料理バフ
「おっとぉ!!」
恐怖で目をつぶり、動けなかった俺の目の前で、バァン!と大きな衝突音がした!
恐る恐る目を開くと、眼前でオニ娘のミタケとアイアンゴーレムが、その手と手を合わせ、取っ組み合っている。
「ンゴー?!」
「相撲かぁ?なら負けねーぜ!」
両者は力比べのように押し合い、真っ直ぐ力と力をぶつけあって……いや違う!
ミタケはゴーレムをいなすようにして、その力を削いでいる!
アイアンゴーレムはパワーだけだが、ミタケはパワーに加えて、確かな戦闘技術を持っている!野生生物には持ち得ない、文化的で人間的な闘争生物だけが持ちうる、バトルセンスをミタケは持っているのだ!!
野生動物は食うために殺すが、人間は娯楽のために殺す。人にとって殺しは文化である。基本的な戦闘技術のレベルが違うのだ!!いやそれはどうなんだ?!
ゴーレムが押してくれば引き、タメれば押す。力を余らせ、腰を浮かせて不安定になった所を、ミタケはゴーレムの膝を真横から蹴って地面に倒す。
「はっはぁ!子供の相撲の取り方だな!それじゃあ勝てねえぜ!」
「ンゴゴー!!」
「タメてドーンってのはこうすんだ、グッとして……バーンってな!!」
ミタケの説明は抽象的過ぎて俺にはさっぱりわからないが、何かがおかしい。
車をひっくり返せるゴーレムと肉弾戦で戦えるのがそもそもおかしいのだが、問題はそこじゃあない、身を低くして、その体をグッと後ろに捻って拳に力を溜めているミタケの拳が黄金色に光っている。
「食らえ!!これが、ギュッとして……ドッカーンだ!!」
さっきと言ってることが違う!!!!
バッとミタケが力強く拳を突き出すと、拳だけでなく黄金色の闘気が打ち出され、アイアンゴーレムの上半身は粘土みたいにブチっと引きちぎられ、空の彼方に飛んでいった。
えぇぇ……ひくわー……。
「その、ミタケさん、ずいぶんお強いようで……」
あまりの出来事に、俺は生来の小物としてのDNAを発揮し、自然とミタケに対して、へへへと手揉みし、下手に出ていた。
「食ったら元気になるからな!」
ミタケが誇らしげに胸を反らすと、その豊かな胸がブルンと揺れて強調される。
ううむ、汗ばんだ肉体が非常に股間に悪い。
しかし俺は鉄の自制心でジョニーのジョニーをなだめる。俺は紳士なのだ。
若干前かがみの俺に、ミタケが腰を曲げ、覗き込むようにして俺を見る。
「どうした?どっか怪我した?」
その胸にある二つの丘は重力に逆らえず、ぷるんと釣り鐘状になって、俺の目の前に迫った。そして、しげしげとこちらを見るミタケがもっとよく見ようと顔を寄せてくるせいで、その形の良い唇、細い鼻、運動して上気した頬まで鮮明に見える。
うおおお鎮まれ!!内なる俺!!!!ステイ!!ステイ!!
「いえ、一度恐怖を感じると、エビのように背が丸くなる持病がありまして」
「そっかー、お大事になー」
よし!完璧に誤魔化せたぞ!!
「人間の男のあいだで、その病気はやってるんだなー?」
いえ、多分ミタケさんの周りだけだと思います。
「とにかく、すごいパワーですね、ミタケさんっていつもあんな感じで?」
「いやー?「暴食」のスキルのおかげで、メシ食った後は力が出るもんなんだけど、今日のは特別すっげーよ。板前の料理食ったのは初めてだから、それかもな!!」
「ははは、まさかそんな……?」
「いや、そんなことあるぜ?ほら、冒険者カードのステータスの部分みてみ?筋力と体力のとこに+3000%ってついてんじゃん。あ、バフ欄に『防御貫通20%』もある」
「なにそのヤケクソみたいなバフ?!」
「え、ジョニーは知っててやってたんじゃないのー?」
「普段の飯の10倍くらいのパワーだぜ?」
「いや全然」
「前のギルドの連中、ジョニーのどこみてたんだ?」
「さぁ……」
そういやそうだな。みんな自分の仕事で忙しいし、他人に気をつかうどころの環境ではなかったからなぁ、「漆黒の黒」って……。
基本新しい人が入って来ても、代わりに誰かが居なくなるし、新人もいつの間にかいなくなるから、そのうちだれが入って来ても挨拶すらしなくなった。
そんなかんじで、厨房にいる俺から見ても、ギルドの雰囲気がどんどん殺伐としてきたんだよなー。
……いや、ギルドマスターのマタミンが、わざと仲間同士を無関心にさせてたって感じもするな。
マタミンは、『出て行くやつも出て行こうとする奴も負け犬だ!!ここに残っているお前たちは、エリートだから残ってるんだ!』みたいなことをいっていた。
そんなんだから、「漆黒の黒」に入って来たばかりの人同士ならともかく、すこしするとお互いに愚痴とか相談とか、すげーしづらい環境だったんだよな。
「おーい?」
ぼーっと前のギルドの事を考えていると、ミタケは俺の顔をニヤニヤしながらみつめていた。彼女は実に悪い顔をして、その口で三日月のような弧を描いている。
「よっし、ジョニー!あたしと組め!したら無敵だろ?!」
「えー、そうかなー?いやでもそうかもしれないなー?」
オニ娘と板前のパーティかぁ。
うーん、あれだけ飯をガンガン食ってくれるなら、料理の練習でも困らないか。
いや、意外とありかもしれない。
わりと本気で「輝きの白」に入ることを考えるべきかもしれない。
そんなことを考えてジョニーは気持ち早めに歩き出した。
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