最終決戦 (破)
一方そのころ、「輝きの白」にいるはずのジョニー達は何をしていたか?
彼らは「漆黒の黒」をぶっ潰すと息巻いていたはずだが――
「ほいよ!一丁上がりぃ!」
「やったぜ!待ってました!」
歓声の上がる中、板前のジョニーは、すっかり若返りが固定化してしまったじーちゃんたちに料理を振る舞っていた。あれ?漆黒の黒は?などと思ってはいけない。
それよりも今日のメニューは「ジョニーの気まぐれチャーハン」だ。
エビマヨチャーハン、カニカマチャーハン、唐揚げあんかけチャーハンといった具合で、卵チャーハンをベースにして、その上にかける具でもって、バリエーションを出したメニューだ。
一人ひとりに別々の定食を作るのは、いくら板前でも荷が重い。
しかし、全ての人に同じ料理というのも、味気がない。
軍隊ならそれでも良いのかもしれないが、ここは冒険者ギルドなのだ。
なのでジョニーは「チャーハン」を作り、これを中心となるメニューを考えることにしたのだ。盛り付けたチャーハンの天頂に乗せる具で、味の派生を作ったのだ。
ギルドの食堂では、こういったようなアイデアが重要だった。
美味しい美味しいといって食べて、顔をほころばせる、じーちゃんばーちゃんたちだったが、他方、ジョニーはなんだか浮かない顔をしている。
彼の厨房の手伝いをするようになったオニ娘のミタケは、ジョニーに何かあったのかと思って、彼の表情の理由を聞くことにした。
「ジョニー、なんだか浮かない顔だなー?」
彼を気遣う一言に、ジョニーは皿を洗いながら答えた。
「いやあそれがなぁ、『漆黒の黒』を潰すのはいいとして、普段の仕事が忙しくて、それどころじゃね―ってことに気がついてな!!」
もっともな話である。
一日の半分以上をコンビニの前でつぶし、ジャンクフードをストロンガー・ゼロで胃の中に流し込んでは、コンビニに入ろうとする一般人からカツアゲしている冒険者と違い、ジョニーは数時間おきくらいに、厨房で仕事をしないといけない。
とても「漆黒の黒」を相手している余裕など無いのだ。
主に仕事の都合で。
いや、「輝きの白」なら、有給は取れる。
――だがそれは無理なのだ。
ホワイト企業であるはずの輝きの白で、何故そんなことが?
何故有給休暇が取れないのか?
説明しよう!!
まだ働きだしたばかりのジョニーのもとには、そもそも有給休暇がないのだ!!
有給休暇とは、雇入れの日から起算して6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して与えられる「生命の泉」である。
ジョニーはあと6か月、フルタイムで出勤しないと、有給休暇が取れないのだ!!
「有給休暇を取るにしても、あと半年、働かないといけないからな」
「――そういえば、そうだったぜ!!うちのギルド、『輝きの白』は企業コンプライアンスにうるさいからな!いくらジョニーでも、特別扱いは逆にしてくれないぜ!」
「だよなー、それってルールを破ることになるから、よくないよな」
「だがこうなると、俺たちは『漆黒の黒』に立ち直る時間を与えちゃうな……」
「だな、でもジョニーの料理バフの威力があれば、立ち直った『漆黒の黒』相手でも、ふつーにボコしそうだけどな?」
「それはそうだけど、めんどーじゃん」
「まあなー。」
皿を水から上げて、乾燥機の中につっこむジョニー。
大体の片付けが終わって、ようやく一息つける。
「いっそ、『漆黒の黒』の方から、こっちに来てくれたら嬉しいんだけどな?」
「まっさかー、そんな都合のいいこと……ねーだろ?」
「だよなぁ、あるワケ……」
ジョニーはミタケに、炭酸飲料を渡した。ずっと料理場にいると、暑くて喉が渇くのだ。二人はプシっと缶を開けて、中身を口に含む。
「「おらぁ!ジョニーとかいうやつ!!出てこぃ!!」」
「「漆黒の黒をナメたケジメ、つけさせっぞオラー!!」」
「「マジで来たぁ?!」」
二人はハモりながら、ブー!っと口から含んだ液体を吐き出した。
「「オラ!出てこねぇとぶっ殺すぞぉ!出てきても殺すけどな!」」
ジョニーがギルドハウスの入り口を見ると、そこには100人近い武装した冒険者がひしめいていた。まるで午前8時のシンジュク駅、その上り行きホームのようだ。
「どうしようミタケさん?!」
「とりあえず、外に出られなくて邪魔だなー?」
エプロンを外したミタケは、肩を回すと連中の方へ歩いていった。
「まあ確かに。じーちゃんばーちゃんの腹ごなしにはちょうどいいか?」
100人の冒険者をぎゅうぎゅうにギルドハウスに押し込み、その光景を後ろから満足気に眺めるものがいた。「漆黒の黒」のギルドマスターのマタミンだ。
「ヌッハハハ!ジョニーも流石にこの物量にはビビったと見える!」
「このまま田舎から出てきたばかりの苦学生が、初めて都会のラッシュアワーに流されて目的の駅に降りれず、
そう、マタミンはまたしても、ジョニーの心に傷を負わせるつもりだった。
いや普通に殺せよと思うだろうが、悪役というのはこうでなくてはならない。
ひとまず相手の悔しい顔を見てから殺したがるのが悪役というものだ。
そうでなくては悪役の条件を満たさない。普通に殺したらただの犯罪者である。
悪役には悪役の作法というものがあるのだ!!
