つぎの働き口
・
・
・
「あー食った食った!」
俺は、目の前の大女の、実に豪快な食いっぷりに感心していた。
ミタケを名乗る、このオニ娘の食欲はすさまじい。
彼女の「暴食」というスキルのおかげもあるのだろうが、とにかくちぎっては食い、ちぎっては食いを繰り返したおかげで、小山ほどあったプリウスの肉はすっかり消え失せている。
しかしミタケは実に美味そうに食う。やはりうまそうに食ってもらえるのは良い事だ。俺は板前としての誇りが満たされ、つい嬉しくなってしまう。
「どった?何ニヤニヤしてんの?」
「すげー美味そうに食ってくれたなあと思って!姉さんすげぇよ!」
「ハ!食っただけで褒められるなら、いくらでも食いたいね!」
「ウチは大食いで怒られることはあったけど、褒められるの初めてだ。あんた板前のジョニーとかいったっけ?」
「ああ、ちょっと前まで『漆黒の黒』の板前をやってたんだけど、そこを意味もわからず追い出されちまってな……」
「ふーん?なんかしたの?」
「いや、3年試用期間で働いただけだ。試用期間が終わったらクビをきられた」
ふーん?と片方の眉を曲げて、うさん臭そうに俺をみるミタケ。
何一つ嘘じゃないんだがなぁ……
「ま、ウソの臭いはしないし、ギルドに来いよ!『輝きの白』ってんだけど!」
「えー、聞いたことないトコだなぁ?」
「そりゃ新しめのトコだからな!とにかく見るだけでもいいから来いよ!」
「強引だなぁ……とにかく入るかどうかは置いといて、焼肉の代金の代わりに、そのギルドがある町までオレを案内してくれないか?」
「おっ、そんなんでいいの?」
「ああ。」
「おっし!じゃあ行こうぜ!!ウチのギルドにも板前が欲しいなーって、前から思ってたんだー!」
「見るだけだって!」
「えー?」
ミタケは話を聞かんタイプらしい。
まずそのギルドがどういう所なのか、わからんからなー。
たしかに次の働き口がみつかったのはいいんだけどね?
「漆黒の黒」より悪いとこって、そうそう無いような気もするけど、実際どうなんだろう?冒険者ギルド自体が、大体ろくでもない気がする。
っても他にあてもないし……すこし厄介になるくらいだったらいいかもしれない。
うん、気に入らなければ出て行けばすむ話だ。
なにしろ俺はスキルを使って戦えるという事が解ったんだ。
もう追放されたときまでの、惨めな俺ではない!
スキル「板前」はプリウスみたいな猛竜も倒せる。これは実際すごいことだ。
プリウスは本来、地雷や鉄条網で足止めしてから、対物ライフルを持った冒険者が狙撃して倒すものだ。それを俺は包丁一本で仕留めた。
板前の力がしっかり「暴力」としても使えるなら……ふふ、俺が冒険者として活躍することだって夢じゃないぞ!
伝説の冒険者ジョニー、いいじゃない!
俺はミタケと一緒に、ギルドが本部を構えているという街、「ヴァイス」へと向かうことにして歩き始めた。
しかしアレだな……ミタケはデカい。
身長はもちろん、尻もデカけりゃ胸もデカイ。
やっぱオニは食ってるモンが違うのか?
ふぅ、ごちそうしたようで、ごちそうになったのはどうやら俺のようだった。
こいつはすげぇぜ。
くだらないことを考えて街道を歩いていると、また別のモンスターに出会った。
そいつは道の真ん中で車をひっくり返して、めりめりと鉄板を引っぺがして、それをモリモリ食っている。なんちゅうバケモンだ。
あれは「アイアンゴーレム」だな。
本来は労働用として扱われるものだが、何らかの理由で飼い主に不法投棄されて野生化し、電線やら側溝、ガードレールなんかを喰うようになった害獣だ。
アイツもいってしまえば、この社会の被害者ではあるが、こうして野生化して暴れているのであれば、迅速にブッ殺さねばならないのだ。
実に悲しいものだ。
しかしこいつが電柱を倒しでもして、この一帯のインターネットが不通になったら、俺は寝る前にエロサイトを見れなくなる。なんとしても始末しなくては。
「おっアイアンゴーレムじゃん、一応ぶっ殺すか」
一応で殺されるゴーレム、マジ不憫だな。しかしここは……
「オレに任せてくれ、ミタケの姉さん」
「おー?」
「板前の力を見せてやるさ」
おれはホルスターから包丁を抜いて、腰を低くしてじりじりとアイアンゴーレムに近寄っていく。ふふ!オレの調理スキルを食らうが良い!!
オレはプリウスにやったように包丁をブンブン振り回すが、あの時のように真空波が発生したりはしなかった。
あれー?
「オイオイ、そんなとこで振っても、当たるわけねーだろ?ビビった?」
「ビビビビ、ビビッてなんかねぇーし!!」
そうか!
ゴーレムは
『ンゴー?』
アイアンゴーレムがこちらに気付いてしまった。
すると奴は、なぜか車から興味を失い、こちらに向かって走って来る。
ゴリラのように両手を使って走る様子は、重量感があってめちゃくちゃ怖い。
なんでだ!何でこっちに来るんだ?!
……ハッ!そうか!!
しまった!!包丁は質のいい「鋼」で出来ている!!
奴にとって包丁はゴチソウなんだ!!
うわあああああああああ!!!!
『ンゴゴーー!』
油断したオレに、ふたたび命の危険が迫ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます