つぎの働き口


「あー食った食った!」


 俺は、目の前の大女の、実に豪快な食いっぷりに感心していた。

 ミタケを名乗る、このオニ娘の食欲はすさまじい。


 彼女の「暴食」というスキルのおかげもあるのだろうが、とにかくちぎっては食い、ちぎっては食いを繰り返したおかげで、小山ほどあったプリウスの肉はすっかり消え失せている。

 

 しかしミタケは実に美味そうに食う。やはりうまそうに食ってもらえるのは良い事だ。俺は板前としての誇りが満たされ、つい嬉しくなってしまう。


「どった?何ニヤニヤしてんの?」


「すげー美味そうに食ってくれたなあと思って!姉さんすげぇよ!」 


「ハ!食っただけで褒められるなら、いくらでも食いたいね!」


「ウチは大食いで怒られることはあったけど、褒められるの初めてだ。あんた板前のジョニーとかいったっけ?」


「ああ、ちょっと前まで『漆黒の黒』の板前をやってたんだけど、そこを意味もわからず追い出されちまってな……」


「ふーん?なんかしたの?」


「いや、3年試用期間で働いただけだ。試用期間が終わったらクビをきられた」


 ふーん?と片方の眉を曲げて、うさん臭そうに俺をみるミタケ。

 何一つ嘘じゃないんだがなぁ……


「ま、ウソの臭いはしないし、ギルドに来いよ!『輝きの白』ってんだけど!」


「えー、聞いたことないトコだなぁ?」


「そりゃ新しめのトコだからな!とにかく見るだけでもいいから来いよ!」


「強引だなぁ……とにかく入るかどうかは置いといて、焼肉の代金の代わりに、そのギルドがある町までオレを案内してくれないか?」


「おっ、そんなんでいいの?」


「ああ。」


「おっし!じゃあ行こうぜ!!ウチのギルドにも板前が欲しいなーって、前から思ってたんだー!」


「見るだけだって!」


「えー?」


 ミタケは話を聞かんタイプらしい。

 まずそのギルドがどういう所なのか、わからんからなー。


 たしかに次の働き口がみつかったのはいいんだけどね?


 「漆黒の黒」より悪いとこって、そうそう無いような気もするけど、実際どうなんだろう?冒険者ギルド自体が、大体ろくでもない気がする。


 っても他にあてもないし……すこし厄介になるくらいだったらいいかもしれない。

 うん、気に入らなければ出て行けばすむ話だ。


 なにしろ俺はスキルを使って戦えるという事が解ったんだ。 

 もう追放されたときまでの、惨めな俺ではない!


 スキル「板前」はプリウスみたいな猛竜も倒せる。これは実際すごいことだ。


 プリウスは本来、地雷や鉄条網で足止めしてから、対物ライフルを持った冒険者が狙撃して倒すものだ。それを俺は包丁一本で仕留めた。


 板前の力がしっかり「暴力」としても使えるなら……ふふ、俺が冒険者として活躍することだって夢じゃないぞ!


 伝説の冒険者ジョニー、いいじゃない!


 俺はミタケと一緒に、ギルドが本部を構えているという街、「ヴァイス」へと向かうことにして歩き始めた。


 しかしアレだな……ミタケはデカい。

 身長はもちろん、尻もデカけりゃ胸もデカイ。

 やっぱオニは食ってるモンが違うのか?


 ふぅ、ごちそうしたようで、ごちそうになったのはどうやら俺のようだった。

 こいつはすげぇぜ。


 くだらないことを考えて街道を歩いていると、また別のモンスターに出会った。


 そいつは道の真ん中で車をひっくり返して、めりめりと鉄板を引っぺがして、それをモリモリ食っている。なんちゅうバケモンだ。


 あれは「アイアンゴーレム」だな。


 本来は労働用として扱われるものだが、何らかの理由で飼い主に不法投棄されて野生化し、電線やら側溝、ガードレールなんかを喰うようになった害獣だ。


 アイツもいってしまえば、この社会の被害者ではあるが、こうして野生化して暴れているのであれば、迅速にブッ殺さねばならないのだ。


 実に悲しいものだ。


 しかしこいつが電柱を倒しでもして、この一帯のインターネットが不通になったら、俺は寝る前にエロサイトを見れなくなる。なんとしても始末しなくては。


「おっアイアンゴーレムじゃん、一応ぶっ殺すか」


 一応で殺されるゴーレム、マジ不憫だな。しかしここは……


「オレに任せてくれ、ミタケの姉さん」


「おー?」


「板前の力を見せてやるさ」


 おれはホルスターから包丁を抜いて、腰を低くしてじりじりとアイアンゴーレムに近寄っていく。ふふ!オレの調理スキルを食らうが良い!!


 オレはプリウスにやったように包丁をブンブン振り回すが、あの時のように真空波が発生したりはしなかった。


 あれー?


「オイオイ、そんなとこで振っても、当たるわけねーだろ?ビビった?」


「ビビビビ、ビビッてなんかねぇーし!!」


 そうか!


 ゴーレムはから……板前スキルでは、どうにもできねぇのか?!


『ンゴー?』


 アイアンゴーレムがこちらに気付いてしまった。


 すると奴は、なぜか車から興味を失い、こちらに向かって走って来る。

 ゴリラのように両手を使って走る様子は、重量感があってめちゃくちゃ怖い。


 なんでだ!何でこっちに来るんだ?!


 ……ハッ!そうか!!


 しまった!!包丁は質のいい「鋼」で出来ている!!

 奴にとって包丁はゴチソウなんだ!!


 うわあああああああああ!!!!


『ンゴゴーー!』


 油断したオレに、ふたたび命の危険が迫ってきた。

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