板前、新天地へ
※若干の用語修正
「ここがヴァイスかぁ」
「おう!まあ気楽にしな!」
俺は冒険者ギルド「輝きの白」があるという街ヴァイスにやって来た。
「小さいけど、ちゃんとスーパーがある。カインズやワークマンもあるし、良い感じじゃないか!食い物、武器、防具がぜんぶ手に入るぞ!」
「えー、ジョニーの居たとこってそんなド田舎だったのかー?」
「いやぁそれが逆、超都会だった」
「ん-?どういうこと?」
「俺が前居たクソブラックギルド、「漆黒の黒」があったところは大企業が立ち並ぶビジネスオフィス街だったから、逆に店がなかったのよ」
「ああ~そういや都会って、ビルばっかだもんな!!」
「まぁその通りで……最初はなんて立派な所にあるなぁって思ったんだけど、周りが会社の入ってるビルばっかりで、なーんも無かったのよ」
「飲み屋なんかはあるけど、ちゃんとした飯屋を探すのにはクソ苦労する場所だったな。結局みんな「漆黒の黒」のレストランで食うようになってたんだよ」
「だからみんなジョニーの飯を食ってたんだな!うらやましいぜ!」
そういわれるとまんざら悪い気もしない。
「それに道具や作業着もギルドの『管理費』が上乗せされた、バカ高い装備を買わないといけなかったからなぁ……」
「ここら辺はメチャ安いぜ!安売りなんかあったら、気分はもう戦争だぜ!」
「その戦争、ミタケに敵う人いないんじゃないのー?」
「いやぜんぜんだな!やっぱオバちゃんたちのパワーにゃ勝てねぇ!」
「そうなの?!」
オバちゃんすごい。
まあちょっと話がそれたが……ようは立派なところに会社があるからって、そこが働きやすい会社とは限らないってことだ、うん。
「お店もいっぱいあるし、いい街じゃない!」
「だろー?『輝きの白』が入ってるビルはこの先だぜ!!」
俺はミタケの案内で街を進む。
ちょっと古びた建物が目立つけど、これくらい落ち着いてた方がいいや。
ヴァイスは郊外のベッドタウンって感じで、落ち着いた雰囲気の街だ。
ギルドに向かって静かな住宅街を歩く俺たち。
ところがそこに俺たちの行く手をさえぎる者が現れた。
「あー超殺してぇ!誰でもいいから殴りてー!」
「誰でもいいからボコッて、俺たちブラザーのヤバさをバズらせよーぜ!!」
明らかに常用漢字が読め無さそうな風体のヤベー二人組が、俺たちの行く先を塞ぐようにふらふらと歩いてくるのだ。
どう見ても正気じゃない、完全にキマってる様子だ。
あれだけ質が低いのは、きっと「ワイナビ」の冒険者だな。
「ワイナビ」とは全国に展開しているとても大きい冒険者ギルドだ。
上位ランカーはそうでもないが、組織が大きいだけあってピラミッドの下の方は、犯罪者と同類の連中がわんさかいると評判だ。
そのとくに酷い冒険者は「パリピ冒険者」とよばれる。パリピとはパーティーピープルの略だが、詳しい経緯は知らない。
とにかくパリピ連中はパーティを組むと、なんかしらんが強気になる。
窃盗、暴行、放火を町で繰り返すのだ。
そしてそういった犯罪を自撮りしてネットで自慢して、そのままバッチリ証拠として警察に捕まる。そういったパリピ冒険者はたびたびニュースになる。
最悪なことに、この連中はニュースや新聞の見出しすら読むことができない。
いや、字は読めるが理解できないのだ。
そして犯罪者=有名人と思い込んでいるのだ。
すさまじいアホさだが、これがパリピ冒険者である。
だから良識ある親は子供たちに、「冒険者」みたいになっちゃうよ!と口を酸っぱくして言って、勉強机に座らせるのだ。
冒険者が社会に必要なのは間違いない。
しかしもっぱらディスられ、忌み嫌われる存在なのだ。
イヤだなぁ……。
絶対ヤベー薬キメてるよアレ。
「やべーのがいるな!!ちょい下がってな」
「わぁーい!ミタケの背中がたのもしー!!」
背中にオニが住んでいそうなミタケの後ろに俺は回る。男としてどうかとおもうが、プライド?そんなものはクソ食らえだ。これが俺の生存戦略だ!
「おいっしゃ!!まず弱そうなのからぶっ殺せ!!」
「オラァ死ねぇ!!」
俺の生存戦略を上回る戦闘本能で奴らは回り込んできた。
そしてその手には鈍く光る密造拳銃があった。冒険者お気に入りの武装だ。
片方のパリピは俺に向かってその粗雑な拳銃をぶっ放す。
パァン!と乾いた破裂音が閑静な住宅街に響いた。
うわぁ死んだ!!オレ死んだよ!!ハイ今死んだ!!
「……アレ?……死んでない?」
腹のあたりを見ると、どんぐりみたいな形の弾丸は、板前の象徴であるエプロンを貫き、そして俺の皮膚の上で完全に止まっていた。
「これは……そうか!」
そうだ!筋力と体力3000%のバフ料理、っていうか焼肉だけど……ミタケと一緒に俺も食ってたじゃん!!
料理バフは作って食った俺にも効果があるのか!!
ならこんなパリピ冒険者怖くねーぞ!!
いや、銃弾を止める飯ってなんだよ?
冷静に考えたらこえーわ。本当に食って大丈夫か?
まあ、そんなことよりは目の前のパリピだ。
人間相手に包丁を使う訳にはいかない。
神聖な包丁を、チンピラの血で汚すわけにはいかないからな。
俺はファイティングポーズをとってパリピと対峙する。
「お?ジョニーもやるか?」
「おう!!銃なんか効かねぇんだよカス!!」
小物界の大物である俺は、勝てるとなれば強気である。
しかし向こうも負けてはいないようだ。
より戦意を高めて、こちらに向かってくる様子を見せていた。
「ボッコボコにしてネギトロにしてやんよ!!」
「ヒャッハー!女はとっ捕まえてヨシワラ送りだぁー!!」
「ケヒャヒャ!まずは俺らが楽しんでからだけどなぁーー!!」
パリピは奇抜なポーズで飛び上がると、俺に向かって正拳突きを放って来た!
その拳に向かって、おれは腰の入ってないふにゃふにゃのパンチを放つ!
俺は板前だ!!人の殴り方なんて知らないのだ!!
しかし次の瞬間、パリピの手は、手だったようなものになっていた。
<ドボグチャボキビリベチャ>というとってもイヤな音の後、おそるおそるチンピラの方を見ると……手はどうみても血に染まったイソギンチャクになっていた。
「うぎゃあああああああああああああ!!!!」
うわぁえっぐ!!ムリムリ!見れない!!
「チキショウ!!よくも兄弟を!!覚えてやがれえええええええ!!!!」
俺たちを襲ったパリピ冒険者は、勝手に襲って、勝手に帰っていった。
うーん自分勝手にもほどがある。
「あ、ブチのめして息の根をとめようとおもったんだけどなー」
ミタケも大概ヒデーや。
まあ冒険者なんて犯罪者スレスレなものだが、パリピは特にひどいな。
関わり合いにならないのが一番だな。
住宅街を抜けた俺たちが「輝きの白」のギルドハウスに辿り着いた頃には、もう日はすっかり傾いていて、道路が黄金色に染まっていた。
俺は期待と不安が半々になった感情のまま、その扉に手をかけた。
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