板前の正体

 美食家たちは、声高らかに「ジョニーの勝利」と宣言した。


 それを聞いたデスイタマエは、悔しがる様子をみせるどころか、ジョニーを褒め称える。敵とは言え、まったく気持ちの良い漢だ。


「ジョニー、素晴らしいコンソメスープだった。我の出した課題をこなすどころか、その上を行ったな」


「ヘッあたりまえだぜ!なんたってウチのジョニーだからな!」


「――信頼されているのだな」


「食い物のことだけな!ジョニーは基本戦闘では役に立たねぇし!」


「わりとミタケさんヒデーこというよね?」


「ツカレタヨーネのとき、ジョニーおめーなにしてた?」


「記憶ニゴザイマセン」


「フフッ、伴侶も見つけたようだし、もう安心といったところか?」


「ははは伴侶ぉ?!ウチとジョニーが?!」


「何だ、違うのか?我はついてっきりそうなのかと。いやぁ、すごいのを捕まえたなぁと、男としてジョニーに尊敬の念すらあったのだが」


「バカいっちゃいけねぇよデスイタマエさん。オレとミタケは相棒だが、まだそんなんじゃないぜ!」


「お、おう?おう、だな?うん!」


「そうか、それは残念だな……オホン、まあそれはともかくとして、コンソメスープに話をもどすとしよう」


「まずは素材だが、素晴らしいの一言だ」

「獣たちの礎にある、巨大なバハムートの骨を使うとは、実に大胆だ」


「しかし気になるのは、採集の方法だ。バハムートの骨の硬さは鉄と同じだ」

「どうやって骨を採取した?」


「簡単なことさ!」


「あぁ!剣でぶっ叩いてもダメだったから、ロケランを打ち込んだぜ!!」


「ロケランンンンンン!!料理にロケラン?!ロケラン=ナンデ?!」


「確かにあの骨は硬かったけど、現代戦車の複合装甲ほど堅牢じゃなかったからな!○ークマンで買ってきた成形炸薬弾頭をぶちかませば一撃だったぜ」


「発想のスケールがテロリストだな」


「へへっ」


「骨の表面をロケットランチャーげ粉砕し、髄を取って煮詰めたわけだな」

「そして野菜はグンマーの野生化した野菜を使ったと」


「あぁ、動き回るくらいだから、活きはいいぜ」


「うむ、ソレくらいでなければ、神竜バハムートの味には勝てまいよ。通常の野菜であれば、とても神竜の出すアクに太刀打ちできまい」


「このコンソメスープは、すべての要素が噛み合っている」

「板前のジョニー、お前はコレを調理したのか。お前というやつは……」


「あー、それなんだけどさ、ちょっと謝んないといけないことが」


「む?」


「実は、そのコンソメスープを調理したのは、オレじゃなくて、ミタケさんなんだ」


「なんだと?!しかし、この味はどう見ても素人のものとは思えんぞ?!」


 驚愕して目を見開くデスイタマエ。

 まあそうなるよなと、ジョニーは思った。


「一応オレが横で見て、最後までやり方は指示したけど、実際に手を動かして、調理したのはミタケさんなんだ」


「しかしどういうことだ?何故お前は他人に、それも素人に調理を任せた?」


「ほら、あんたが『かんぴょう』でグルグル巻きにした、冒険者ギルドのマスターの二人、あいつらがアサシンを送り込んだって話があったろう?」


「あぁ……まさか!!」


「オレは『漆黒の黒』御三家の一人、ザコガリ師匠のスナイパーライフルで撃たれた。そして傷ついて、料理するどころじゃなかったんだ。」


「なんとヒレツな!!」


「そいつはやっつけたけどよ、でも料理していた鍋がまず撃ち抜かれて、最初作った料理を台無しにされちまったんだ」


「それを代わりに作ったのが、ウチっていうわけだぜ」


「ぬぅ……しかしそれでは、話がまるで変わってくるぞジョニー!」


「あぁ、オレがあんたに勝ったわけじゃない」

「デスイタマエ、あんたに勝ったのは、このミタケなんだ」


「板前でもないものが、この私を倒すとはな、ククク、長生きはするものだ」

「こんなに愉快なことは久しぶりだぞ!ジョニー!」


「あんた、別に怒らないんだな?」


「うむ、むしろ喜ばしいとすら思っている。これを見るがいいジョニー」


 デスイタマエが懐から取り出し、ジョニーに見せたのは、彼の冒険者カードだった。名前のところはデスイタマエの指が邪魔してよくわからないが、重要なのはそこではない。


 見るべきはステータスとバフ欄だ。


 デスイタマエの冒険者カードのバフの欄には、確かに料理バフがのっていた。

 そこには金色に輝く、「神竜の吐息」という文字が書かれていた。


「ジョニー、お前はお前以外の料理人にも、料理バフが使え、さらに美味しい料理を作れるというのを示したのだ。これがお前の勝利ではないなら、何が勝利になる?」


「ジョニー……お前は最高の板前だよ。そしてミタケ、お前もな」

「ありがとう。」


「こちらこそだぜ!」

「あぁ!デスイタマエの料理も悪くなかったぜ!」


 ところがこのジョニーとかいう男、しれっとデスイタマエの料理をマタミンに押し付けている。いや、そんな事はいいのだ、こんな感動的な場面で水を指すようなことは言ってはいけない。


「だけど、まだわからないことがあるぜ」


「む、まだ何かあったか?全部説明したと思うが」


「いや、あんたはまだ黙っていることがあるぜ」

「それはあんた自身のことだ。デスイタマエ、あんたは何者なんだ?」


「どこでバフ料理を覚えて、どうしてそれをみんなに伝えようと思ったんだ?」

「デスイタマエになる前のあんたは、何者だったんだ?」


「フ、フフフ、ハハハ!!」


 デスイタマエは唐突に笑い出した。

 その笑い声を聞いたジョニーとミタケの二人はガチめにドン引きした。


「確かにそうであった」

「私が何者かということについて、お前たちには何も伝えていなかったな」


「あんたは一体……?」


「私の本当の正体は――」


 その時だった、ジョニーの肩越しに見える丘の向こうで、何かがキラリと光ったのを、デスイタマエはその視力4.0の両目で確認した。


 ボロボロになりつつも、ピカピカのスナイパーライフルをこちらに向けている老人がそこにいた。そう!!ザコガリ師匠の再エントリーだ!!


「勝利を確信した時、人はもっともザコになる……死ねぇ!!ジョニー!!」


 ザコガリ師匠は構えた狙撃銃の引き金を引いた。


 世界最高峰の長距離用実包、338.ラプア・マグナム弾が撃発され、200グレインという、通常のライフル弾の倍、人に対して使うには過大すぎる重量の弾頭が、スナイパーライフルから放たれた。


 あらゆる状況での狙撃に適応したこの弾丸は、一切の狂いなく、ジョニーの脳天に向かっていく。


「危ないッ――!!」


 ジョニーの脳天に向かって飛んでいくはずの銃弾だったが、それに立ちはだかったものがいる。デスイタマエだ!!!!


 デスイタマエはジョニーのミートシールドになり、脳天が狙われていたはずなのに、なぜが胸にその銃弾を受けた。


 飛び散る血飛沫を浴びたジョニーは、倒れる彼に、何故か父の面影を見た。


「デ、デスイタマエーー!!!!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る