トリの卵

 次の日、オレとミタケは野原に鳥の卵を探しに行った。


 初心者冒険者の仕事っていったら、やっぱ採取だよな!

 これくらいならガチ初心者のオレでもできる。


 通りすがりに存在する野生の香草や、野生のマメをちぎって採取する。

 そしてそれらをギルドで借りた、採取用のエコバッグに入れていった。


「その草くえんのー?」


「おう、これはバジル、これはヤブツル、小豆あずきの原種だな」


「おー?アンコつくれんのか?!」


「そこまで甘くはないかなー?でも野生の豆の中ではかなり美味いぜ」


「ジョニーは色々知ってるなぁ?」


「ああ、親父がこういうのに詳しくってな」


 俺はちぎった豆のサヤをエコバッグの中に入れていく。


 このバッグは「漆黒の黒」で使っていた、3円1枚のビニール袋とはうってかわって頑丈だ。中に仕切りもあるし、便利で良いな!


 しかも繰り返し使えるエコバッグだから、汚さない限りタダ!

 うん「輝きの白」は環境と冒険者に思いやりがある。やっぱ昔の人は違うね。


 そして俺は目的地に着いた。

 ミタケのいう、「良いところ」だ。行ってみるとなるほどと思った。


 俺の目の前には、大人一人が持ち上げるのがやっとの大きさの卵がある。

 卵としてはかなりデカイ。何人分のダシ巻き卵が作れるだろう?


 こんな卵を産む鳥って、一体どんな奴だ?


 シンドバッドの冒険に出てくる、クソデカ鳥みたいな感じだろうか。

 あれはヒナにゾウを食わせるって話だったが。


 俺たちは葉の生えた小枝を両手に持ち、自然と一体になって巣に近づく。

 フフフ……完璧な偽装だ。


「ちょーど朝産んだ感じのタマゴだな!」


「朝に生まれた新鮮卵かぁー、いいねぇいいねぇ!」


 俺は枝を投げ捨て、卵を抱える。

 タマゴの中身はほぼ液体なので重い。ヒザにずっしりくるぜ。


「よし、見つからないうちに帰るか」


「いやー?もう遅かったみたいだぜ!!」


 俺たちを黒い影が覆い尽くす。


 その影は大きな翼をもち、にょっきりと3本の細長いものが突き出していた。


 ワニのような尻尾の生えた金色の胴体に、長い3本の首を持って翼の生えた生物。

 その大きさは二階建てのちょとしたアパートくらいある。


 オレはこいつをたまにニュースで見たことある。

 ドラゴンだ。目撃情報が出ると、電車を止まったり、学校が休校になるアイツだ。


「トリっていったじゃねぇか!!!!」

「これのどこが鳥だあああああああ?!」


「おー、だから、ニティドラゴンの卵だって」


「ふざけるなあああああああ!!!」


 トリニティドラゴンは自分の卵を盗んだ俺を見つけると、当然のごとく襲い掛かって来た。クソッ!!こうなればやることは一つだ!!


「ヘイ!ミタケ!パスッ!!」


 俺は巨大なタマゴをミタケに押し付けた。

 オレの生存戦略は今日も冴えわたっているようだ。


「おっま!!ふざけんな!!!」


「俺は戦闘職じゃないんじゃ!!板前だああああ!!」


「これじゃー剣がふれねーじゃん!!」


「あっそうだ……ごめんね☆」


「ばかやろおおおおおおおおおおお!!!!」


 そんなオレたちのやり取りをよそに、トリニティドラゴンは真っ直ぐグライダーのように滑空して、その足で襲い掛かって来る。


 ミタケと俺は地面に転がってそれをかわした。


 ええいジョニー、落ち着け、落ち着くんだ。


 奴はドラゴンと言っても、その形は三本首があるだけのトリだ。

 そう、ドラゴンといえども空を飛ぶなら鳥、わかったなジョニー?


 そして生きものなら食えるはず。

 なら、俺の「板前」スキルが効くはずだ……!!


 俺はホルスターから包丁を引き抜くと、手の中でくるっと回してから構えた。


 まずは手羽先、ツバサからだ。

 ――お前から空を奪う!


 包丁を水平に一閃し、きらめかせる。

 俺はその手にある包丁から、「切断した」という結果だけを飛ばしたのだ。


 トリニティドラゴンを不可視の空間の断裂が襲う。


 まるで一枚の絵を切ってずらしたような光景が、ジョニーの目の前に展開した。


 ドラゴンの背中に生えた2対の翼が切断されて宙に踊り、その支えを失った竜の巨体は、真っ逆さまになって地上に墜落した。


「よっし!やったぜ!!」


「すげぇ!今何やったんだ?!」


「俺もわからん!!料理は理屈じゃねぇ!!フィーリングだ!!」


「だめじゃん!!」


 ミタケとそんなことを言っていると、地面にその体を打ち付けられたドラゴンが、怒り狂ったような雄たけびをあげ、地面を揺らしながらこちらに迫って来る。


 うむ、あのモモは唐揚げに良さそうだ。

 いや、せっかく卵があるのだし、親子丼はどうだろうか。

 スーパーでめんつゆを買ってきて、それで親子丼を作るか?


 うん、昨日焼肉したばかりだし……。

 オレがいくら若くてエネルギッシュでも、油モノが続くのはキツイ。


 油抑え目で、それでいてボリューミーなのが食べたいよね。


 グゥと腹がなった。そういや朝飯抜いてたわ。


「うぉぉぉぉぉぉ!!!!『調理』してやるぜ!!メシィ!!」


 その時だった。

 包丁が黄金色に光って、光輝く奔流を放ってそれがドラゴンに襲いかかった。


「よくはわからんが……食らえ!!」


 光の奔流はトリニティドラゴンに襲い掛かり、皮、骨、肉に分けていく。

 まるで精密無比な機械を分解するかのようだった。


「わりとグロイ!!!!」


「うわー……」


 オレとミタケがわりと本気目にドン引きする中、野原にはウロコが残ったままの皮を皿として、大量のドラゴン肉が残されていた。


 しばらくトリ肉料理が続きそうだなこりゃ。

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