冒険者ギルド「輝きの白」
ギルド「輝きの白」の中に入った俺は、その空間の居心地の良さに驚いた。
落ち着いたオレンジ色の白熱電灯の光に照らされる室内は、暗すぎずもせず、明るすぎもしない。古びた木造の室内は、木の香りを漂わせてくる。
すんっと深く空気を吸うと、木に混じって上品な香水のような香りが、俺の鼻の奥をくすぐった。この森の日向に沈むような香りは……!
これは……「おばあちゃん家」のニオイだ!!
――なんて落ち着くんだ!!!!
実際ギルドの中にいる冒険者の年齢層はめちゃくちゃ高かった。
おじいちゃんとおばあちゃんばっかりだ。
「輝く白」っていうか「死にかけの銀」だよ!!
シルバー人材センターじゃねぇか!!
うーん、ミタケには悪いけどこれは理由をつけて……無理だわ。
さっき「ワイナビ」のパリピ冒険者とトラブったばっかだったわ。
こんな状態で外歩いてたら、なる早どころか、秒でぶっ殺されるわ!!
身の安全の為にも、このギルドを利用せねば。
流石に俺としても「それはどうよ?」と思うゲスムーブだ。
しかしギルドに入っておけば、お礼参りに来る連中の牽制にはなる。
「おぉ~……あー、誰だったかのぅ……」
……たぶん、多少はなるよ、うん。
「ミタケだよ、ばーちゃん!!あ、このばーちゃんが「輝く白」のマスターのサカキばーちゃん!!」
「おーそうじゃった、ミタケじゃった……おはぎは食うかい?さっき突いた所じゃ」
「やったぜ、食う食う!」
「お邪魔しまーす!」
俺はズカズカとギルドに上がってお茶とおはぎをごちそうになった。
白に近い黄色い畳の上にあがる。いやあ、畳なんて見たの何年ぶりかなぁ。
「それで、板前さんは……なんちゅうのかのう」
「あ、板前のジョニーです」
「ギルドの前の板前さんは老衰で死んじまっただろ?だから連れて来た!」
「おぉ~、ミチバさんは最近見んの~?」
「おう!死んだからな!!」
「ねー、ミタケさんココ大丈夫なのー?『輝きの白』って冒険者の仕事するどころか、介護を受けるって感じだけど?」
「まだまだみんな元気だぜ!」
「おぉ~、現金はお財布に入れて置くんじゃよ~」
うーんギルドマスターのサカキのばーちゃんは完全にボケている。
本当に大丈夫なんだろうか?
「実際どういう依頼してんの?」
「警備の仕事と、簡単な掃除とか、夕方に電気をつけて回ったりとかだな!駐車場とか、そういうあんま動かなくて良いけど、人が必要な奴!」
「なるほど。」
明らかにそんな仕事、若くてエネルギッシュなミタケがするものではない。
ミタケは何でこんなところにいるんや?
「ミタケさんも警備を?」
「うんにゃ、皆が出来ねー仕事やってる感じだな!」
「うーんそうかぁ、ちなみにどーいうの?」
「トリの卵を取ってきたりとか、採取系だな!ジョニーもこんどいくか?!」
「お、良いねぇ、鳥の卵か……」
鳥の卵はいろんな料理に使える。悪くない。
ギルドに俺の顔を売る為にも、依頼をこなしつつ、さらに板前として料理ができるところを見せてみたらどうだろうか?
