四天王との決戦 (序)

 ミタケとじーちゃんが将棋遊んでいる間、ジョニーは黙々と作業していた。


 親子丼はそんなに難しい料理でもない。

 ジョニーがまだ「漆黒の黒」にいたとき散々作った料理でもあるだからだ。


 目をつぶっても作れるそれだが、若干の物足りなさを感じているのも事実だった。


「いつも通りっていうのも悪くないけど、ちょっとアクセントが欲しいよな~」


 何気なく声を発したその時、キッチンでジョニーに話しかけるものがあった。


「ファ……ではこういうのは如何ですか?我が国に起源をもつ先進的調味料です」


「ん?」


 いつの間にかジョニーの横に変な男がいた。

 男は水玉模様の入った赤いマントで全身を包んでいる。そしてマントは頭部もすっぽりと覆っていたので、ジョニーは男の顔を見て取ることはできなかった。


 うーん「輝きの白」にこんな人、いたかなぁ?

 でも、料理が好きな人に悪い人はいない。これは世界の法則だ。

 板前には見えないが、きっと彼も板前のソウルを持つ者なんだろう。


 そんなことを考えていると、男はあるものを差し出してきた。


 それは野菜の浅漬けだった。全体的に赤色をしていて、独特の臭気を放っている。

 よく見てみると、白菜やニンジンと言った根菜を赤色のソースで漬けたモノのようで、興味を持ったジョニーはそれをペロッと味見してみた。


「こいつは――!」


「ファ、ハハハ、良いお味でしょう」


「ありがとう、早速つかって見るぜ!!」



「へいおまちどぉ!」 


 ギルド「輝きの白」の面々のちょっと遅いお昼ゴハンに、ジョニーの親子丼が振る舞われた。しかしジョニーが差し出したその親子丼は、イレギュラーだった。


 その親子丼を見たものは、一様に眉をひそめた。


 何を隠そう、親子丼の上には独特の臭気を発する赤色のナゾの漬物と、どろっとした名状しがたい何かが乗っていたからだ!!


「何か……赤くねぇ?」

「赤いのぅ」

「赤いですねぇおじいさん」


 親子丼のその異様な見た目に、保守的なギルドのじーちゃんばーちゃんは、それにハシをつけるのを戸惑っていた。


 ジョニーをギルドに温かく迎え入れてくれた、ギルドマスターのサカキのばーちゃんでさえも、その赤い親子丼に手を付けるのをためらっている。


「まあ、喰って見てくれよ」


 ジョニーの勧めに真っ先にハシを動かしたのはミタケだった。

 彼女はこのなかでも一番ジョニーのメシを食っている。だから彼のいう事を、いや、料理を信頼してみようと思ったのだ――しかし!


「辛い!なんだこれ!」


 ミタケから「辛い」と、まるで叫びのような声があがった。

 それを聞いてなのか、「ファファファ」不敵な笑いがギルドの中にこだました。


 笑いの主は、ジョニーにあの漬物を渡した赤マントの男だ!

 赤マントの男は、ギルドのテーブルの上に仁王立ちになっていた。


 しかし「マナーが悪い」とサカキに思いっきり棒でスネをしばかれて、涙目になってテーブルから降りた。


「ファファファ……板前のジョニー!この『火病のファビョランテ』の策略にまんまとはまったな……!それは……『キムチ』だ!!」


「まさか!おまえはワイナビ四天王だったのか!!」


「気付かない方がどうかしてるとおもう」

「うん、わしもどうしてフツーに話してるのかなって」

「てっきり同じ小学校とかで知り合いなのかと」


 そんな周囲の声も気にせず、二人はバチバチと視線でつばぜり合いをしている。

 口火を切ったのはファビョランテだった。


「ファファファ……料理バフは飯を食べさせなければ効果を発揮しない!!」


「なるほど、それがお前の狙いか、ファビョランテ!」


「うむ!私が貴様に渡したキムチ、『赤い流星レッドコメット』はとても辛い!通常の3倍の辛さを持つキムチをいれさせて、親子丼を台無しにしてやったわ!


「ファファファ……板前のジョニー、破れたり!!」

「あとはお前を、暴力で倒すだけだ!いでよ!残りの四天王たちよ!」


 ファビョランテがマントをひるがえすと「あー臭かった」といってもう二人の四天王が現れた。


「クカカ、水虫のカイカイッツォだぜぇ!」

「ホホホ、痛風のバリバリシア、ここに!」


「ファファファ……ケジメのために死ねい!!」


 親子丼を食べたじーちゃんばーちゃん。周囲から「辛い」と悲鳴が上がるが、ジョニーはそれでも余裕の表情を崩していなかった。


「そいつはどうかな?」


「何ぃ?!」


「ファビョランテ……お前の狙いはよかったと思うぜ。でも辛い、という声が上がっているという事は、『 ハシが進んでいる』ってことだ!」


「「そういえば!!」」


 見ると確かに「辛い」「辛い」といいながら、ギルドのじーちゃんばーちゃんは、どんぶりの中身をもっさもっさとハシで口に運んでいる。


「俺が味見もせずに使うかよ!もちろん『キムチ』が辛いことはわかっていたぜ!」

「だからこいつを使ったのさ!!」


 ジョニーが取り出したのは『チーズ』だった。


「味見して解ったが、その『キムチ』の辛さの元はトウガラシだろう?」


「ファファファ……さすがは板前と言った所だな、それがどうした?!」


「トウガラシの辛さのもとは『カプサイシン』なんだ、こいつはある特徴をもっている。それは……脂溶性、つまり油に溶けるって事さ」


「水をいくら飲んでも、トウガラシの辛さや胃の痛みはなかなか消えないんだ。だが脂肪分の多い牛乳を飲むと和らぐ。これは脂とカプサイシンが混ざるからだ」


「そう、キムチがいくら辛くても、チーズと絡めれば、ピリカラの味を楽しめるんだ!!お年寄りにも食べやすいようにな!」


「な、なんだとぉ?!」


 輝きの白のじーちゃんばーちゃんは、無心に親子丼をむさぼっている。


「「辛い、うまい、ウマカラじゃ!うますぎるぅぅぅ!!」」


 そして……ドンブリを見事に完食した、まさにその時だった。

 世にも不思議なことが起こった。


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