ザコガリ師匠

「ようやくわかりやすいヤツが出てきたな、ミタケさん」


「あぁ、この作者は展開に困ると、難しい話で誤魔化そうとするからな!わかりやすい暴力を振るってくるやつは助かるぜ!!」


「料理で物理的に殴り合うがコンセプトのはずだったのに、最近どんどん変な流れになってきたからな、ここらで本筋に戻すぜ!」


「おう!」


「ホッホウ、ナニをごちゃごちゃと……死になさい!」


 サコガリ師匠は手に持った狙撃銃、「イモスナ」の引き金を迷いなく引いた。

 白い骨が無数に転がる獣たちの礎に、パァンと乾いた音が響く。


 放たれた弾丸はジョニーやミタケではなく、煮える鍋を狙っていた。

 カンという金属が叩かれた音に気づいたときにはもう遅かった。


 穴からはどくどくと中身のスープがこぼれだし、鍋の下にあった火を消していく。

 ジュゥ!っと音がすると、スープの香ばしさと、木が焦げた臭いの混じる、複雑な香気が周囲に漂った。


「ホーホウ!料理勝負を邪魔するなら、料理だけを仕留めてしまえば良い」

「こんな事もわからぬから、あやつらは三流なのじゃ」


「ジョニー、スープが!!!!」


「ザコガリィィィ!!!!なんてことをしやがる!!!!」


 ミタケは鍋を傾け、鍋の穴の空いた方を上にするが、待ってましたと言わんばかりにザコガリ師匠が二発目を放った。


 スナイパーライフルから放たれたフルメタルジャケット弾は、スピンしながらまっすぐと、空の色をその身に写した銀色の鍋へと向かう。


 しかしその弾丸を、ジョニーが体を張って受け止めた。

 腹に赤い点ができ、じわりと広がり、そしてエプロンが真っ赤に染まる。


「――ッ!」


「ホッホウ!たかが料理のために命を張るとはのぅ」

「板前としては見上げた根性じゃが、そんなもの無意味、カスなんじゃよ!!」


「ふざけんな、カスなんかじゃねぇ……!」


「ザコはみんなそう言うんじゃよ。さて、ワシの仕事は済んだ。きょうはもう半ドンにして帰るとするかの」


「待ちやがれ……ザコガリ師匠!」


 ぼたぼたと落ちる血で、地面に点々と痕を残しながら、ジョニーはザコガリ師匠へ立ち向かった。彼のその瞳は燃え盛る石炭のように熱かった。


「食い物を無駄にするやつぁ、ゆる、せねぇ!」


 ジョニーを足を前に進めていたのは、スキル「板前」の力だった。


 「板前」は料理を愛するものだ。


 店に来て料理にイタズラするTiktoker、食べ物で遊ぶ迷惑Youtuberを、板前は決して許したりしない。それは板前が、自分の料理を食べる人に対して責任を負っているからだ。


「食い物で遊んだり、デカいもんを作って遊ぶのも、自分の家で作って、自分で食うなら良いかもしれないさ……」


「だけどよ、人のために作ってるもんをひっくり返してよぉ……」

「アハハ、楽しいですね、なんてのは……通ら無ェだろうがぁ!!」


 ジョニーの身体から金色のオーラが放たれた。

 スキル「板前」は、料理を傷つけるものに対して、その力を何倍にもするのだ!


「テメーはお客様じゃねぇ!」


 ホルスターから包丁を取り出したジョニーは、それをザコガリ師匠に向けた。

 それに何か嫌なものを感じたザコガリ師匠は、イモスナの引き金を何度も引く。


<パァンッ!><パァンッ!>


 しかし放たれたフルメタルジャケット弾はジョニーが振る包丁によって弾かれた!

 飛来する弾丸は黄色い火花を上げ、すべて防がれてしまった。


「バカな!板前ごときが、音速を超える弾丸を見切っているの言うのか!」

「なぜだ、非戦闘スキルである『板前』にこんな力があるはずない!!」


「板前はおまえみたいな迷惑客と戦うための力を持っている」

「そうじゃねぇと、本当のお客さんを守れねぇからなぁ?」


「何ッ?!」


「そうか、ジョニーの『板前』は、料理を食べさせることも含めてのスキルなんだな?だから邪魔をするサコガリ師匠や四天王に対してアレほどの力を……」


「客じゃねぇテメェがここにいる意味はねぇよなぁ?」


「クッ……ぬかったわ」


「おかえりくださああああああい!!!!」


 ジョニーが包丁を持った手をブンッと力強く振ると、突風が起きた。

それは人の大きさほどもある骨を巻き上げるほどの力だった。


 ザコガリ師匠は地面踏ん張ったが、どうにもできず浮き上がる。


「ウワァァァァァ!!」


 そしてジョニーの起こした突風で吹き飛ばされ、グンマーの山に消えていった。


 ジョニーはソレを見届けると、金色のオーラを吹き消し、ガクッと膝から地面に崩れ落ちた。ミタケはそれを見て、鍋と見比べて迷ったが、ジョニーに駆け寄った。


「ミタケさん、俺よりも、鍋の方を……お客さんが待ってるんだ」


「バカ言ってんじゃねぇ!鍋はともかく、人間は穴が空いたら死んじまうんだぞ!」


「ハ、ハハ、たしかに……クソ、寒くなってきやがった……」


「ジョニー、ウチも展開の温度差で風邪ひきそうだぜ」


「そいつは、いえてるな……」


 ミタケはジョニーのエプロンを包帯代わりにして止血した。

 急場はしのげたが、これではとても料理は続けられない。


「チキショウ、これじゃぁ……」


 ミタケが悔しそうに穴の空いた鍋をみて、そう言うのを眺めていたジョニー。

 彼は血が抜け、カサカサになった唇で、ある言葉を口にした。


「ミタケさん『料理』……やってみないか?」


★★★

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る