うん、よさそうだ。冒険者にして板前、「戦う板前のジョニー」だ。
「それで、その採取はいつ行くんだ?」
「明日!!」
「今度って言わねえよそれ!!」
「えーだめかぁ?」
「いや、行くけどな!他にやることもないし!」
「じゃあ、ジョニーは『輝きの白』に入るって事でいいんだな?」
「ああ、それでいいやもう!」
「じーちゃん、冒険者カードいっちょー!」
「あいよ~」
「そんなラーメンみたいに作るもんなの?!」
杖をついてプルプル震えているじーさんが、俺の前にある物を持ってきた。
何も書かれていない、無地の冒険者カードだ。
「お、ミタケさんが持ってるのと同じやつ?」
「おう!じゃあちゃっちゃとカードに刻み込んじゃって、ドーマンのじーちゃん!」
「うむうむ……お主の名は何というのかのう?」
「ジョニー、スキルは『板前』だ」
「真名は『ジョニー』、星は『板前』か、ギルドの名においてカードに刻み込もう」
じーさんはさっきまで生まれたての小鹿みたいにプルプルしてたのが嘘のように、しっかりとした手つきで作業に取り掛かった。
シワシワの手をさっとカードの上にやったかとおもうと、無地のカードの上に、「ポッ」と暖かい光が灯って、ジョニーと言う俺の名前が浮き上がった。
うーん、ボケても熟練の仕事は手が覚えているって感じか。
じーさんもしっかり職人なんだなあ。
「よし、これでいいぞ、ホレ……もっていけ」
「ジョニー、スキル板前。うん?この下の数字と文字は?」
「それはステータスじゃ、じゃじゃ、な、なんじゃぁこりゃぁ?!!!」
「うわぁびっくりした!なんだよ!」
「うわぁ!なんかすげえ数値になってる!!じいちゃんまたやったな?!」
カードに書かれている文字と数字はこんな感じだ
『板前』のジョニー
スキル:板前
状態 :ふつう
LV:68
筋力 :128
体力 :167
器用さ:123
素早さ:145
賢さ :68
魅力 :9
「普通はどれくらいなんだ?」
「LV1なら筋力とかの数字は10ちょっとかなー?
「んでんで、LVがあがる度に1とか?たまに6とかあがるんだけど……」
「おいまてや!賢さと魅力が低すぎんだろ!!何でこんな数値が適当なんだ!!」
「さー?」
「しかしまあ、なんちゅうレベルの高さじゃ……60後半のレベルの冒険者は、わしも久しぶりに見たわい」
「そんな高いの?オレが生まれてこのかた倒したモンスターって、プリウス一体だけなんだけど」
「うーむ、それじゃあやっぱ壊れてるのかもしれんのう、それならLV10未満のはずじゃ。LV60台のものは、数年続いた戦争の後くらいでしか見れんよ」
「ウチは30くらいだから倍だぜ倍!みたことねーよ!!」
「そうなのか?」
俺のLvってミタケの倍あんのかよ?!
っていうかLVってそもそも何だよ?!
「ミタケでそれくらいなら、やっぱおかしいんだな」
「うむ……数年間、毎日のように人やモンスターを殺し続けるような、異常で凄惨な毎日を送っているものがたどり着ける境地じゃ、このLVは」
「LVってなんなんだ?」
「ふむ……これを語るのは久しぶりじゃ」
「LVとは『Level of Violence』という意味じゃ。」
「人は暴力をふるうと、次第に優しさを、人の心を失っていく……」
「そしてその分、人やモンスターを傷つけることに
「そう、LVとは人の業の深さ、命を奪った数をそのまま表すのじゃ!!」
「なんかとんでもないこと言いだしたぁ?!」
「ジョニーはとてもそうは見えねーなぁ?」
「やっぱカードの方が壊れてるんじゃねーの、じーちゃん」
「じゃろうな。新しいカードを取り寄せんとなぁ……やれやれじゃ」
「これでジョニー君も、『輝きの白』の一員になったのぉ~、寝泊まりするなら勝手にギルドの部屋を使って良いからのぉ?」
ギルドマスターのサカキさんはホホホと笑って俺にギルドのどこに何があるか教えてくれた。キッチンも割とちゃんとしてるし、寝床もちゃんとしていた。
うーむ「漆黒の黒」とは比べ物にならない寝床だ。ちゃんとベッドのある個室だ。
これだけで「輝きの白」に来てよかったと思える。
なにせちゃんと寝具があるのだ。『漆黒の黒』だと、一日1000円払って借りる(名目はクリーニング代だが、クリーニングに出してるところを見たことない。スゲー臭い。)ナイロン製の薄い寝袋で、床の上にそのまま寝る。
使う人たちはヨボヨボだけど、まだギルドの施設はしっかりしてるようだ。
うん、悪くない!
「んじゃ、ぶっ壊れてるけどカードはできたし、明日さっそく冒険にいこうぜ!」
「そうだな……よし!あらためてよろしくな、ミタケ」
「おう!!」
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