「ガハハ!まずはこのギルドを解体してしまえ!」
「やつの居場所を更地にしてしまうのだ!!やつの居場所を奪って、そして殺す!」
「うむ、完璧なプランだ!」
「ッスッゾコラー!!解体だぁぁ-!」
冗談みたいな大きさの木槌をギルドの玄関に叩きつける冒険者。
しかし次の瞬間それは起きた。
押しかけていた冒険者達は、天から降り注ぐ広い光、うどんのようなごん太ビームで焼き払われ、チリと化したのだ!!
「「ギャアアアアアアアア!!!!」」
ネームド冒険者はさっと他の冒険者を肉の盾にしてビームを避けるが、ほとんどの冒険者連中は、何もできないまま、あっというまに白い灰となった。
「なんだ、何が起きた?!」とうろたえるマタミン。
「この程度のビームで消し飛ぶとは、冒険者も質が落ちたわね」
「今の子供は外に出て遊ばんからな、日光浴をしないから、光属性に弱いのだろう」
そう語るのは、ギルドの平たい屋根の上に乗った二人の若い男女だ。
マタミンはその二人を見て、「ハッ」と正気に返る。
「な、何だ貴様らは!!」
「私達の姿を見てもわからないとはね?」
「まあそういうなサカキ、俺等が現役の頃、こいつらはまだハナタレ小僧だ」
「フッそれもそうね」
彼らは何を隠そう、エビマヨチャーハンを喰って力がみなぎっている、『破空』のサカキのばーちゃんと、『陰陽』のドーマンのじーちゃんだ。
ジョニーの料理バフによって若返った彼らは、ガチの戦争経験者である。
平和な時代を生きる、今の冒険者など相手になるはずもない。
「とうッ!!」
地面に降り立った彼らは、純粋なサツガイのためだけの戦闘行為を行った。
その行為をここで書くことはできない。あまりにも残虐で無慈悲なためだ。しかし考えても見て欲しい。魔物や人と戦い、それを倒して人がLV(Level of Violence)をあげたということは、つまりこういうことなのだ。
LVが高いとはこういうことなのだ……!
それ以上のことは、とても口に言い表せるものではない。
数分の後、ホワイトギルドは、ブラッドギルド、レッドギルドになってしまった。
びしゃりと音を立て、肉塊の浮く血溜まりのスープの上を歩くサカキのばーちゃん。その身は一滴の血しぶきも浴びずに、まっさらな無垢のままだった。
ネームド冒険者以外の冒険者は、瞬く間にネギトロとなった。
まだ立っているのは「快楽卿・ジョイガイ」「光の戦士・ナデポ」「リサイクラー・ジュン」の三人を残すのみだ。
「待て!!待つのだ!!」あまりの一方的な虐殺に慌てたマタミンは、サカキとドーマンの二人にある提案をすることにした。
「わしは輝きの白の皆様に手を出す気はねぇんでさぁ。ただ、ウチをでていったジョニー、そいつにケジメをつけさせたいだけで、ヘヘヘ……」
「さっきギルドを解体するとか言っていたようだけど?」
ブタを見るような冷たい視線を投げかけ、言い放つサカキ。しかしマタミンはくじけない。必死の言い訳を初めた。
「ととと、とんでもない!買いたいっていったんでさぁ!買収!お金でなんとかできたらなぁ!そんな気持ちがつい強く出ちまっただけなんです!!」
「あっしはただ、ジョニーと戦いたいだけなんでさぁ、ほら、決闘みたいな感じで」
「ジョニーと戦いたいのか、ならば良し!その場を用意しよう!」
「えっ?!」
「うそんっ?!」
マタミンと一緒に声を上げたのはジョニーだ。このままサカキのばーちゃんたちが始末してくれるぜ!やったぜと思っていたら、急に雲行きが怪しくなってきたのだ。
しかし二人が慌てても、もう手遅れだった。
二人はドーマンの放った
それは決戦の場、ギルドの地下闘技場だった。バトルジャンキー、暴力中毒者の集まりである冒険者ギルドでは、おなじみの施設だ。
ただのおっさんのマタミンと、板前のジョニー。男と男、非戦闘職と非戦闘職、明らかにグダグダになりそうな、マッチメイキングだが、彼らは一対一で最後の勝負をすることになった。そしてセコンドにはそれぞれギルド所属の冒険者が付いた。
この戦いのルールはただ一つ、生き残ったほうが勝者だ。
他には何をしても良い。
こうしてジョニーの最後の戦いが始まった。
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