり暴力は全てを解決するんだな。
俺ことジョニーは板前だ、冒険者の様に戦う力を持っているわけでは無い。
スキル「板前」は料理の食材を下ごしらえして、調理するスキルだ。何一つ戦闘に関係する要素が無い。まるっきり無い。
だから俺は生まれてからこの方、一切、戦いというものをしたことが無い。
このギルド「漆黒の黒」で、ずっと板前として、料理を作って皆に食べてもらう事が俺の仕事だった。戦いなんてするわけが無い。
厨房は毎日戦争だが、レアモンスターの大根を斬ったり、ドラゴンの卵を割ったり、万年魚を捌くような事ばかりで、忙しいがとても戦いとは言えない。
もし俺が戦えるのなら、マタミンはあんな雑に扱ったりはしないだろう。
そもそもこの世界でマタミンのように人に話しかけていたら、首がいくつあっても足らない、その場で頭をカチ割られるか、頸動脈をかっ斬られるだろう。
それもこれも、俺が暴力をふるう力が無いからだ。
ようは……俺はナメられているのだ!!
クソッ!!いまさらクビにされてどうしろっていうんだ!!
あの3年の労働は、何の意味も無かったっていうのかよ!!
試用期間は、俺をただ、安くコキ使うための口実だったっていうのかよ!!
ぼーっと眺めていた冒険者と目が合ったので「やばっ」っと思って目を逸らす。
殴られるかナイフを投げつけられるかと思ったが、そのかわり投げつけられたのは、心無い言葉だった。
「おい、あいつ……板前のジョニーだよな?」
「あの無能、試用期間のまま、クビになったらしいぜ?」
「マジかよ、ふつー試用期間のまま働く?」
「だからバカなんだよ」
(クスクス……)(マジかよ)
「無能の臭いがクセーや」「さっさと消えろよカス」
「いつまで居んだよ、早く出て良きゃあいいのに」
「そうだ、いいこと思いついたぜ!」
「……おい皆!ジョニーが出て行きやすくなるようにしてやろうぜ!」
「そいつぁいいや!」
「「「むーのう!むーのう!むーのう!」」」
<パン!><パン!><パン!>
冒険者たちは俺に向かって、手拍子まで加えて無能コールをした。
楽し気に手を叩く連中には、ついさっきまで俺の料理した大根をうまそうに食っていた、顔馴染のジェイコブまで居た。
仲間だと思っていたのに……それは俺の勘違いだったっていうのかよ?!
助けてくれるどころか、俺を追い出すのを楽しんでやがる!!
「ちくしょぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「こんな……こんなクソブラックギルド、こっちだって、居てたまるかあああああ!!!!!!」
俺はカッとなってギルドを飛び出した。
スニーカーでアスファルト斬りつけて走る俺の背中には、ギルドの冒険者たちから心無い言葉がいつまでも投げつけられていた。
「二度と来んなカス!!」「ボケ!」「バーカ!」
「くそがああああああああああああああ!!!!!」
俺を罵る罵声が耳に入らないよう、血管が切れるのではないかという勢いで、いや実際にはいくつか切れていたのかもしれない。視界にいくつもの星をちらつかせながら、俺は大声をあげて街路を疾走した。
「ボケがああああああああああああああああ!!!!!!!!」
街の門をくぐり、荒野に出た俺は、お地蔵さんの横で腰を下ろした。
「ハァ……ゼェ……チクショウ…!!」
千切れ千切れの白い雲が浮かぶ青空の下で、俺は息を整える。
呑気に風にふき流されている白い雲を見る。お前に俺の苦しみは解るまい。
俺のスキル、「板前」は食材を調理するスキルであって、戦闘スキルじゃない。
だから戦いはできない。この暴力が支配する世界で、それは致命的なのだ。
世界とは暴力を中心に動いている。
その世界で戦闘に関係しないスキルなんて、ハナクソほどの価値も無い。
俺のスキルが鍛冶みたいな戦闘の役に立つスキルだったら、ギルドから追放なんてされなかったかな……?
ふと、俺に料理を教えてくれた親父の顔を思い浮かべる。
(ジョニー、料理とは愛情なんだ。食べてくれる人に愛を持って作れば、料理というのはその人の力になる。身体だけでなく、心も温める。それが料理なんだ)
ふ……いまさら「板前」を投げ捨てる事なんて、できないよ。
今は亡き料理人だった親父の顔を思い浮かべて思う。ジェイコブはクソ野郎だが、奴が飯を食う姿を見て、俺が嬉しいと感じていたのも事実なんだ。
きっと俺は、根っからの料理人なんだ。
ここでヤケになって野盗に落ちぶれ、役人に捕まって斬首ENDなんてなったら、とても死んだ親父は浮かばれないだろう。
「仕方ない、別のギルドを探そう。『漆黒の黒』だけが冒険者ギルドじゃないはずだ。きっともうちょっと、うん少しくらいマシなギルドがあるはずだ」
すこし心が落ち着いた俺は、すっくと立ちあがる。
その時、ぽつんと頭に生暖かい何か、水気のある物が落ちて来たのに気づいた。
おや、さっきまで晴れていたはずだが、夕立ちでも来たのかな?
<ウルルルルルル……>
空を見上げた俺は、家くらいの大きさの、「プリウス」のつぶらな瞳と目が合った。こいつは草原や丘を自動車くらいの速さで走るオオトカゲだ。
フスンッっというこいつの鼻息はすさまじく臭い。
うん、これは肉由来の腐臭だ。料理人にとっては割となじみのある臭さ。
そう、こいつは肉食で、よくピザの配達の兄ちゃんが犠牲になる。
――俺の冒険はどうやらここで終わるようだ。
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